105:血の道を歩む裏切りの祓魔師(side:アルメリア)
薄暗い部屋の中。
カーテンを閉め切った部屋の中で、私は壁に背を預けて座っていた。
部屋の中には無数の瓶が転がっていた。
それらは全て、薬が入っていたもので。
私はそれらを見つめながら――
「……ごは!」
胸に焼けるような痛みが走る。
瞬間、私は我慢できずに口から血を吐き出す。
咄嗟に手で押さえたが、指の隙間から血が漏れる。
服を捲れば、無理矢理に塞いだ傷口が蠢いていた……クソ。
薬は既に全て飲んだ。
それでも、痛みを完全に和らげる事が出来ない。
それもその筈であり、想定よりも力を使い過ぎた。
本来の計画であれば、別動隊が先輩の注意を逸らしている隙に。
私と私の部下がカブラギに潜入し、欠片の情報を探して天使たちの力を奪い取る計画だった。
が、私の想像以上にカブラギの警備は厳重で。
対悪魔に特化したセキュリティーが敷かれていた。
少々、手荒な真似にはなった。
その結果、プランに遅れが生じて……先輩が来てしまった。
戦闘になり、何とか退ける事は出来たが。
体に負荷を掛け過ぎたせいで、私の寿命もかなり減ったように感じる。
悪魔と天使の血によって身体能力や魔力の量や質は劇的に向上した。
しかし、体の中はボロボロであり。
“協力者”であるデイヴィ・ジョーンズの話では。
最終的に私は血によって己を変えられて、最後は理性無き獣になり果てるようだ。
悪魔でもない天使でもない。
力だけを持った獣であり……その前に、計画を完了させる必要がある。
私は呼吸を落ち着かせながら、手元の時計を見る。
そろそろ、アイツが来る頃だが――
「――はは、何だその様は。えぇ、元ケーニヒさんよ」
「……遅い、ぞ」
目の前に意識を向ける。
すると、そこにケガレが集まり形を成していく。
現れたのは、最初に会った時とは別物となった――デイヴィ・ジョーンズだ。
強膜の部分がどす黒く、瞳は黄金。
体の中心には風穴が空いていて、体つきは筋肉質だ。
赤い布ようなものを体に巻き、体中にはドクドクと鼓動する金に赤い粒子が駆け巡る文様が広がっていた。
二本の白い角を生やし、黒い髪は背中まで伸ばされている。
先輩の面影を感じる顔つきが私の心にずきりと痛みを走らせる。
奴は私の中の動揺を察して、にやりと笑った……下衆が。
「まだ、アイツの事が頭に残ってんだな。それは色恋のあれか? ん?」
「……そんな低俗な話をする為に、お前は此処に来たのか」
私は腕で血を乱暴に拭う。
そうして、片手を向けてやれば奴はため息を零し異空間から何かを取り出す。
奴は私の手にそれを載せてきて、私は確認もする事無くそれを自らの首に――刺す。
「……ッ……」
ちくりと痛みが走り、中に冷たい何かが流れ込んでいく。
それは一瞬で効果を発揮し、先ほどまでの痛みが嘘のように和らいでいった。
奴は私が落ち着いていくのを見て、首を左右に振る。
「……言ったよな。そう何度もそれを使うなって……お前、死にてぇのか?」
「……死など怖くない。お前は私に死なれたら困るだろうがな……よし」
注射器を投げ捨てる。
そうして、両手の感触を確かめてから立ち上がった。
奴は異空間からローブを出し、私に投げ渡して来る。
私はそれを羽織ってから、互いに情報の交換を始める事にした。
「俺は魔王様の命で動いていたぜ。欠片の捜索だ……ま、収穫は無かったがよぉ」
「嘘だな――“話せ”」
「……情報が入った。万人喰らいの一体が、腕利きの人間たちと交戦した。ケーニヒの出現で撤退したようだが、奴らあそこで何かを探していたらしい……その悪魔からの申し出で、“お前の大好きな奴らのコミュニティ”を紹介してやったら、喜んで協力するって言ってきたぜ……因みに、探し物は見つかったようだが、何処に持っていったかまでは不明だ」
「……そうか。なら、そっちを追った方が」
「――今度はこっちの番だぜ――“全部、話せよ”」
奴が私に命じた。
瞬間、私の口は勝手に言葉を紡いでいった。
「協力者からの情報で、カブラギに天使がいる事が分かった。欠片に関しても有力な情報が得られると考えていたが。何故か、魔王にはこの事は既に知られていて指令を受けた。ジュダスたちを含めた悪魔たちの“過剰戦力”を送られて……が、施設内のセキュリティの突破に時間を使い過ぎた。欠片に関しての情報収集は部下に任せたが収穫はほぼゼロだ。情報を収集した人間たちは役目を終えてすぐに帰還した。私は天使の血で作られたクローン部隊と先輩の分身三体と交戦になった為、力を使用して排除した。天使たちの力と先輩の力を少しだけ回収できた……が、その後にオリジナルの先輩と交戦。力を使い過ぎたが何とか退ける事が出来た……っ……先輩に、デウス・エクス・マキナ、の、危険性を、知らせて……っ……此方側についてくれることを、願って……っ!」
「あぁ、もういいぞ……へぇ、そんな事まで話しちまったのか……ま、“契約”に反していないから出来たってとこか……出来る出来ないにしても、結局、結果は変わらなねぇってとこか」
奴は顎に手を添えて自分の考えを明かす……契約は絶対だ。
デイヴィ・ジョーンズと協力関係を結ぶ際。
私は奴に対して契約を結ばせた。
いや、契約の話を持ち掛けてきたのはこいつだが。
内容を決めたのは私だ。
何の因果か。
敵との交戦で瀕死の重傷を負った私をこの悪魔は救った。
そうして、枷をつける訳でもなく。
悪魔の中でも、最も弱い存在たちのコミュニティを明かし。
そこで奴は私を匿っていた。
逃れる術は幾らでもあった。
隙だらけであり、奴が言っていたようにそこにいる悪魔たちは下級ほどの力も無かった。
が、私は少しでも多くの情報を持ち帰ろうとして……そうして、悪魔について理解してしまった。
彼らの中には、人間との共存を望む者たちもいる。
そういった者たちは、必要以上に人間を殺そうとはしない。
人間の商人と取引をして、違法に手に入れた臓器や血などを食べて生活していた。
違法は違法だ。だが、殺しをして人を食べる事はしない。
それだけでも、他の悪魔とは違うものだと分かった。
彼らは上等な餌である私を前にしても。
食欲を掻き立てられる事無く。
最後まで手厚く介抱してくれて、コミュニティを離れるその時まで見守ってくれた。
悪魔の子供たちも、私の事を家族のように思ってくれていた。
絆された。騙されている……自分でもそう思った。
だが、実際に目で見て触れた。
その結果、私の中には全ての悪魔を殺す以外にも手はあると考えた。
全ての元凶は、悪魔を生み出した――“魔王”だ。
私とこいつの目的は一致している。それは――“魔王を殺す”事だ。
「……お前がどれだけあの男を信じているかは知らねぇが……分かってるだろ? 俺の計画通りに進める事が、一番安全で、一番確かだって事がよぉ……強大な力を持つ同志で戦わせて、油断した瞬間に……なぁ?」
「…………分かっている…………だが、アレらがこの世界で戦えば…………少なくない被害が出る。先輩であれば、彼らの事を考えた上で舞台を移してくれる。私は必要以上に、人間を殺したくは」
「――どの口が言うんだ? 呪いを使って、人間どもの治療を妨げて時間稼ぎをした女狐がよぉ?」
「……っ」
奴は口を大きく歪めて笑う。
私の心を揺さぶって、こいつは楽しんでいる。
やはり悪魔であり、人の心を傷つける事が上手い……覚悟していた。
悪魔と協力する事は人類を裏切る事だ。
如何に、私の事を信じてくれる人間たちがいたとしても。
人類を裏切っている事に変わりはない。
彼らにとっては私は悪であり、許されざる者の一人だ。
悪魔に罵倒される事も、人類に唾を吐きつけられる事も――当然だ。
それでも、私はこの道を選択した。
例え、人類を裏切る事になったとしても。
魔王とデウス・エクス・マキナを葬り去る。
この世界には、神も悪魔の王も必要無い。
真に互いの事を思いやれる者のみが生きられる世界であるように……その為に、私は戦う。
「……本当に魔王を……奴らの力は……」
「……あぁ、それは保証する。あの方の存在が、我らに力を与えているようなもんだ……血の繋がりってやつかねぇ」
奴は告げる……嘘ではない。
契約によって、我々は互いに嘘はつけないようになっている。
真実のみを話し、その心の内までを明かす事になっている。
もしも、こいつが最初から私を騙す気であったのならば。
その時点で契約に反した事になって、こいつの存在は消滅していた。
それが無いと言う事は、こいつは今までの中で嘘を言っていない事になる。
心から信じた訳じゃない。
が、契約のお陰でこいつに必要以上に警戒心を持たなくなっていた。
元ケーニヒとしては失格だが。
今の私は祓魔師では無く、悪魔の一体と裏で動く裏切り者だ。
「……ま、兎に角だ。魔王様の力の欠片は見つからなかったようだが……次の目的は決まったな?」
「……あぁ、彼らが調べて見つけたもの……そこにはきっと」
私は言葉を続けようとして――心臓の鼓動が強くなる。
「――きっと、何でしょうか?」
「「……!!」」
声が響く。
次の瞬間には、私の肩に雪のように白い肌の男の手が載せられていた。
私は体を硬直させる。
すると、男は私が恐怖を感じていると察知してくすりと笑う。
男は鼻を鳴らして、私の髪を嗅いでくる。
私は抵抗も出来ずに、ジッと固まっていた。
「……んん、臭う。臭いますねぇ……血の臭いだ。湯あみ程度では落とせないほどに濃厚な血の臭い。ひどく不快な臭いの中に……あぁ、良い。良いですねぇ。嗅いだことのある匂いだぁ……上品であり、ワインのように熟成されて、嗅いだだけで脳がとろけてしまうような芳しい香り……貴方、会いましたね? あの――ランベルト・ヘルダーにぃ?」
「……っ!」
奴は笑みを浮かべる。
そうして、私の肩に置いた手に力を込めた。
凄まじい力であり、悲鳴を上げそうになった。
が、私は拳を握って必死に耐えた。
奴はそんな私の横顔を見つめて――
「おい、離れろや――俺のツレだぞ?」
「……あぁ、いたんですねぇ。申し訳ありません。私、あの男の事になると何も目に入らなくなってしまうもので……すみませんね、お嬢さん」
「…………っ」
奴はにこりと笑ってから私から離れる。
そうして、部屋の中を歩いていき。
ハンカチで口を覆いながら、指を振るってカーテンを開けた。
強い光が差し込んできて、私は目を細める。
奴はそのまま、窓を開けて換気を始めた。
「んん、換気は大事ですよ。埃塗れの部屋では、楽しい会話など出来よう筈がありません。ましてや、残り香程度でもあの男の匂いを漂わされていれば、気持ちが昂って間違いが起きてしまうかもしれない……それは嫌でしょう? ねぇ」
「……気持ちの悪い事言ってんじゃねぇよ。ストーカー野郎」
「ははは! ストーカーだなんて人聞き……いえ、人ではないですが。兎に角、ダメですよ。私はグルメであり、この世界で最も美味なるものを求めているだけです。あぁ、あの時の感動を。あの時の高揚感を、貴方方にお伝えできればこの気持ちも理解できるのでしょうが、分からないですよねぇ。ほんのちょっとなら味わったのかもしれませんが。この私だけが!! あの男の体を!! 余すことなく味わったのですからねぇ!! はははは!!」
「うるせぇぞぉ!! ゲームするなら声を抑えやがれ!! 朝っぱらからきゃんきゃんと――――…………」
奴が気持ちを抑えきれずに叫ぶ。
すると、外にいたであろう人間が怒鳴り声をあげた。
奴は冷めた目で外を見つめて指を向けて魔力を放つ。
細い線となったそれが放たれて、次の瞬間には人の声は止む。
「ゴミが、この私に指図するな……あぁ、すみません。まぁつまり、私はただあの男を食べたいんです。ただそれだけですから。ですので、ストーカーなどと呼ばれては――殺しますよ?」
「……」
「……っ!!」
奴が低い声で警告し殺気を放つ。
部屋全体が揺れて、壁に亀裂が走る。
デイヴィ・ジョーンズも殺気を放ち、互いに一触即発の空気となった。
息が苦しい。
酸素が吸えない。
私は口を閉ざし、滝のように汗を掻いた。
何も言えずに、嵐が過ぎ去るのを待って――奴が手を叩く。
「ま、いいでしょう! 仲間同士で争うのはよろしくありません。ましてや、貴方様は我々悪魔の中でも歴が長い。古株の貴方を殺してしまえば、魔王様も悲しまれるでしょうしね」
「……その口ぶりだとよぉ。テメェなんて何時でも殺せるって聞こえるがな――“十手・七掌、創世のベルクゥリ”さんよぉ」
「はは、まさかまさか……ま、捉え方は自由ですがねぇ。ふふ」
奴は笑う。
そうこの男は十手の一体であり、過去に先輩を喰らった事がある悪魔だ。
身長は百八十ほどあり、声は男ながら透き通るように綺麗に聞こえる。
体つきは服によって判断は出来ないが、力ある存在だからこそ鍛えられた体をしているのだろう。
腰まで伸ばした金髪に、力を示すように額から白い角を一対生やしている。
瞳は血のように赤く、顔は恐ろしいほどに整っており私はそれが逆に不気味だと思っていた。
貴族のような上等な衣服で身を包み、黄金などの装飾を体中に身に着けていた。
十手の存在は、協力関係になった段階でジョーンズから知らされていた。
地獄において最も恐ろしく力のある存在たちで。
特例以外で唯一、魔王との謁見が許された存在たち。
魔王を守護する存在であり、魔王の命があれば人間の世界にも行く事がある。
……ジュダスという存在は、先輩にとって宿敵のようなものだと聞いていた……そんな奴と同じほどの力を持った存在が十体もいる事には、絶望しかけたが。
現在のデイヴィ・ジョーンズでも、この男に敵うかは分からない。
奴自身もそういった話題に答えは無いと言っていた。
奴らの力は、その身体能力だけではない。
特異能力の中でも、理解できないほどの力を持っている。
特に、先輩を喰らったこの悪魔の力は想像を絶するものだ。
私は笑う奴を見つめる。
先輩にこの悪魔の力を知らせる事が出来れば――!!
奴が私を見て来る。
私は蛇に睨まれた蛙のように硬直する。
奴は暫く私を見つめて……興味を失くした様に視線を外した。
「まぁ雑談はここまでにして、本題に行きましょうか……お二人でこそこそと何かをされているようですが。魔王様の命により、私も微力ながら協力させて頂く事になりました」
「……協力だと? テメェ何を」
「あぁダメですよ。これは魔王様の命ですから。この意味が分かりますか? つまり、簡潔に申し上げますと――“私の指示に従え”」
「「……」」
奴は冷たい目で私たちを見つめる。
逆らえば一戦交える気か。
その真意は分からないが……魔王に怪しまれているのは確かだ。
過剰な戦力を送ったのも。
今回の十手の一人を監視者として置いたのも。
我々の行動を不審に思ったからだ。
私はチラリとジョーンズを見る。
奴は目を細めながら奴を見つめて――
「分かった。従うよ、ボス」
「……私も異存はない」
「はは、そうですか! それなら良かった……あ、これは友好の証として受け取ってください。どうぞぉ」
奴は笑みを浮かべながら、異空間から何かを取り出して私に投げ渡してきて……!!
「……これ、は」
「ん? それは“頭”ですよ。“人間の頭”で……あぁ! “祓魔師”です! それも名のある方で、確か名は……えぇっと……」
「――グレゴリオ。“巨岩”のグレゴリオ」
「あぁ、そうそう! そんな名でしたねぇ……まさか、お知り合いでしたかぁ?」
奴は目を細めて口を大きく歪める。
完全に私を試している顔であり、心の動揺を誘っていた。
巨岩のグレゴリオ。
それは、奴の言う通り名のある祓魔師で――“ケーニヒ”だ。
私が知っているケーニヒの一人で。
修道院の無いイタリナの出身者でありながら。
生身の状態で暴走トラックの体当たりを受けても無傷であるほどの頑強さから祓魔師の適正を認められた。
検査自体は受けておらず、その為見出されたのは成人を超えてからと遅かったものの。
偶然にも彼の頑強さを見ていたイルギスの教職員が彼の才能を見出し、その教職員の推薦もあって修道院に入学を果たした。
修道院に関しては首席で卒業し、僅か十年ほどでケーニヒに至った方だった。
体は二メートルを超えて、全身が巨大な岩のようにごつごつとして硬く。
肉弾戦を主体とした戦闘スタイルを好む方だった。
特異刻印もその身に移植していて、鉄壁の防御と相手の攻撃を反射する無敵の矛も持ち合わせて。
正に攻守一体のバランスの取れた強者であった。
年齢は私よりも上で、四十代ほどであったが。
年齢が下で歴だけが長い私に対しても敬語を使ってくれて。
とても優しく、信頼できるお方であった。
少ない交流の中でも、互いにケーニヒとしての信頼があって……そんな方が、私の腕の中で眠っている。
頭だけとなり、口と鼻から血を流し。
光の無い瞳で私をジッと見つめて来る。
ごつごつとした浅黒い肌の感触は冷たく。
僅かに腐臭がする事から殺されて日が経っている。
「……」
私は元同僚の頭を見つめて――“燃やした”。
白い炎によって燃やしていく。
頭だけであったが、ケーニヒであるからか皮と肉が燃えるまで時間を要した。
骨となった後も時間を掛けて焼いていく。
その間、ベルクゥリはキョトンとした顔で私を見つめていた。
骨すらも残す事無く焼き、それは灰となっていき……。
「おやおや? 燃やしてしまうのですか。勿体ないですねぇ。至高とは言えずとも、それなりに上等な土産だったのですが……」
「……俺は食わねぇよ。それに、腐ってたみてぇだからな……だろ?」
「……あぁ、腐っていた……食えたものじゃない」
手に残った灰を握りしめる……すみません。
殺されたグレゴリオさんの無念に胸を痛める。
もしも、可能であれば此処でこの悪魔を殺してやりたい。
が、もしもそれをしてしまえば魔王に我々の計画がバレてしまう。
少なくとも、独断で十手を殺したともなればジョーンズであろうとも私を庇う事は出来ない。
そうなれば、契約は無効であり……耐えてやる。
例え、これから先で仲間の屍を見る事になったとしても。
私は全ての罪を背負い――進んでいく。
迷いはない、後悔もしない。
先輩であれば、ランベルト・ヘルダーであればきっとそうしている。
どんな事があろうとも、己の選択に後悔しない。
そんな生き方を選んだあの方を私は心から尊敬している。
私もあの方のように強く生きて見せる。
私はゆっくりと手を開き、灰を床にまく。
その灰を靴で踏みつけながら、進んでいき……振り返る。
「挨拶は済んだ……仕事に掛かろう。指示をくれ」
「……ふふ、えぇ勿論ですよぉ……それではそれでは、先ずは――」
私はベルクゥリの言葉を聞く。
指示を全て聞き終えれば静かに頷き。
己の体にケガレを纏わせて刻印を起動し、静かに目を閉じて――――…………




