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【完結】祓魔師《エクソシスト》は休みたい  作者: うどん


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104/134

104:祓魔師は神を探しに向かう

 新東京内にある大病院――“聖命病院”。

 

「……」


 広い個室の中には、俺しかいない。

 大きなベッドが一つと花瓶には花が添えられていた。

 朝の陽光が窓から優しく差し込み、穏やかに眠る彼女を照らす。

 俺はただじっと椅子に座りながら、そんな彼女を見つめていた。

 

 早朝の時間であるが、部屋の外からは人の声や足音がずっと響いていた。

 名だたる名医が揃い、最新の技術を用いた治療を受けられる病院で。

 此処にも、多くの怪我人たちが押し寄せて治療を受けていた。

 

「……!!」

「……!?」


 無数の人間の声が聞こえる。

 ベッドに空きがない事や薬の数が不足している事。

 怒りや不安、そんな声がずっと聞こえていた。


 悪魔事件の発生の時は、近くの病院は多くの人間が押し寄せて来る。

 だからこそ、医療従事者たちは対魔局でも多数在籍し。

 有事の際には多くの人間が招集されて派遣される。


 新東京内では、既に公園や空き地。

 学校の体育館などを使って簡易的な治療所が作られていた。

 人的被害だけでも相当なものであり。

 怪我人だけでも軽く三千は超えているだろう。

 ケガレによる汚染で治療が必要なものを加えれば更に……。


 三日だ。

 三日が経過してもこれで。

 俺も先ほどまで寝る事もせず、ずっと治療をしていた。

 多くの病院を回り、簡易治療所でも治療に向かって。

 飯も食わずにずっと治療を続けて……それでもだ。


 救えなかった人間の方が多い。

 死んでから時間が経過していたり。

 カブラギで見た死体のように、呪いを受けていたり。

 

 時間を掛ければ救えた“かもしれない”。

 あの力を使っていれば助けられた“かもしれない”。


 ……意味ねぇんだよ。


 そんな可能性の為に、俺が判断を誤ればどうなる。

 一を救う事で、十を零せばどうなるか。

 効率だ。命の数によって救うべき人間を決める。

 そうすれば、多くの人間たちを救えるからだ……でも、そんな事で遺族は納得しない。


『待って!!! 待ってよ!!! まだ生きてる!!! まだ生きてるのに!!!』

『あぁぁぁそんなそんなぁぁ!!! ダメだダメだダメだァァ!! 行かないでくれ!!! お願いだ!!!』

『嘘つき!!! ランベルト・ヘルダーなら何とか出来るって!!! 助かるって言ってたのに!!!』

『それが祓魔師のやり方かッ!!!! 助けろよッ!!! 助けられるんだろッ!!! なぁ!!?』

『どこ行くの? お母さんは大丈夫? 寝てるの? おじさん。ねぇ、ねぇ』

「……」


 多くの遺族の怒りと悲しみ。

 子供たちの純粋な疑問や困惑。

 怒ってくれた方がマシであり、死を理解できない子供たちの言葉は“かなり効く”。

 

 首謀者である悪魔たちは既に俺が殺した。

 彼らは怒りをぶつけるべき相手がいない。

 だからこそ、都合よく祓魔師の代表である俺が現場にいればそれらをぶつけてくる。

 そうでもしなければ、彼らは生きていられない。

 立つこともできずに、進む事も出来なくなってしまう。


 ムカつくよ。腹がたって仕方がねぇ。

 ストレスはマックスであり、衝動のままに暴れ出しそうだ。

 無能であり、使えねぇゴミであり、どうしようもねぇクソで――“そんな自分が許せねぇ”。


 何が最強だ。何が人類の希望だ。

 圧倒的な力で、誰も死なせる事無く勝つ。

 それが出来なければ、俺は最強である筈がない。


 この手だけじゃ全てを救えないんじゃない――“全てを救うんだろ”。


 出来ない事なんてねぇ。

 必ず俺はそれが出来る。

 こんなもんじゃねぇ。もっとだ。もっともっと――俺は強くなる。


「……」


 拳を硬く握り、決意を漲らせる。

 最強であると名乗れるくらいには、俺は強くなる。

 ジュダスであろうとも十手であろうとも。

 完膚なきまでに叩き潰せるほどに、俺は……。


 ストレスが溜まっていた。

 その結果、俺の手は自然に煙草を掴んでいた。

 俺はハッとして煙草の箱を握りつぶす。

 そうして、ゴミ箱に投げ捨ててからベッドで眠っている――“ハリを見つめる”。


「……」


 仲間たちからもう十分であると言われた。

 蘇生するのは時間の経過で不可能で、傷を癒すだけであれば自分たちでも問題ないからと。

 アイツらから見た俺の顔は、よほど酷いものだったんだろう。

 髭を生やして、目にクマをつくり。

 頬は痩せこけて、目は充血して……鏡を見て、理解できたよ。

 

 どう見ても手は足りていなかった。

 まだまだ、治療を待っている人間たちはいただろう。

 しかし、ずっと動いていた奴らは俺の事を本気で心配していた。

 

 半ば命令であり、従う他なかった。

 だからこそ、ハリの様子を見に来た。


 彼女の蘇生は上手く言った。

 が、彼女は何故か目覚めなかった。

 アレからずっと意識不明の状態が続いている。

 原因は不明であり、何故なのか鳩野郎ですらも分からないと言う。


 ……心配さ。生意気でムカつくガキであってもな。


 穏やかな表情で寝息を立てるハリ。

 俺はそんな彼女を見つめて……扉が開かれる。


「やぁ」

「……」


 視線を向ければ――タクミ・カブラギが立っていた。


 服装は何時ものスーツ姿で、片手にはコンビニの袋を持っている。

 そして、片足には歩行の補助を行う機械が取り付けられていた。


 蘇生の結果は上手くいった。

 が、完全な蘇生は出来ず。

 彼は後遺症として片足の機能を失った。

 リハビリをしても、片足が動く可能性は低いという。

 呪いの後遺症であり、更に力を使う事は控えるように鳩野郎から言われた。


『呪いとは人の想像以上に厄介なものです。その力が強ければ強いほどに、呪いは染み込み離れない……無理に取ろうとすれば、大きな代償を払う事になるでしょう』

『……分かってるよ』


 散々、この体の呪いを解く為に頑張ったんだ。

 その結果、呪いの厄介さは身に染みて分かっていた……まぁ今となっては呪いじゃなかったがな。


 タクミ・カブラギには謝った。

 が、彼はこれで十分だと言って逆に礼を言われてしまった。

 俺は戸惑いながらも、娘の事も謝罪し。

 彼は悲し気な表情をしながらも、生きてくれたのならそれでいいと言ってくれた。


「……」

「……隣、いいかな?」


 ジッと彼を見つめていれば。

 彼は隣を指さしてきた。

 俺は頷きながら、椅子を引っ張って来て隣に置く。

 タクミは礼を言いながら隣に座り、袋から缶コーヒーを出してきた。


「甘いよ。これ。脳にはとても良い栄養だ」

「……」


 彼から渡された派手な色の缶を受け取る。

 缶はよく冷えていて、プルタブを開ければぷしゅりと液が少し出た。

 彼に促されるままに俺はそれに口をつけて……おぉ。


《……甘い》

「はは、だろぉ? 日之国の一部でしか売っていないものだよ」


 甘すぎるほどの甘みのあるコーヒーをちびちびと飲む。

 ゆっくりと息を吐いてから、俺は聞きたい事を聞こうとして――


 

「神、とは何だろうね」

「……!」


 

 意表を突かれた。

 俺は内心で驚きながらも平静を装う。


 彼はぽつりと言葉を吐いた。

 静かにコーヒーを飲んでから彼は語りだす。


「研究所が襲撃に遭った時、私は真っ先にあの部屋に行った。そこには貴方の姿をした人間が三人いて……あぁその事は責めないよ。何れは明かすつもりだったからね……天使たちを守る為に最善を尽くしたが、全ての防衛は突破されて。我らの保有する戦力も投入したが、彼女が一瞬にして全てを屠った。そう、瞬きも無い一瞬でだ……彼女は貴方の分身体から何かを吸い出し、私に対して質問をしてきた……“デウス・エクス・マキナ”は何処かと……私は知らなかった。知らない筈だった……しかし、その言葉で私の記憶の奥底からあるものが出て来た……私は答えなかった。その結果、心臓を貫かれて……ハリがやって来て私の姿を見て激高し……殺された」

「……」


 本当に一瞬だったのだろう。

 俺がやられた時のように、一瞬だ……だが、今はそこじゃない。


《……奥底から出て来たもの……それは何ですか》

「……分からない。いや、本当になんだ……何処かの場所なのか。地下なのか、地上にあるのかも分からない……それはとても大きく、とても恐ろしかった……きっと、アレが彼女の言っていたものなんだろう……機械仕掛けの神、か……アレが神であるのなら、私の願いはもう……ふふ、滑稽だね。真理を求めていたのに、その一端に私は既に触れていたかもしれないんだ」


 タクミは笑う。

 とても辛そうであり悲しそうだった。

 彼の願いは娘の未来ではあるが。

 元々の願いは世界の真実を解き明かす事だった。

 そして、己が手で平和の為の神を生み出すとも言っていた。

 が、彼の口ぶりからしてデウス・エクス・マキナは実在すると言ってもいいだろう。


 タクミは、静かに息を吐く。


「……頼みがある。聞いてくれるかな?」

《……何ですか》

「……デウス・エクス・マキナを――破壊して欲しい」

「……!」


 俺は僅かに驚く。

 彼にとって夢であった神であるのに。

 まさか、それを破壊するように願ってくるとは思わなかった。

 俺から説得して、居場所を聞き出そうとしていたが……。


「アレは危険だ。人類の手には余る……私には分かる。強大な力は、担い手の意志を遥かに超えて動いていく……今まで漠然としていた神というもののイメージは、アレを思い出した事で一変したよ……アレはダメだ。人類の意志で、制御できるものではない……これを持って行ってくれ」


 タクミはゆっくりとポケットから何かを出す。

 それは見た事も無い形状をしていた。

 材質も不明で少し冷たい。白いプレートに青い模様のようなものが浮かんでいるだけだ。

 受け取って確認してみるが、魔術的な力は無い。

 純粋な機械であり、これは何かと目で彼に訴えかける。


「……それは私の曾祖父であるゲンブ・カブラギが持っていた“鍵”だ……如何なる機械の解析でも分からなかった技術が使われている……私はカブラギの代表になった時に、それを父から受け継いだが。父もそれが鍵である事以外は知らせれていなかった……だが、今なら分かる。きっとそれはデウス・エクス・マキナに繋がっている。お願いしておいてなんだが、私から出せるものはこれだけだ……いや、一応、これも渡しておこう」


 タクミは端末を取り出して操作する。

 彼は俺の端末を出すように言ってきた。

 俺は素直に端末を出して……これは?


 送られてきたのは写真だった。

 が、一目見ただけで分かった。

 それは本物の写真では無く、絵に近いものだ。

 写真に近い精度で作られており、その絵には靄が掛かったような何かに包まれる得体の知れない何かが映し出されていた。


 僅かに見える情報では、足元に人のようなものが歩いており。

 靄が掛かっているものは恐らくは三十メートルから五十メートルはありそうだった。

 白い装甲のようなものを纏っているのか、或いは別の何かか。

 人型なのかも分からないが、絵を見ているだけでもかなりの威圧感を感じる。

 息苦しさであり、圧倒されているような感覚だ。


「これは私が見たものを機械によって解析し投射したものだ……どう、かな?」

「……」

 

 ……確かに、これだけじゃ地下なのか地上なのかも分からないな。


 建物の中のような気はするが。

 特徴的なものは何もない。

 いや、もやのせいでほとんど何も見えなかった。

 このもやは何かと彼に尋ねれば、彼自身も分からないと言う。


「……専門家によれば、これは記憶の不確かさからくるノイズのようなものらしいよ……まぁすぐに調べて持ってきたからね。そういった要因もあるんだろうが……悪いね。今はこれが限界だ」


 彼は申し訳なさそうな顔をする。

 俺は十分だと伝える。

 他に何か分かった事があれば連絡するように伝えて。

 俺は自らの端末のアドレスを書いた紙を異空間から出して渡した。

 彼はそれをポケットに入れる……さて。


《彼女の事は任せます。目覚めた時は連絡を……その間に、私も彼女の未来に役立つ事を探しておくので》

「あぁ助かるよ……それでは気を付けて。短い間ではあったが、君との交流は……私にとってより良いものだった。叶う事なら、これから先でも娘の事を――よろしくお願いします」


 彼は姿勢を正して深々と頭を下げる。

 俺は頬を掻いてから小さくため息を零す……堅苦しいな。


《……謂われずとも、彼女は私の生徒です……嫌だと言っても、教育してあげますよ》


 俺はにやりと笑う。

 最高の祓魔師にするさ。

 誰にも負けない最強であり、それまでは……“いや、違うか”。


 ずきりと心臓が痛みを発した。

 タクミは俺の変化にも気づかずに笑っていた……嘘になっちまうかもな。


 俺は踵を返して去っていく。

 最後までタクミは笑顔で俺を見送っていて……扉を完全に閉めた。


「……」


 取っ手から静かに手を離す。

 そうして、もやっとした気持ちのまま歩き出す。


 考えても仕方がない事だ。

 やるべき事があり、先ずはゾーヤたちと合流するのが先だ。

 俺は端末を起動して、先ほどの写真を歩きながら見る。


 デウス・エクス・マキナか……アルメリアはこれを俺に教えて何を……。


 俺は考える。

 アルメリアの考えを理解しようと努力する。

 俺は諦めていない。

 彼女はきっと目的がある。

 でなければ悪魔の元につくはずが無い。


 

 デウス・エクス・マキナがある場所を突き止めれば……“そこにお前もやってくるのか”?

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