侵入
時は少し遡る。
☆
暗くなって来た。街は大分近づいて来たけど、このままだと着くころには夜になってしまう。
「どうしよっかな………ここで野宿ってのもなんか嫌だし」
今の季節は秋、だろうか。夜の方が長い。この時間になると、肌寒くなってくる。
「………ん?何か、光った………?」
「近づいてみようかな」
城壁の周りは木が伐られ、潜伏は無理そうだ、と思う。
そしてなにより、城壁は緑の光の膜に覆われていた。光を通すのか、非常に見にくい。
「膜………かな?オーロラみたい」
「触ったらどうなるんだろ………うおっと」
触れた指先が静電気が走った時のように痺れ、弾かれた。
「ダメかー………ザ・入口っぽいところも人いなかったし………どうしようかなぁ〜………」
「これを破る………いや流石にダメか。侵入者になっちゃう」
「てか、まず何これ………結界ってやつ?鍵開けみたいなのできないかなー………」
「上からとか………うっわ、ダメそう」
下がって眺めてみると、城壁の上に緑の光が並んでいて、上にも膜がひろがってるのが見えた。
「も一回触ってみるか………鍵開け、解析?できるかもだし」
「痛っ、このやろ、おらっ!」
「………あれ?」
静電気の攻撃に構わず突っ込んだ手が、なんと膜を貫通していた。
「え、えぇ〜………」
城壁をペタペタと触る。石がしっかりと固められてる。
「………一回抜こ。手首めっちゃ痺れてるし」
「………本当、何これ。どうやったら正式に入れ………あ、もしかして、名乗り口上がいるとか?いや、恥ずっ」
「………………」
「………劇的な登場、いっちゃう?」
対話に応じてくれるなら、それが一番手っ取り早いんだろうけど………
「………や、やるかぁ………」
めちゃくちゃやりたくないけどしょうがない。コラテラルダメージ。コラテラルダメージ。
「まず登場の仕方………上から突っ込むとか?」
「いや、待て………これだと入りましたはい終わりとはならなくね………?」
「精霊とか、そっち系にすれば、行けるか………?」
「後は………あっ!待って、忘れてた、縮小、しないと………」
外に出る魔力を削れる魔法。長距離移動だからって外してたんだ、忘れてた。………え、何でそんなことしてるのかって?………いや、なんとなく、としか………
いや待って、違う、違うんですよ刑事さん。何と言うか、こう………本当の力を隠す系って、ワクワクしません?
「………よし。これで、いいかな………?」
「(深呼吸)」
「設定の確認しまーす。私は光の精霊で、名前、はなくてもいっか………で、この国?に、発展を齎す為に来た………でいっか。登場は、上から光魔法出しつつ突っ込む感じで」
「ん………ん゛んっ、声、ちょっと高くするかな………」
「(深呼吸)」
「神聖なイメージ………凛とした感じで………無表情にしちゃう?………笑ってるよりか、よくない?」
「………ま、じゃあ、行くか………」
「あ待ってもう一回深呼吸させて」
「(深呼吸)」
★
会議室だろうか。細長いテーブルを数人が囲んでいる。そして、全員険しい顔をしていた。
「………………」
「………あれを動かすとは………そこまでなのか?」
「………もう侵入されている可能性は?」
「………兵を動かせ。城壁と、ここの周りだ。できるだけ早くしろ」
「………しかし、本当なのだな?」
「信用して下さい。助手が動きを追っています。今の所動きはないようですが………っ!?」
唯一着席していない白衣の男が口を開き、そして激しく動揺し、目を見開いた。
「どうした!?」
「何があった」
「研究室の方に兵を回そうか?」
「………いえ………魔力を、絞ったと」
「魔力を………!?」
「あれの引き上げをしなくていいのか?」
「攻撃か………?」
「対話は可能か………?目的が判明すれば少しは………」
「………引き上げる必要はないかと。国家級だった場合、足止めにすらならないと思われます」
その中の恐らく一番位が高いであろう人物が口を開く。
「………………一度、外に出よう」
「!………しかし………」
「………近衞以外も着けます。宜しいですね?」
「………構わん」
「………対象は、上昇しているとのことです。外に出るのは危険かと………」
「………………それでも、だ」
危険を告げられて尚、その足は止まらない。王宮の巨大なバルコニーに出、空を見上げる。
ほぼ真上の上空。濃紺の空に、どんな星よりも明るく輝く点があった。
「………………あれか」
「………光魔法?あれほどの光量………まさか………!?」
「………破るつもりだというのか?しかしあの結界は古代兵器のものだぞ………記録に残っているだけでも三度の魔物暴走を封殺している」
「………あれは、寄せ集めです。しかし、もしあれがこれを破る為だけに時を費やしたのだとしたら………」
魔物の成長曲線は人間のとは異なる。
必ず頭打ちがある人間とは違い、魔物は時間さえ確保できれば理論上どこまでも成長できる。
一方そのころ
☆
「(深呼吸)」
「迷うな………いくぞ………」
「(深呼吸)」
もう引き返せないところでヘタっていた。
ハイド
読んでそのまんま。魔力の見える量を減らす魔法。基本、使う意味はない。対人戦でちょっと有利になるくらい。
人間のスペックなんてたかが知れてるからね。ショウガナイネ。
ただ主人公に関してはちょっと事情が違って、溢れ出る力を抑える事でコントロール能力の上達が見込める。
本人気づいてなさそうだけど。