食事
「お食事でございます」
あれから庭でぼんやりとしてたら、暗くなって来た頃にメイドさんが声をかけてくれた。
部屋に戻ると、それなりに大きなテーブルには豪華な食事が所狭しと並んでいる。
「美味しそう」
率直な感想を呟くと、
「料理長が腕を振るった力作です。私は別の部屋におりますので、何かございましたら呼び鈴を鳴らして下さい」
と言って丁寧なお辞儀と共にすぐいなくなってしまった。
「………さ〜て、何から食べようかな………まずこれ材料は何なんだろ………」
「………ま、私テーブルマナーとかわかんないし、いなくなって貰って良かったな」
テーブルに置かれているのはナイフとフォーク。西洋風の感じから想像はしてたけど、箸なんて影も形もない。
「とりあえず目の前のこれ………何だろ、黒豆?」
綺麗な赤い模様のついた陶器の皿に盛られているのは黒いコロコロとしたもの。食べてみると、甘い。
「………お〜、おいしい」
「これは………葉っぱと色とりどりの野菜………?あっちは見るからに肉って感じだし………」
「………ふう、割とお腹一杯………どぎつい味付けのが多いかと思ってたけど、食べれるのが多くて助かった」
全体的に塩味が強い感じがあったけど、口の中の水分が持っていかれるほどではなかった。
「えーっと、呼び鈴は………これか」
壁につけられたインターホンみたいなものから伸びている紐を引っ張ると、どこからかカランカランと音がした。
「今の………鈴ってより土鈴っぽいな」
「お呼びでしょうか………お下げいたしますね」
テーブルを見て一瞬で察してくれたメイドさんがお皿を片付ける。残してしまったものがあったけど、顔色一つ変えなかった。出入りを繰り返しているので気になって覗いたところ、どうやら部屋の外にワゴンがあるらしい。
「こちら、デザートでございます」
「!」
一旦ナイフとフォークまで片付けて机を拭いたあと、新しいお皿を並べていく。
並べられていくのは、さっきまでのより遥かに色とりどりのデザート達。
弥生土器で見るような長い脚付きのお皿に盛られたアイス(ジェラート?)やグラスに入って層が綺麗に見えるケーキなどが沢山並んでいる。………これ、お皿の数だけで考えるとさっきと同じくらいない?
「(デザートは別腹っていうし大丈夫でしょ)」
「それでは、また何かございましたらお呼び下さい」
静かに扉が閉まる。少しの間耳を澄ませていたが、ワゴンの音は聞こえなかった。
「魔法使って浮かせてるか、転送してるかってことか………ま、食べてから考えよ」
「………アイス、甘味ちょっと薄い?………シャーベットだと思おうかな」
「うわっ、このマドレーヌめっちゃバター………背徳感の味がする〜………」
「果物も鮮度わりとちゃんとしてるな………ゼラチンはないのかな?」
「………………」
「もう、無理かも………残ってるの、置いてって貰うのっていけるかなー………」
「………今、何時なんだろ………まだ、7時………?」
フラフラと呼び鈴を引っ張る。
「お下げいたします。こちら、回収いたしますか?」
「いや、置いといて下さい………」
「承知いたしました。こちら、お飲み物と………お手紙になります」
「?」
「お手紙の内容について、王からの言伝がございます」
王?王ってことはあのおじいちゃん?
「何?」
「我が国は、初代国王が精霊と結ばれて加護を受けたことで国を興したとされています。そして、精霊はそれ以来この国を守り続けている、とも。そのため、毎年建国を祝い、精霊を讃える祝典が行われています。今年も、一ヵ月後に開催を予定しております」
「………そういうこと?」
「ええ。特に、現在我が国は隣国と小規模ではありますが戦闘状態にありますから」
「………そう、なら出てあげる」
「感謝致します」
そういって一礼すると、部屋を出ていった。
「………紅茶かな、これ。おいしい」
出された時には薄っすら湯気が上がってたけど、今は程良い感じになっている。
気をつけて静かにカップをソーサーに置くと、置いていかれた手紙を手に取る。
封筒は真っ白で、滑らかな手触り。細かい模様の入った旗を10円玉と同じ様に葉で囲んだ赤い封蝋で閉じてある。
封筒が置かれていた場所に何かある。それは鈍い光沢を放つペーパーナイフだった。
「至れり尽くせりじゃん」
丁度開け方がわからなかったところだった。ありがたい。
「にしてもペーパーナイフなんて懐かしいな……小さい頃折り紙とか切りまくってたのが最初で最後な気がする」
「………ほいっと、上手く切れた。なんか得した気分」
「中身は………手紙一枚だけか。内容は………おお、読める。まるで母国語のようだ」
さっき話してくれた内容とあんまり変わらない………ん?『5/13』?………ってことは………
「今、四月ってこと………」
「………………いや、まあそうか。ここは地球じゃないもんね、気候の一つや二つ違うこともあるよね」