出会い
「………そういえば、喉、乾いたな………近くに池とか、なかったかな………」
「探知系の魔法ってあるかな………飛んで探すの面倒い」
森の中の、私が通ったところから少し離れた所に、小さな泉があった。
地面が少し盛り上がったところから水が流れ込んできている。綺麗で、冷たい水だった。
「………ぷはっ、おいし………」
水を掬って髪を漉きつつ水面に映る自分を見つめる。
「………髪の違和感とかないから、やっぱりもうちょっと背伸ばすべきだったなー………失敗した」
水面に映るのは灰色がかった紫の長髪に薄い青灰色の瞳の、10歳かそこら、表情によってはもっと幼くも見える少女だった。長い髪は若干ましになったものの乱れ、頬は紅潮し、瞳は輝いている。
私が左右に体を動かすと、少女も同じように動いた。
これは私だ。私の体だ。
もっとも、あそこでかなり見た目は変えたから前のとは似ても似つかないけど。
薄っぺらくて細い体は元のに若干の補正をかけた。
体格が変わりすぎて違和感があるといけなかったから、あんまり変えられなかったのもある。
………いや、神様に聞けば良かったのか?反省。
「背高い方がスタイル良いし、リーチも長いし………もっと背伸びて欲しかったなぁ………」
前は150一歩手前までしか伸びなかった。成長期だったのに。
「とりあえず見た目は良し。後は魔法とか、もうちょっと試してみよっかな」
数日後。
「………あー、人に会いたいなー………」
一通り実証実験が済んで暇になっていた。
「折角の醍醐味が………」
私はスローライフに憧れはあるが、辺境で1人で過ごすつもりはない。
そもそも、こうなるのを選んだ真面目な理由の一番と言ってもいいのが人付き合い。
真面目じゃない理由は転生っていう魅力的な誘いに目が眩んだっていうもの。正直一番でかい。
前は捨てざるを得なかった。チャットでも意思疎通自体はできるけど、できることなら隣で喋りながら何かをしたかった。
「とはいえ、ここがどこなのかもわからないし………」
しかし、手がかりは0ではない。
「草原の端っこにあった道っぽいの………人いなかったけど、張りつつ辿ってみようかな」
★
「この調子なら、明後日には着きそうな感じしてますね」
朝の見張りのために出て来たカリンが言う。
「そうだな。今回はモンスターも殆ど出なかったし、天気も良かったからな」
その言葉で目線を動かしたカリンにつられて進行方向左の、緩やかな斜面の続く果てしなく続く平原を見る。
「………そう言えば、今更ですけど、なんでここって開発進んでないんでしょうね。近いのに」
「………あー………それなー………」
「………?何か知ってるんです?」
「俺も詳しいことは言えねえよ?」
「いいですよ」
「この草原の向こう側……ちょっと見えるか?そこに森が広がってるらしいんだが、そこにえらく強いモンスターが出るらしい」
「………強い、モンスター………ですか」
「それもな、1匹や2匹じゃねえ。全部がそうなんだとよ。全体的に化物ってこったろ」
「………地理的な要因なんですかね」
「さあな?俺が今話したのも大昔に読んだ資料のうろ覚えだ。今はもう案外大丈夫だったりしてな?」
「そんなの覚えてるだけ凄いじゃないですか。………やめてください。危険だって自分で言ったばっかじゃないですか」
「ははは。本当にやりゃあしねえよ。勘が止めてんでな」
「勘………まあ、傭兵一本でここまでやってきた経験は信用してますから。慢心だけはやめてくださいね?」
「言われんでもな。………ん?あれは?」
「………?何が………」
カリンの後方の上空に、一つの黒い点があった。
「………鳥、ですかね………?」
「さあな。遠すぎてわからん。近づいてきたら警戒な」
「………はい」
暫くすると、点は段々大きくなった。近づいてきているようだ。
それは上下に跳ねるように動きながらこちらに近づいてくると、残像の尾を引いて俺たちの前に止まった。
それは、少女のようだった。色の薄い長髪とシンプルなワンピース。
敵意は………今のところはなさそうだった。
「危ねえなあ。気をつけろよ、嬢ちゃん」
口調は出来る限り柔らかく。目の前の少女がどういった存在かわからないから、無駄に警戒させたくはない。
そもそも、この子はどこから来たのだろうか。
来た方向はさっき俺の口から話した通りの危険な土地。10そこらの子供が1人で生きられるわけがない。
行商人の馬車どころか、人の気配すらしなかった。
となると、やはり、この子は人間ではないのだろう。では、なんのために姿を現したのだろう。
少女は少し首を曲げて見上げるようにして言った。
『一番近い街はどっち?』
………何が目的だ?何故、街の位置を聞く?国落としでもやるつもりなのか?
少女の小柄な体から発せられる怪物の気配に気圧される。気にしている素振りはない。抑える気がないんだろう。
化物の中で実力を隠すことが必要だとは思えなかった。
思考を巡らせ、嘘をつく事は得策ではないと思い至る。
その場凌ぎにはなるだろうが、発覚した場合人類に敵対する危険性がある。
「………この道をあっちにいった所にサスエティっつうとこがある。王国の首都の、でっけえ街だ」
『………そう、ありがと』
会話をする気はあるのか。一つ賭けに出る。
「嬢ちゃん、俺達もサスエティに向かってるんだが、ついでだ。乗ってくかい?」
傭兵
所謂冒険者。新天地の開拓から商人の護衛、配達まで、割と何でも屋。
金さえ積めば実力と信用のある歴戦の傭兵を出して貰える。
★の彼は小さい頃に傭兵に拾われて育てられた、傭兵一筋のベテラン。もうすぐ34。