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始まり

 そよ風が髪をなぞる。

 目を開けると青空と、視界の端でそれを丸く取り囲む木々。

 どうやら仰向けに寝転がっているようだ。

 頭を横に倒す。

 地面に生えた小さな雑草が頬に触れる。

 視線が通る限り続く、木漏れ日の差し込む、明るいが深い森。人の手なんて当然入っていないだろう。

 上半身を起こす。手が地面に触れる。ふかふかのやわらかい土。雑草がくすぐったい。

 周りを見渡した感じ、今いるのはなんの変哲もないただの小さな空き地だった。

 立ち上がって、伸びをして、近くの木の幹に手を置く。

 やはりしっかりと、ゴツゴツした幹の凹凸が感じられる。

 自分の頬を引っ張る。痛い。夢ではなさそう。

「………本当に、生まれ変われるとは」

 再び仰向けに寝転がって、空を見上げる。

 どこまでも続く薄青色の空に、ぽつぽつとと白い雲が浮いて、流れていく。

 ………こんな景色、都会じゃもう滅多に見られない。

「………何を、しようとしてたんだっけ………?……そうだ、思い出した。魔法を使うって話だったんだ」

 ───設定中───

「この『魔法』って、好きなの選んでいいの?」

『よいぞ。だが、体に収まる程度にしておけ』

「……?使い方とか、ある?」

『お前さんのその体はあちら用のものだ。唱えれば使える』

「………体、違うんだ」

『当たり前だろう。元のままでは不便すぎる』

「………ふーん」




「……唱えれば、いいんだっけ」

「………でもなあ、どんなのがあったか、私覚えてないし」

「…………それっぽい単語、捻り出してみるか?」

 魔法の名前は、大体英語とか。日本語はあんまり見ない。

「………だったら、【フライ】」

 その瞬間、私の体は勢いよく空へと飛び出した。

「ひぇっ」

 強い風が体を叩くが、減速することなく上昇を続ける。

 ジェットコースターは好きだけど、あれと紐なしバンジーは絶対に違う。

「………

 これ、どこまで……上がるのかな………?」

 だが、確かに本来の目的は果たされた。

「………これが、魔力、の、感覚……何かが体の中を、流れて、る………?」

「………そろそろ、降りないと。【グラビティ・インクリース】」

 自然と、言うべき言葉はわかった。

 次の瞬間一瞬の空中での停滞の後、行きよりは遅いが重力の助けを借りて段々速度を上げて落ちて行く。

 地面が近づいて来る。風で目をまともに開けられず、指の隙間から状態の把握を試みる。

 地面が近づいて来る。そろそろ限界だ。今。

「【ショック・アブソープション】」

 言葉が口をついて出て来る。

 すぐに、背中から巨大なバランスボールみたいになった空気の塊に突っ込んだ。

 薄く見える空気の膜がぐにゃりと曲がり、衝撃を逃がされて周囲の木が揺れる。

 衝撃の殆どを空気の塊が吸収してくれたおかげか、体への負担は殆どなく、ぽーんと上へ軽く跳ね上がる。

 二度目に跳ねた時の落下で地面に転がるようにして着地すると、塊は空気が抜けるようにして消えてしまった。

「………………出、来た」

 暫く呆然と空を見つめていたが、段々と実感が湧いてくる。

「………あはは。あーはっはっは。あっははははは」

「やった、私も、魔法を使えた、使ったんだ!うはは、あーっはっは!」


「ひー……ひー……あーお腹痛い」

 暫く笑い転げていたが、気を取り直して起き上がる。

「…確か、あっちの方が開けてたはず………」

 頭の中で良さそうな魔法を探す。頭の中を大量の魔法の詠唱と効果が流れる。

 さっき魔法を解放したからだろう。脳が過労死しそうだが、頭痛とかはないから大丈夫なんだろう。

「じゃあ………これにしよう。【エクセレーション】」

 ふわり、とどこからともなく吹いた風が私の体を包む。

 地面を蹴り、跳び上がる。

 体がはねあがり、ジェットコースターのあの押さえつけられる感覚………思い出した、Gがかかるって言うんだ。

 風が強く吹き付ける。髪があおられ、勢いよく靡く。

 しかし、それは前のような制御不能のものより遥かに弱い。私を包む風が守っているんだろう、想定の範囲内だ。

 体を動かすと、触れる空気が無風状態の時と同じように動くのが感じられる。

 そう、それはまさに体が拡大したかのような、着ぐるみに入っているかのような感覚。

 しかし当然ながら空を飛んでいる訳ではないため地面が近づいて来る。

 前を見ると、放物線の先に丁度いい木が。

「…っ!」

 腕を顔の前に回して葉が顔や、目に当たるのを防ぐ。

 そのままギリギリ視線が通る隙間だけ開けた状態で、踏切のために伸ばした左足から木に突っ込んだ。

 殆ど何も見えなかったが、足の裏の木の枝を踏んだ感触に導かれるように膝を僅かに曲げ、蹴る。

 再加速して木を飛び出す。

 視界の端で蹴った木を捉えると、ざわざわと(音は聞こえなかったが)揺れていた。

 森の終わりが見えて来た。なだらかな丘がずっと続く果てしない平原。

 思ったより加速が大きい。恐らくは次の加速で着けるだろう。

 二度目の再加速をして森を抜ける。

 先の丘の頂上を目標に定めて低く飛んだ。

 目論見通り、丘の少し上に向かって飛んでいく。この魔法には、動きをサポートする機能もあるのかもしれない。

「【ショック・アブソープション】!」

 頂上を僅かに超えた1、2m上。完璧なタイミング。

「おうふっ」

 悲しいことに頭からクッションに突っ込むことになったのを除けば。

「おとっおっとっと………」

 足で着地出来たはいいもののバランスが保てず、結局背中から着地。ださ

「あーっはっはっは!っはっはは、はー………ひー」

 楽しい。純粋にそう思った。全力で走るのはいつぶりだろう。

 肩で息をしても、お腹が痛くなるほどに笑い転げても、体が痛くなることがない。走ろうと思っても、記憶の中との差が激しすぎて足が縺れて転んだあの頃の私とは、もう違うのだ!

「こんなに笑ったの、いつぶりだろ。楽しいな」

【フライ】

上に飛び上がる魔法。本来なら数m浮き上がって止まる、練習用に丁度いいものだが、力が入りすぎたのでああなった。魔力の消費量は回数ごとで、距離に関わらず一定。箒があればこんなの使わない。

【グラビティ・インクリース】

重力を増幅させる魔法。発生ではなく増幅だが、まだこの世界の人類が宇宙に到達していないため勘違いされている。範囲化することも可。倍率は割と適当。なぜなら使用者のこうなって欲しいという思いに反応して威力が決まるから。

【ショック・アブソープション】

衝撃吸収系魔法。系、なのは魔法も吸収できるから。トランポリンにはなれなかった。強そうに見えるが主人公のように頭から突っ込んだりと、どこに出現するかを決められないので不便。分裂させたり、応用は効く。想像できるなら。

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