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景色

「あー、ケーキおいしかった………ごちそうさま〜」

 呼び鈴を鳴らして、窓の方へと向かう。窓は夜なので流石に少し開けるだけにしていた。

 窓を開けると、バルコニーには椅子が置いてある。これは私が二階の部屋から取ってきたもの。

 昼間もそうだったが、ここは崖に張り付くように建てられているため吹きっさらしだ。よって風がふくと寒い。

「流石にカーディガンとか欲しいな……先に取りに行くか………」

 庭には廊下のランプの灯りが漏れていて、薄明るくなっていた。花の色を見分けるのは難しいが、道は迷わない。

「おお〜中暖かい」

 衣装部屋(仮)は暖房でも入っているのか暖かかった。この建物のランプは魔法で燃えているから、熱は発しない。

「薄いのって確かこっち側に………ん?なんだこのカーテン………ああ、お風呂と繋がってるのね」

 疑問であり若干の懸念が解決して良かった。お風呂上がりに実質裸で廊下には出たくなかった。絶対風邪引く。

「………あった。ちょっと長いけど、まあ大丈夫でしょ」

 見つかったのは腰くらいまで裾の長いタイプのカーディガン。短いのはなかった。

「長いのってロマンあるよねー………良かった、寒くなさそう」

 少し駆け足でバルコニーに戻る。カーテンを少しずらして中を覗くと、机の上は綺麗に片付けられていた。

「ありがたいな〜………ありがたいけど………このままだとめっちゃダメ人間になりそう」

 髪を手で押さえつつ市街地を眺める。窓からの光を私自身が遮っているため、とてもよく見えた。

「こうやって見ると、星空に見えなくもない………かも?」

 昼間は同じ色の屋根がずっと続いているなーとしか思わなかったが、夜になると違いがよくわかるようになった。

「こっから見て真下の……宮殿の近くが一番明るいのは、貴族とか、上流階級の人達が住んでるから、かな。こうやって見ると、光ってるところ同士の距離が大きめだな」

 この都市は中心の王宮に近づくにつれ標高が上がっていく、わかりやすいピラミッド構造をしている。

 実を言えば一番明るいのは丁度真下にある王宮の旗尖塔なのだが、当然見えないのでわからない。

「あそこの緑に光ってるところが正門だから………やっぱり、大通り沿いに灯りが集まってるんだな」

 朱雀大路みたいに正門から宮殿に向かってまっすぐ伸びる大通りは、式典の時は絶対パレードに使うんだろう。

「でも、近い方でも真っ暗なところはあるし、外側でも一箇所だけ明るいとか、例外はそれなりにあるんだろうな。いや、近い方は貴族なんだし庭か」

 一通り下は眺め終わったので、今度は本当の星空を見ようと目線を上げる。といっても、ほんの少しだけど。

「そういえば、月蝕使った時にも思ったけど、この世界って月ないんだよね……お陰で星がよく見える」

「あそこに赤い星………あっちに白っぽい星が固まってる。牡牛座の………すばるみたいな感じなのかな?こっちにも星座とかあるのかな、いつか調べてみよう」

「………いや、わざわざ頼む必要はないのかも。あそこの部屋に本棚あったよね?」

 思い出されるのは私が椅子を攫ってきた普通の部屋。すりガラスの棚を開け閉めしていると………

「………あった」

 棚には分厚い革表紙の本がずらっと並んでいる。全体的に暗めの緑とか赤とかが多い。

 星の本どうかはわからないけど、街に出る目的の一つである知識を得る、というものは達成できそう。

「とりあえずはお風呂入って、いつでも寝れる状態にしてゴロゴロ読もっかな」




 ★

 若い男性が受話器に向かって何か話し込んでいる。

「………はい。新しい報告です。サリュア王国に、精霊と推定される高魔力体が確認されました。王国は一月後に建国祭を控えており、そこで存在を公表すると見られています」

『………………わかった。ご苦労であった』

 相手が短く返答を返す。電話を通しているからか、それとも素なのかはわからないが、くぐもった低い声だった。

「………はっ」

 男性は略式の敬礼を取ると受話器を置いた。

「どうだった?」

 にやにやと笑った同年代の男性が数名部屋に入ってくる。面白くて仕方がないといった顔だ。

「は〜めーっちゃくちゃ緊張した〜」

 男性はさっきまでの緊張した面持ちを崩して親しげに話しかけると、肩を叩き合いながら出ていった。

「というか、声やばくないか、あれ」

「あー、やっぱりお前もそう思うよな、あれ、素らしいぞ」

「マジで?信じられねえ。俺らも年食ったらああなるのかよ」

「にしても、災難だったな〜エリート君。伝達役なんてつまんねえ役渡されてよ」

「本当だよな〜。あいつの後継者育成なんてくだらねえもんに巻き込まれちまってよ」

「辺境の中隊長になったって何も美味しくねえよ。本部の事務役より給料低いって話だぜ?」

「え〜マジ?でも俺本部に行く気はあんまないんだよね〜なんか怖そうじゃん?」

「わっかる。あんなのが沢山いるとか地獄だよな」

「な〜。じゃ、今日の昼飯何にする?」

「───」

「──」

宮殿/王宮

指すのはどっちも同じ。王様のいるあそこ。正式名称はシュミラ王宮。建てた王様の妻(正妻。愛人の名前なんかにしてたら国が滅んでた)の名前から。主人公はベルサイユ宮殿を思い浮かべている。

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