100:覚醒する祓魔師
敵だ。敵だ、敵だ敵だ敵だ――敵たちだ。
「――――ッ!!!!」
俺は短剣を構える。
そうして、敵の群れに突っ込み刃を動かす。
すれ違いざまに悪魔たちの体を切り刻み。
そのまま全身に敵の血を浴びて、それでも尚、湧き出る悪魔たちに攻撃を続けた。
無限に湧き出る悪魔たち。
殺して殺して殺して――まだまだいやがる。
足を常に動かす。
常に眼球を動かし続けた。
手足に力を込めて刃を振るい――体に衝撃が加わる。
「……ッ!!」
体が横へと飛ばされた。
そのまま地面に足をついて滑り――顔が半分吹き飛んだ。
敵の攻撃だ。
単純な魔力弾による攻撃。
が、貫通性能が桁違いだった。
一体一体の強さは最上級を超えている。
殺したと思った奴らは傷を再生させて蘇っていた。
笑っている。くつくつと笑って目を輝かせて――うぜぇんだよ。
顔が熱い。すげぇ痛てぇ――問題ねぇッ!!
俺は頭を再生させた。
そうして、そのまま地面を滑るように移動する。
周囲の空間に魔力を集中させて、炎の弾丸を乱射。
弾丸は真っすぐに進み。
それらは悪魔の群れに迫り、奴らはそれらを両手で受け止めていた。
炎が広がり、炎海と化した。
そんな中でも奴らは笑う。
俺はそれでも弾丸を吐き続けた。
撃って、撃って、撃って撃って撃って撃って撃って撃って――撃ち続ける。
爆炎が広がる。
すると、悪魔の中で魔術の行使を確認。
大きな水流が発生。
それによって炎海が消化。
一気に水蒸気が広がっていき、視界が潰れ――悪魔共が動く。
腕を武器化し、俺へと攻撃を仕掛けて来る。
攻撃の軌道を読み、俺は回避。
体を動かして避け続けて、相手の胴体に刃を突き刺し体勢を崩す。
後方から迫って来た敵の刃をしゃがんで避けて。
そのまま敵の体から短剣を引き抜き振るう。
敵の足を捉えて斬り払った。
悲鳴が聞こえて、そのまま横へと飛ぶ。
頭上から弾丸が打ちこまれた音が響き。
そのまま煙の中を滑るように移動――来るッ!!!
無数の気配。
敵の殺気であり、それに体が勝手に反応する。
足を動かし飛んで、飛んでくる攻撃を短剣で弾く。
弾いて弾いて弾いて弾いて――肩と脇腹が抉られる。
体を回転させて敵を大きく弾く。
瞬間、怖気が走った。
広報に視線を向ければ巨大な拳が迫る。
飛び込んできた岩の如き一撃必殺の拳が頬を掠めた。
血が噴き出す。すかさず短剣で敵の腕を斬りつけた――が、通らない。
「――ッ!!」
「ハァァッ!!!!」
刃が途中で止まる。
筋肉によって刃を止め。
奴は残った拳で俺の顔面を打つ。
視界が弾けた。
鼻血が出て、歯が何本か折れて飛び出す。
顔面が大きくめり込んだ感触がした。
武器から手が離れて、奴は傷を再生し――拳打を放つ。
丸太のように太い腕から放たれる連続攻撃。
それらが俺の体をミンチのようにしていく。
視界が何度も何度も弾ける。
異形の悪魔は目を輝かせながら、楽しそうに笑い――奴の胴体に風穴が空く。
「――ぁ?」
「うぜぇんだよ、カスがぁ」
指を真っすぐに向ける。
異空間から出した聖刃の槍が奴の胴体を貫通した。
悪魔は目を回してそのまま倒れる。
死体が上にのしかかり――無数の刃が俺の体を貫く。
「けひゃひゃひゃや!!!!」
「クソ、がァァァッ!!!!!」
血を吐き出しながら叫ぶ。
同胞でも関係ない。
殺せるのなら刺して来るだろうさ。
奴らはぐりぐりと武器を回して魔力を流し――体が激しくスパークする。
激しく体が痙攣し。
血の泡を吹く。
目がぐるりと回りそうになる。
が、俺は歯を食いしばり耐えて――周囲一帯に強烈な光を発した。
「「「ぎやぁ!!?」」」
奴らは魔力の光を浴びて攻撃の手を緩める。
その瞬間に、俺は邪魔な死体を吹き飛ばし。
そのまま地面に落ちた短剣を魔術で引き寄せて振るい――悪魔たちをバラバラにする。
血が飛び散り、肉片がまき散らされて。
俺は息を吐きながらも、すぐに移動を再開する。
悪魔たちはまだまだいる。
殺しても殺しても、すぐに補充されて行く。
無限であり、地獄そのものであり――関係ねぇさ。
俺は殺す。
敵を確実に殺す。
どんな手を使おうが、確実に殺す。
悪魔をぶっ殺すのが――“俺の仕事だ”。
「――――ッ!!!」
叫ぶ。
魔力を解放し、疾走した。
風となり、黒い靄のケガレを放つ悪魔共を迎え撃つ。
縦横無尽に駆けながら、刃を操り続けた。
地を滑り、攻撃を回避。
すれ違いざまに敵の肉に刃を通し斬る。
魔力弾を飛んで回避し空を飛ぶ。
そのまま魔術を行使し炎の弾丸や風の刃で敵を牽制。
動きを止めた奴へと一瞬で接近し、心臓を穿ち首を落とす。
気配を断ち迫るクズは魔術の光で目を潰す。
攻撃の軌道がブレて、俺の脇腹を軽く抉った。
痛みを無視して、そのまま刃を敵の心臓に刺す。
敵は血を吐き、そのまま自爆をして俺は体を吹き飛ばされた。
全身が血まみれで黒焦げで――それでも俺は動き続ける。
「――その程度かァァ!!!!! クソ悪魔共がァァァ!!!!!」
「「「――――ッ!!!!!!!!」」」
俺は敵を挑発する。
プライドの高い悪魔共はすぐに頭に血が上る。
奴らは咆哮を上げて魔力で身体を強化し迫って来る。
俺は血に染まった口を大きく曲げて笑う。
両手の刃を広げて悪魔の群れに突っ込む。
黒く穢れた集合体へと突っ込み――痛みが走る。
全身が切り裂かれて傷口が焼かれる。
血が噴き出して内臓が零れた。
血が口から出て、それでも俺は声を出して笑い刃を振るう。
限界まで刃を魔力で強化し、俺は攻撃を続けた。
振るって振るって振るって振るって振るい振るい振るい振るい振るい振振振振振振――――…………
…………――――ッ!!!
目の前に迫った悪魔の口。
それに無意識に刃を刺す。
悪魔の血を顔面に浴びて、俺は悪魔の頭を蹴り飛ばす。
そのまま地面が近づいているのを感じ取り。
そのまま魔術を使い、ギリギリで空を飛ぶ。
灯篭を回避していき、水面から出て来た敵の噛みつきで足が食いちぎられる。
「――ッ!!?」
姿勢が乱れた。
ごろごろと地面を転がる。
刃を地面に突き刺して何とか止まる。
傷は再生し、足は戻っていった。
何とか立ち上がろうとして――体が揺れる。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ――まだ、まだァ!!」
俺は歯が砕けるほどに噛む。
力を加えて立ち上がった。
眼前の地面からは悪魔が這い出し。
空を覆い尽くすように悪魔たちは羽を広げて飛んでいた。
うざってぇほどに数が多く。
絶望的にキリがねぇ。
諦めてもいいほどであり――が、それは死んでも出来ねぇ。
サムたちが命を懸けて仕事を果たした。
だったら、アイツらに戦い方を教えた俺が諦めて良い筈が無い。
祓魔師は人類を守る盾であり敵を殺す矛。
そこに意志は存在せず、ただ目的の為に命を燃やすだけだ。
仕事だ。仕事なんだよ。
金を貰ってるんだ。
だったら――最後まで働けやァ!!
俺は口を大きく歪める。
笑みを深めながら、刃を構える。
敵たちは既に俺が満身創痍であると理解している。
だからこそ、我先にと五体の悪魔が飛び掛かって来た。
奴らは手をナタのように振るう。
俺は二つの刃を頭上に構えてその攻撃を受ける。
「ぐ、うぅぅぅッ!!!!」
「ひゃはははは死ね、死ねッ!!!!」
地面に足がめり込む。
魔力で強化された攻撃だ。
全身から悲鳴が上がっている。
力を抜いた瞬間に潰れる未来が見えた。
俺は歯を食いしばる。
「アアアァァァッ!!!!」
「「「――ッ!!?」」」
叫ぶ。そうして、体から魔力が噴き出す。
魔力を解放して身体能力を強化し。
そのまま奴らの体を大きく弾きばした
「潰れろッ!!!!!」
俺は叫ぶ。
瞬間、周囲一帯の悪魔共の体が勢いよく地面に沈んだ。
全力での術の行使であり、奴らは体を地面に縫い付けられた。
が、全ての悪魔を抑えらるほどの余力はない。
奴らは無理矢理に逃れようと立ち上がっていく。
俺の腕や額からは血管が切れて血が噴き出す。
俺は震えながらも片手を動かし――刻印を複数起動する。
「――|闇が喰らうは無価値な命ッ!!!」
術の名を叫べば、虚空に黒い塊が出現する。
それは勢いよく周りのものを吸い込んでいく。
悪魔共は逃れようとするが、体が宙に浮いて吸い込まれて行く。
悲鳴すらも消えていき、ケガレすらも飲み込んでいく。
俺は片膝をつき、その場に必死で留まった。
限界まで術を行使続けて――いや、ダメだ。
アレではこの空間そのものの破壊は出来ない。
ケガレ全てを消す事も不可能だ。
もし、無理矢理にしようとすれば俺自身も死ぬ可能性が高い。
俺は片手を動かして術を解く。
黒く巨大な球体は一瞬で収縮し消え去った。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ――がはぁ!」
呼吸が荒い。
口内が鉄錆の味に染まっている。
片手で噴き出した血を受け止める。
俺はそれでも何とか立ち上がった。
全ての悪魔が消え去った。
全てを飲み込めなかったが、これでケガレも少しは――胸から刃が出る。
「ぐぅ、あぁ――ク、ソ、がァァ!!!!」
「……!!」
俺は叫ぶ。
そうして、魔力を全身から発して強制的に悪魔を引き剥がす。
胸に刺さった刃を剣の柄で砕き、そのまま体を再生させて刃を体外に出す。
俺は後方へと吹き飛んだ悪魔へと肉薄し。
そのまま刃を高速で振るい――悪魔をバラバラにする。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ!!!!!」
呼吸が荒い。
再生した心臓が痛いほどに鼓動する。
汗が全身から噴き出し、口がカラカラに乾いていた。
全身が熱い。
炎と化したかのような熱さだ。
これは枷を解いた事によるものじゃない。
俺そのものを酷使したことによる疲労だ。
時間の感覚が希薄で。
どれほど此処で戦っているのかも不確かだった。
悪魔と戦い続けて、殺し続けて……が、まだだ。
悪魔共は水面から這い出して来る。
その体は無傷であり、魔力の質も量も変わらない。
ネームドにも届くほどの個体が、無限に存在しているんだ。
終わりは見えず、果てしない闘争が続いている。
俺の嫌いな残業だ。
蛆のように湧く悪魔共を殺さない限り仕事は終わらない。
何体殺した。
一万か十万か百万か――数えてねぇよ、クソがァ。
消え去った筈の悪魔共の反応が戻っていく。
瞬きの合間に、地面から這い出したそれらがケタケタと笑う。
絶望だ。絶望的であり、胸が痛くなるほどに――ムカついていく。
大好きな煙草が吸えない。
愛する酒もお預けだ。
シビレマメも摘まめず――ぶちりと何かが切れる音が聞こえた。
「クソがアアアァァァ――ッ!!!!!!」
「「「……!!」」」
魔力が荒れ狂う。
炎のようなそれからスパーク音が響いていた。
俺は全身を震わせながら、怒りで枷を解かない事だけに集中する。
そうして、獣のような姿勢を取り――地を蹴る。
音を置き去りにして駆ける。
奴らは呆けた顔で立ち尽くし――無数の頭が血と共に飛ぶ。
そのまま残りも殺そうとし――敵が俺の足を消し飛ばす。
「……!」
体勢が乱れた。
その隙を突くように、サメのような歯をした悪魔が俺の肩に噛みついてきた。
血が噴き出し、激痛が駆け巡り――俺も悪魔の肩に噛みつく。
「フギィィ――ッ!!!!」
「――――ッ!!!!!」
悪魔は鳴き声を上げて口を開けた。
その瞬間に、俺は敵の肉を噛みちぎる。
そうして、そのまま刃を振るって敵の体を両断する。
悪魔は絶叫し、そのまま崩れ落ちて行った。
敵はそんな光景を見ても襲い来る。
ケガレに包まれた敵が周囲を飛ぶ。
不可視の斬撃が風を切り裂き飛翔する。
俺の体は敵の斬撃によって傷だらけになった。
俺は歯を食いしばる。
痛みを無視して足を前に動かす。
姿の見えぬ敵を振り切り、迫って来た敵へと突っ込んで――切り刻んでいった。
「オオオオォォォォォォォ――ッ!!!!!!!」
俺は血を吐きながら叫ぶ。
己を鼓舞し、怒りと殺意のままに刃を振るう。
目の前が真っ赤に染まり、最早、己の血か敵の血かも分からない。
痛みを感じても動き。
手足が千切れようとも敵を食いちぎる。
聖刃がボロボロになり――砕け散る。
武器が無くなり交換しようとして――全身が穴だらけになる。
「……かはぁ」
血が大量に口から出た。
足が止まり、体が不自然に揺れる。
虚空から声が響いてきた。
俺を嘲るジジイの悪魔の声だった。
「ククク、哀れだなぁ。ランベルト・ヘルダー……もう、終いか?」
「うるせぇ……うるせぇ……うるせぇぇぇぇぇッ!!!!!」
俺は傷を即時再生させる。
そうして、拳を握り――背後から忍び寄って来た敵の頭蓋を砕く。
脳漿が飛び散り。
俺はそれを受けながら、全ての敵に対して拳打を叩き込む。
打って、蹴って、打って蹴って打って蹴って蹴って蹴って打って――まだまだだァ!!!
痛みが走り、視界が暗転。
意識を覚醒させて地を駆ける。
両手を振るい悪魔共を殺し、両手が千切れれば蹴りに切り替える。
足を失えば、再生した手で地面を叩き飛んで敵に噛みつく。
痛みで絶叫する敵の顔を食いちぎり、そのまま向かってきた敵に汚ねぇ肉片を吐き視界を潰す。
一瞬にして足を再生させて、そのまま回し蹴りを放つ。
殺して、殺されて、殺して殺されて――
殺して殺して殺して殺して殺して――――
殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し殺し――――――
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺――――――――
――あぁ、何だ――すげぇな――ふわふわして――あったかくて。いや、冷たくて――何だか、なぁ――
『………………あぁ?』
感じる。
形容しがたい何かを感じる。
今、俺は必死こいて悪魔共と戦っている。
無限に殺して殺されてを繰り返していた。
それなのに、今の俺は自分自身を――“別の世界から見ているように感じた”。
テレビで自分を見ているようだ。
ゲームで自分を操作しているようだ。
いてぇし、くせぇし、気持ち悪いし。
最悪な気分で、くそほどだりぃが……何も思わねぇ。
――“俺は誰だ”?
――“俺は何だ”?
――“今、見ている奴は何なんだ”?
疑問が駆け巡る。
分からねぇ、理解できねぇ、知らねぇ。
至極当たり前の疑問で…………あぁ…………あぁ?
『“生と死の狭間”、ですよ――我が主』
『――――あぁ、そっか――――此処は、狭間か――――』
理解した。
アレは俺だが俺じゃない。
そして、俺も俺ではない。
難しい事ではない。
俺はランベルト・ヘルダーの影。
狭間の中で、見ているだけの存在だ。
何もしないし、何も出来ない。
ちっぽけな存在で、どうでもいい存在で――“意識がある”。
狭間の世界で、戦っている俺が見えている。
狭間の世界で、死んだ世界を感じられる。
奴が死ねば此処を通り、浅い境界で戻っていく。
本当の死は存在せず、此処を通っていくだけだ。
ただの通り道だ。
そこに俺がいるだけで――やる事がようやく理解できた。
俺はうっすうらと見える道に触れる。
すると、透明だったそれは光り輝く。
真っすぐに暗く冷たい世界へと繋がっていく……“いるんだな、そこによ”。
ジッと息を潜めて、表に出ないようにし。
完全に眠っている状態でそれは存在する。
不思議に思った事は何度もあった。
死を体験する事で声が戻るなんて奇妙だ。
それでも死ねば、俺の声は戻って――が、それは違う。
声そのものに力がある。
その声は本来の持ち主の声ではない。
アレは奴の力の一部であり――死が世界を繋げる。
俺という存在が死を経験すれば。
奴の力は湧き出て来る。
奴の眠りが覚めていき、覚醒するに至る。
鳩野郎が言っていた生と死の狭間を正しく理解する事ってのは――こういう事だ。
『道は繋がった――さぁ、やっちまえよ。“俺”』
俺は笑う。
そうして、意識がゆっくりと沈んでいき――――…………
…………――――意識が、覚醒した、のか?
「……?」
気が付けば、俺は立ち尽くしていた。
全身が血まみれで、手足に力が入らない。
戦闘服は既に無くなっていて、肌が見えないほどに血に染まっている
意識は朦朧としていて、今にも死にそうだった。
限界であり、何も出来ない状態で――でも、違う。
ちゃんと立っている。
呼吸も乱れていない。
再生も出来ていて、周囲の状況も分かる。
殺せたのか、殺したのか…………いや、違う。
拍手が聞こえた。
パチパチと手を叩いている。
ゆっくりと顔を上げれば、ジジイの悪魔が立っていた。
「素晴らしい。素晴らしいぞ。流石は人類の希望だ。万を超える悪魔の軍勢。一個体でも貴様たちのいう最上級を凌駕するほどの力を有していた。それを貴様は見事に殺し尽くした。敵ながら天晴だ。ははははは――――が、もう十分だろう?」
「……」
奴は拍手を止めて笑みを消した。
すると、音も無く悪魔たちが出現し――広い空間内を埋め尽くした。
「本気を出せない貴様を殺しても、私には何の名誉もありはしないが。これも魔王様の命である。死にぞこないの貴様は此処で私の糧となれ……私の血肉となり、我が力を高めるのだ。それが貴様が最後に出来る仕事だよ。ランベルト・ヘルダー」
「………………仕事、か」
俺は掠れた声で呟く。
奴はそのままケガレに包まれて姿を消す。
悪魔共はケラケラと嗤いながら歩を進める。
欲望に塗れて、唾をだらだらと垂らし。
俺を喰いたくてたまらないって感じだ。
俺はそんな奴らを見ながら、ゆっくりと血に濡れた己の手を見つめる。
「仕事、か…………あぁ、そうだ…………仕事、だ…………仕事なんだ」
仕事……仕事だ……あぁ、そうだな……
「「「――――ッ!!!!!」」」
悪魔共が叫ぶ。
勢いのままに飛び掛かって来る。
時間がゆっくりと進んでいく。
悪魔共のくせぇ息が掛かり。
すぐそこに死が存在する。
今から殺される。
骨すら残さず食いつくされる。
今の俺は奴らにとっての晩飯だ。
デザートかもしれない。
奴らの欲望が、奴らの願いが手に取るように分かる。
視界が暗くなっていく。
周囲に隙間が無くなっていった。
光は消え失せて、俺は絶望に包まれて行く。
俺はそんな状況の中で、小さく微笑み――白き火を灯す。
【――――“Erwache”――――】
理解できなかった言葉。
それを心で理解し、言葉として発する。
瞬間、周囲の悪魔たちは消し飛び白い塵が舞っていた。
体にこびりついていた血がぺりぺりと剥がれていく。
それが宙を舞い、白い塵となって消えていった。
全身が“浄化”されて、周囲のケガレが祓われて行く。
「……」
白き炎が体から静かに発せられた。
それが俺の体に黒い戦闘服を纏わせていく。
疲労も無くなり、痛みも感じない。
寧ろ気持ちが良く、体が羽のように軽かった。
外見の変化はない。
が、明らかに今の俺は――“覚醒状態”にあった。
声が響く。
震えた声であり、驚嘆と――“怯え”を感じた。
「……馬鹿な……そんな筈が……あり得ない。枷を解く事など、出来る筈が」
「……あぁ、出来ねぇよ。不完全な枷じゃ意味がねぇ。だからこそ――“叩き起こした”」
「――ッ!! 戯言を……ならば、そんな貴様を殺してやろうッ!!!! 何時までその状態が維持できるか、試してやろうぞッ!!!」
悪魔共が復活する。
その力は先ほどよりも増したように感じた。
その数はサーチをしただけで百万を超えていると分かった――が、関係ねぇ。
俺は脱力した状態で静かに敵を見据える。
発せられる魔力は一定で、川の流れのように静かだった。
そんな中で俺は迫り来る敵を見据えながら――静かに微笑んだ。




