103:祓魔師は裏切られる
空から降りる。
星空を塗りつぶすほどの黒煙が立ち昇り。
全てが真っ赤に映っていた。
「……」
燃えている。
全てが燃えて、灰になっていく。
轟々と音を立てながら――“研究所が燃えていた”。
カブラキ製薬研究所の建物が燃えている。
近くには心臓を刃物で貫かれた死体が転がり。
警備員たちも息絶えて転がっていた。
「……」
俺は死体に手を触れた。
まだ時間が経っていないのであれば蘇らせられると考えて……ダメだ。
治癒の術は発動した。
が、体が全く再生しない。
時間が経過したからか……少し違う。
何かしらの力が働いている。
治癒を阻害する何かであり。
死体の中でどす黒い何かが蠢いていると感じた。
俺は立ちあがる。
心の中で何もしてやれない事を遺体に謝った。
移動する。
燃え盛る建物を横目に歩いていった。
表の建物がこれであれば、地下の施設はどうなっているか……やっぱりだ。
カモフラージュをしていた木は破壊されていた。
半ばから破壊されて、無理矢理にエレベーターが出ていた。
既に機能は死んでおり、壁からむき出しになった配線から火花が散っていた。
下へと通じるエレベーターは完全に破壊されている。
俺はそれの中に入り、床を破壊して下へと降りる。
降りて、降りて、降りて――止まる。
半壊した扉。
両手を隙間に差し込んで、それを変形させて中へと入り……あぁ、まただ。
近くに転がる――“死体”。
死体だ。死体、死体、死体で……全員、死んでいる。
残っていたであろう研究員の死体たち。
恐怖に染まった表情で、真っすぐに手を伸ばして息絶えていた。
そのどれもが心臓を鋭利な刃物で貫かれている……いや、違う。
銃弾のようなもので殺されている死体もある。
壁には弾痕があり、蜂の巣にされた死体が惨たらしく転がっていた。
辺り一面が血の海であり、むせ返るような血と硝煙の臭いが広がっていた。
足を動かして進んでいけば、警備員たちの死体もあった。
抵抗したのだろう。
バリケードを築いた跡もあったが、破壊されていた。
手足が斬り飛ばされて、苦悶の表情で息絶えている。
知っている、会った事がある。
話をした職員もいて、この街の事を教えてくれた人間もいた。
その全てが殺されていて、その全てが死に絶えて……。
「……」
諦めていない。
まだ生き返らせる事は出来る筈だ。
が、今はそれよりも優先すべき事がある。
『……主様』
『……分かってる……急ごう』
鳩野郎の言葉で足を動かす。
俺は死体の山から目を背けて、静かに歩いていく。
怒りは無い。悲しみも無い。
ただひたすらに――空しかった。
「……」
警報機の音が鳴り響き。
非常事態を知らせるランプが赤く点灯していた。
室内は熱く、煙が立ち込めていた。
残っていればこんな事にはならなかった。
去らなければ対処が出来ていた。
そんな言い訳は意味がない。
此処に残れば、街は深刻な被害を被っていた。
何方かを取ったからこその結果だった……だからこそ、空しい。
足を進めて行けば、目の前に何かが飛び出す。
「撃てッ!!!」
飛び出したのは完全防備の兵士だ。
黒尽くめの装備に、ガスマスクのようなものつけている。
十人の兵士がライフルを構えて銃を乱射する。
俺は防御する事無く、全身で銃弾を受け止めた。
バラバラと弾丸が飛び、血潮が舞っていた。
全ての銃弾に貫かれて、俺はゆっくりと後ろに倒れる。
開き切った目で天井を静かに見つめる。
すると、無言で一人の兵士が近づいて来る。
ライフルを構えて攻撃を仕掛けようとし――背後に立つ。
「――ぇ?」
「……」
首が百八十度回転していた。
若そうな声の兵士はそのまま絶命する。
他の奴らが仲間の死を認識し攻撃を仕掛けて来る。
俺はそれを一瞬で避けて、すれ違いざまに奴らの首を折る。
全員が奇妙な動きをしながら銃を乱射し、そのまま倒れた。
ぴくぴくと痙攣しており、俺はそれを静かに見つめた。
「……」
悪魔じゃない……人間だ。
人であり、化け物じゃない。
殺した時の感触と動きからしてすぐに分かった。
ゆっくりと屈んで、兵士のマスクを取る。
すると、若い男の顔であり……違う。
犯罪者ではない。
リストには載っていなかった。
リストから逃れた人間でもない。
「……」
こいつらは確実に此処で多くの人間を殺した。
罪がない訳ではない。
――が、法の裁きも受けていない人間を俺は殺した。
あの時に殺したクズとは違う。
裁きから逃れて、のうのうと生きるカスではない。
法の裁きを受ける機会があった人間を俺は手に掛けた。
その事実を認識しながら、俺は片手で兵士の目を閉じさせる。
体から出た銃弾を指で摘まみ、観察する。
見かけはただの鉛弾だが、明らかに中に込めているものが違う。
魔力……いや、これは“呪い”だ。
先ほどの死体でも感じた呪いで。
治癒や蘇生を阻害するものであり。
ダメージを負った俺自身の傷の治りが今までよりも遅い事に気づく。
何の為にこんなものを用意したのか……分かるよ。
俺だ。
俺がいる事を知って、こんなものを用意した。
俺自身に有効なダメージを与える為――違う。
俺が職員たちの蘇生に時間を掛ける事で、時間を稼ぐ為だ。
「……っ」
歯を強く噛む。
弾を握りしめてバラバラに砕いた。
腐っている。何処までも計算高く、人の心を踏みにじっていた。
怒りはすぐに静まる。
ゆっくりと立ち上がってから、俺は先に進んでいった。
歩いていた足は速くなり。
気づけば走っていた。
進めば、進むほどに血の臭いが濃厚になっていく。
死体は増して、争いの痕跡も広がっていく。
壁や床には銃弾の跡や燃えた跡があり。
研究していたものは破壊されて、スプリンクラーが起動した痕跡がある。
「――! 止まれ!!」
「……」
扉の中から兵士が出て来た。
奴らが攻撃をする前に――殺す。
すれ違いざまに手刀で首を斬り付けた。
鮮血が噴き出して、死体たちは銃を乱射する。
騒ぎを聞きつけて別の部屋からも兵士が出て来る。
それらへと近づき、手刀で首を叩き折る。
短い悲鳴と銃弾の音。
錯乱した兵士が手榴弾のピンを投げて。
それを足で蹴り返し、そのまま奪った銃で敵の足を撃ち抜く。
そうして、部屋から飛び出せば爆発が起こり。
部屋から炎と煙が噴き出した。
中の奴らは爆散し、通路の奥から残りの兵士が出て来る。
俺は銃を構えて走る。
ライフルの弾丸が視界を埋め尽くし。
それらを魔力のみで弾いていく。
火花が散り、兵士たちが驚き目を丸くし――銃弾を放つ。
「ぅ!?」
兵士の一人のマスクに命中。
兵士は驚き取り乱していた。
統率に乱れが発生し、その混乱を利用して敵の一人に接近し足を折る。
ライフルを強引に奪って、他の兵士に乱射する。
奴らは銃弾を至近距離から受けて溜まらずに転がる。
防弾装備であろうとも、銃弾を受ければ痛みは生まれる。
兵士の首を折り、装備していたナイフを奪って転がる敵に近づく。
奴らは俺に攻撃を仕掛けるが、全てをナイフで弾く。
そうして、一瞬にして奴らの手足の腱を切断する。
「「「ぅあ!?」」」
「……」
これで抵抗は出来ない。
俺は一人の男の前に屈み、そいつのマスクを強引に剥がす。
そうして、髪を乱暴に掴んで顔を近づかせる。
俺は目を大きく開きながら、魔術による声で質問した。
「お前たちは誰だ。目的はなんだ。言え」
「……言わ、ない!! 我々は、決して、情報はッ!!」
「……!」
敵が大きく歯を噛み慣らす。
瞬間、かちりと小さく音が聞こえた。
俺は敵から一気に距離を取り――爆ぜた。
敵の体が破裂し。
爆炎が広がっていく。
俺は魔力を体に纏わせてそれを防ぐ。
ゆっくりと炎の勢いが収まっていく。
視線を向ければ、全ての敵がバラバラになっていた。
通路は瓦礫で塞がれて……関係ない。
俺は瓦礫に手を翳し――破壊する。
強力な炎の塊によって瓦礫を焼き尽くす。
道が開けて、俺は足を前へと動かした。
兵士の気配はもう無い。
アレが最後であり、通路や部屋の中には死体しかない。
俺はそれらを横目に見ながら走る。
走って、走って、走って――走った。
あの場所を目指す。
天使たちがいたあの場所へ。
胸騒ぎはずっとしていた。
此処へ到着したと同時に、結界のようなもので閉ざされていた空間が解放されて。
俺の分身が消えた事を察知して……クソが。
死体を超えて行けば、破壊された壁が見える。
全てのセキュリティが突破されていた。
俺は進む。
心臓の鼓動が早くなっていくのを感じながら走っていった。
走って、走って、走って走って走って走って走って…………。
「……」
ゆっくりと足を止める。
最後の扉も破壊されていた。
中へと入れば、明かりは消えていたが。
機材から出る火が、周りを照らしていた。
炎が燃え盛り、薄く煙が広がり。
死体が転がる中で…………“彼女は、いた”。
「……やはり、来たのですね……“ランベルトさん”」
「……何、してるんだよ……“アルメリア”」
ゆっくりと彼女が振り返る。
腰まで伸ばしたプラチナブロンドの髪。
切れ長の瞳は海のように澄んだ色をしていた。
端正な顔立ちで、絵に描いたような真面目さで。
弱き人を救い、悪を憎む。誰よりも優しく、誰よりも正しく生きていた女性――アルメリア・シリングスだ。
西洋剣を模した聖刃。
彼女が愛用していたそれからは赤い血が垂れていた。
全てのポッドの天使たちは死亡し、最期の一体も殺されたと感じた……いや、違う。
殺されてはいる。
が、その死体の状態は完全に異常であった。
綺麗だった彼女たちはズクズクに溶けて。
骨すらも腐敗し、液体となってポッドから垂れていた。
アルメリアを見る。
すると、妙な事に気づく……“若い”。
若干ではあるが、彼女の肉体が若返っているように感じた。
以前とは比べ物にならない魔力量に。
その体の筋肉質も向上し、ケーニヒであった時とはまるで違うと感じた。
その体からは白い炎が漏れ出しており……“近づいている”。
俺が発していた炎に近づいている。
いや、もう至っているのかもしれない。
模倣し生まれた偽物では無い……まさか。
「……力を、奪ったのか?」
「……流石ですね……えぇ奪いました。天使の力を。この私が……後悔などしていませんよ。これが私の選択です……カブラギは、今の私にとっては消すべき対象……此処を潰さない限り、混沌は広がってしまうから」
「……何を言っている。混沌だと……俺には、お前がしている事こそが、混沌に見えるぜ」
「そうですね。貴方はその場所にしかいられない。希望であるからこそ……だからこそ、この施設の歪さにも気が付かなかった」
「……!!」
アルメリアは剣についた血を払う。
瞬間、彼女の体から膨大な魔力が噴き出す。
その体は白い炎に包まれて、彼女は今此処で俺とやり合うつもりだった。
俺は視線を死体に向ける……最悪だ。
そこには顔なじみがいる。
研究員ではない。
俺の教え子である“ハリ・カブラギ”と“タクミ・カブラギ”が――“殺されている”。
他にもいた。
戦闘服を着こんだ人間たちで。
そいつらは体を切り刻まれてバラバラにされていた。
戦闘の跡は少なく、勝負は一瞬で決したと思えた……マジなのか。
アルメリア・シリングスが全ての敵を屠った。
カブラギの精鋭も、俺の分身も全て――“たった一人”で。
信じがたい事実。
だが、カブラギたちが死んでいるのは事実だ。
心臓を貫かれたのだろう。
口から血を流し、重ね合うように死んでいた。
どれくらいの時間が経っているのかは分からない。
もしも、時間が経過しているのであれば――武器を取り出す。
「……!」
「……」
互いの武器がかち合う。
アルメリアは炎を噴出させて俺を焼こうとした。
彼女の炎は強力であり、想像を絶する痛みが俺を襲う。
魔力によるものではない。
完全に天使の力による炎で――俺は彼女を弾き飛ばす。
彼女は回転しながら後方に下がる。
俺は呼吸を乱しながら己の傷を癒そうとした……あぁ?
傷が――“癒えない”。
いや、厳密に言うのなら治りが極端に遅い。
自己再生も機能せず、治癒の魔術も効果が薄い……呪いだと、そんな馬鹿な……っ!
俺はアルメリアを見る。
すると、奴は目を細めて笑っていた。
「……それが今の私の力です……“悪魔の血”と“天使の血”。二つの血が混ざりあい……私は貴方の想像を超えた」
「悪魔の血、だと……お前、それはッ!!」
俺は奴を睨む。
自分で何をしでかしたのか理解しているのか。
俺はそういうつもりで問いただした。
奴は悲しそうに微笑み、静かに頷く。
「……理解しています。私に起こる事も……ですが、私にはやらなければならない事がある……今の貴方には理解できないでしょう。それをして欲しいとも思いません……さぁ此処で私を殺しますか?」
アルメリアは両手を広げる。
俺は傷の治療を止めて奴を見つめる。
「……まだ、やり直せる。罪を償え。そして、帰ろう……お前がいる場所は、そこじゃねぇだろう」
「……貴方は優しい。悪魔に対しては砂粒ほどの慈悲もありませんが。人間に対しては何処までも慈悲深い……貴方の提案は飲めません。私は私の道を進みます。例え、世界で一番尊敬している貴方が敵となったとしても」
「……本気か。俺は、お前を殺したくない……世界何て、関係ない。俺は、お前が必要だ……お前がいれば、より多くの人間たちを、救えるんだ。だから」
彼女は静かに首を左右に振る……ダメ、か。
彼女の意志は固い。
考えを改める気は無いようだった。
説得は不可能であり、何をしても彼女は悪魔たちのもとへ行ってしまう。
俺は静かに息を吐く。
残念だ。すごく残念であり、死ぬほど悲しい――“でも、仕方がない”。
「……!」
「――」
俺は一瞬にして――アルメリアに攻撃を仕掛ける。
彼女は剣を振るって俺の攻撃を止めた。
俺は彼女に視線を向けながら、確実に殺す気で戦いを挑む。
「……やはり、貴方は変わらない」
「……」
最早、言葉など不要。
俺たちの道は分かたれて、彼女の心は敵のものとなった。
考えを改めず、多くの人間を殺すのであれば――敵だ。
俺は枷を解く。
彼女と同じように白い炎を吹かせた。
以前の不安定な力ではない。
完全に制御下に置いた状態で使用し――床を蹴る。
一気に彼女の周りを残像で囲む。
そうして、剣による連続攻撃を仕掛けた。
彼女はそれを全て刃で弾き、目にも留まらぬ刺突で俺の体を貫き――それは霞のように消えた。
彼女の背後に迫り。
俺は刺突の姿勢で刃を彼女の心臓に向ける。
そうして、彼女の無防備な背中から刃を突き刺した。
彼女は血を吐き出し、ゆっくりと振り返って――笑う。
「……!」
気配を感じた瞬間――全身を貫かれる。
アルメリア・シリングスが何人もいる。
全てが剣を持ち、俺の体を串刺しにした。
彼女たちは剣を回して白き炎を放出し、俺は全身を激しく焼かれた。
絶叫する事も無く。
激しい痛みの中で足掻いて――笑う。
「「「……!!」」」
全身から炎を噴出させる。
それらが彼女の炎を飲み込む。
分身たちは一気に焼かれて消え。
俺は離れた場所に立つ本体へと飛び掛かる。
彼女は目を細めながら剣を構えて、俺の斬撃を受け止めて――弾かれる。
壁を破壊し、突き進む。
彼女の勢いは止まることなく。
地下研究所の壁を何十にも破っていった。
彼女は壁に深々と埋まっていた。
俺はそんな彼女を追い掛けて、更に刺突で攻撃する。
彼女は腹を貫かれて血を吐く。
今度は本体であり、俺は一気に彼女の体を焼く。
「――――ッ!!!」
彼女は叫ぶ。
痛みによって勝手に声が出ていた。
そんな彼女を静かに見つめて――彼女の体からケガレが吐き出された。
それが炎を浸蝕し。
俺は彼女から離れた。
アルメリアはゆらゆらと立ち上がり。
俺が持っていた剣を腐らせて破壊する。
口からだらだらと血を吐き出しながら彼女は薄く笑う。
その腹の傷はケガレによって塞がれた。
彼女はケガレを体に戻し、片手で出した白い炎で埋められたケガレを焼く。
二つの力が混ざり合い、彼女の体には奇妙な文様が浮かび上がる。
血管のように赤く脈動し、傷口を中心に広がっていく。
元は綺麗であった白い肌は、一部が黒ずんでいた。
悪魔の血と天使の血。
その二つは強力だ……しかし、肉体への負荷は想像を絶する。
一つでも命の危機があるものを。
二つも入れているともなれば、寿命が一気に削っていくようなものだ。
そんな中でも意識を保ち、使いこなせているのはアルメリアだからだ。
彼女は脂汗を掻きながら、乱暴に血を拭って笑っていた。
「貴方が相手であれば、使う他ないですね」
「……」
奴は剣を構える。
いや、構えではない。
ただ脱力し、剣を下に下げているだけだ。
が、その姿勢を俺は構えであると認識した。
何かをする気だ。
俺はそう悟り、一瞬にして奴に近づき首を撥ねようとし――――
「――“零の刻”」
「………………ぁ?」
鈴の鳴る音がした。
その瞬間に、体から力が抜けた……いや、違う。
体の感覚が消えて、ゆっくりと視線が下がっていく。
頭が勝手に動き、床に転がった。
動きが止まり、視線の先ではアルメリアが剣を鞘に仕舞っていて……あぁ、そうか。
「お前、その体に……“刻印”が出来たのか」
「……えぇ、二つの力によって生まれたもの。誰にも宿す事の出来ない刻印です……貴方であれば、もしかすれば……ごほぉ!」
アルメリアは吐血する。
先ほどの術は相当な負荷が掛かるのだろう。
が、たった一回で俺は致命傷を負わされた。
傷も再生しない事から、俺を殺す気であれば今しかない。
アルメリアは俺に視線を向ける。
そうして、小さく笑った。
「……カブラギは天使を蘇らせた……ですが、それは人類の幸福の為ではない……カブラギの本当の目的は、天使を使って……一部の人間たちの“楽園を築く事”です……悪魔でもない、天使でもない……私のような存在を生み出し、悪魔も人間も、全てを支配する……“機械仕掛けの神”、それが世に放たれれば世界は終わってしまう」
「……カブラギが……そんな馬鹿な事が……カブラギが、そんな事を」
あり得ない、不可能だ……断言が出来ない。
タクミ・カブラギには親としての情が確かにあった。
が、あの時に彼が俺に話した言葉を覚えている。
『私は、この世界の真実が知りたい。そして、叶うのならばこの手で――神を生み出したい』
もしも、あの言葉が嘘偽りのない真実ならば……ふざけてやがる。
「……カブラギッ!」
俺は歯を食いしばる。
怒りや失望。それらが混じり合っている。
アルメリアは何も言わない。
彼女はすぐに俺の考えを見破ったのだろう。
今の言葉は、奴の言葉を信用してでたものではない――“疑念”だ。
もしも、神を作り出そうとしていたのなら。
何故、そんな重要な事を俺にタクミは教えたのか。
恐らく、タクミの願いは本物だ。
その願いが、対魔局の人間たちによって“何らかの細工”が施されている。
認識の操作、記憶の塗り替え。
考えれば何でもあるが……何かがあるのは確かだ。
対魔局は一枚岩ではない。
カブラギに関しても俺はまだ知らない事が多い。
そんな中で、アルメリアの言葉を聞いて……知りたくなったよ。
「……アルメリア、俺はお前の言葉を信用しない……俺はお前を――“諦めない”」
自分の言葉に驚く。
勝手に出た言葉だが、諦めないか……それはどういう意味なのか。
アルメリアは微笑む。
そうして、背中を向けて来た。
「……彼らを、対魔局を信用しないでください……彼らの願いは平和ではない。その対極のものです」
「……悪魔に、騙されている可能性も、あるがな」
「……そうかもしれません。ですが、私は自分で考えて答えを出した……貴方が力ある存在であるのなら、貴方にも選択する術はある……さようなら、ランベルト・ヘルダー……次に会う時に、貴方が真の英雄である事を」
「……クソが」
アルメリアは去っていく。
彼女の体はケガレに包まれて。
その姿は完全に消えてなくなる。
俺は歯を食いしばる。
見す見す逃がし、頭を悩ませる事を吐き捨てて……俺は口を動かす。
【――――“Heil werden《治れ》”――――】
力を使った。
すると、体に纏わりついていた呪いが一気に祓われる。
体は再生し、俺はすぐに服を着て……っ!!
その場に膝をつく。
口元を抑えてせき込めば……血がついていた。
「……やべぇな。おい」
『その力は何度も使用できるものではありません。少なくとも今の貴方様では、多用は出来ないでしょう……努々その事をお忘れなきように』
俺は鳩野郎の言葉に頷き。
ゆっくりと動き出す。
カブラギたちの死体に近づき、分析を開始して……クソ。
やはり、強力な呪いが施されていた。
治癒は上手く機能しないだろう。
他の死体たちもそうであり……懸けるしかねぇな。
俺はカブラギ親子を並べる。
彼女たちの開いた胸に手を置いてゆっくりと目を閉じた。
大丈夫だ。
まだ一回なら何とかなる。
他が救えなくとも、こいつらだけは絶対に。
俺はゆっくりと言葉を発する。
瞬間、俺の掌から黄金が混じった透明な炎が噴き出す。
それらがカブラギ親子の体を包み込んでいった。
「……!!」
全身に激痛が走る。
溜まらず口から血を吐き出した。
が、それでも意識を保って蘇生に専念する。
大丈夫だ。問題ねぇ。
約束したんだ。
絶対に死なせねぇって。
どんなにクソ野郎な自分でも、教え子の約束だけは守ってやる。だから――
「帰って、来い。タクミ――ハリッ!!」
炎の勢いが増す。
二人の体の中に浸透していった。
朦朧とする意識の中でそれを見つめながら、俺は――――




