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予行

 朝、いつも通り朝食をとって今日は何をしようかな…と思っていたら、何やら用事があるらしい。いや、別に私が着席した時に「陛下…王からの伝言がございます」と言われたから、多分そうなんじゃないかな〜と思ってるだけだけど。まあ、要件はなんとなくわかる。精霊祭(仮)。前に手紙が来た時から2週間は経ってるから、どうせ当日の流れの確認でもするんだろう。1日で終わるかな。一先ず食べ終わったので、呼び鈴を鳴らす。

「失礼いたします」

 すぐにメイドさんがノックと共に入って来て、お皿を片付けてくれる。呼び鈴押したら扉の前に現れるんじゃないかと思ってしまうほどすぐ来るし、足音もしない。ずっと待ってるとは考えにくいから、やっぱり転送魔法かな。

「伝言ですが、本日建国記念祭の予行を行いますので、参加して頂きたいというものです」

 建国記念祭。思ったより普通の名前だった。精霊祭だと思ったけど、私が精霊だから自意識過剰に思えてくる。

「いいよ。いつ?」

「9時にまた参りますので、それまではお寛ぎになって下されば…」

「服とか髪とか、このままでいいの?」

「髪は纏めさせていただきます。服はそのままで大丈夫です」

「そ。ありがと」

「お褒めに預かり恐縮です」

 そうして部屋を出ていき、扉が滑らかに閉まる…ちょっと待った!摺り足気味で扉に近づき、重い扉の僅かな隙間を全力で保ち、外を覗く。メイドさんがワゴンを持って端の方に向かう。すると、足元が光った!水色の光がメイドさんの足元を渦巻き、すぐに光は消えた。同時にメイドさんとワゴンも消えた。

「はえー…あれが転送魔法陣かあ…」

 初めて見たけど、綺麗。渦巻いてたのは、吸い込まれる感じなのかな?

「行き先どこだろう…厨房とか?でも普通の行き来でも使うから、ロビー的な?」

 ハ○ーポッ○ーの魔法省に沢山並んでいた暖炉を思い浮かべる。他の場所から来るメイドさん達もいて…待て?

「私の、ここ以外に転送魔法使う程の距離あるとこある?」

 いやいや、大丈夫。ワゴン大きいしお皿乗せたら重そうだし、普通に王様の部屋とかにもついてるでしょ。ここ専用の特別仕様じゃない、筈。指を挟まないように気をつけて静かに扉を閉める。

「あと1時間。何して待とう?本でも読んでようかな」

 ノックすると思うし、ここにいようかな。



「こちらです」

 メイドさんが扉を開け、私が通ったのを確認して先を歩く。壁には絵画やタペストリーが飾られている。なんで転送魔法陣使わないんだろう、と思ったが、食事の運搬に使うようなものでお客さんは運ばないかと思い直した。

 無言のままひたすら階段を降りていく。落ち着かなくなって顔の横に垂れた髪を弄る。髪はメイドさんの手によってハーフアップみたいな感じになっている。口元に近づけると、綺麗な光沢と共にオイルのいい香りがした。


 案内されたのは庭園の裏のガレージっぽい空間。屋根のない内側が赤、外側が暗い赤と金の縁の馬車(馬はいない)が置かれている。座席は二段あって、一段目は肩上、二段目はきっと全身外から見える。

「精霊様、本日はお越しいただきありがとうございます」

 おじいさんもといこの国の王様が挨拶して来た。横におばあさんがいて支えている。妹、ではなく王妃様かな。

 つられてお辞儀しそうになるのを必死に堪える。私は立場上王様より上だからそれにあった態度をしなくちゃいけない。だけどこういう式典系に慣れてなさすぎて何が正解かわからない。

「精霊様、おいででしたか」

 色んな人と挨拶していると、恰幅のいいおじさんが声をかけてきた。おや?なにやら後ろのメイドさん達が大事そうに箱を持っている。三種の神器的なやつかな?

「あちらの馬車がお乗りいただくものです。一段目に両陛下が、精霊様は二段目になります」

 二段目?見えるじゃん、やだ。しかしそんな事は言える訳がない。そんな勇気はない。

「馬車はここから出発して正門前に向かい、そこから大路、環路を通って正門に戻ります」

「そこでなにをすればいいの?」

「…民衆が多くいると思いますので、お手を振られるなどすれば」

「わかった」

 乗らせて貰ったら、座席が思ったより高かった。馬車だから当然だけど揺れたら怖そう。差し出された手をとって降りるとおじさんは目線を後ろのメイドさん達に送り、箱を持った二人が進み出る。

「精霊様のお召し物になります」

 箱が開けられる。薄い黄色と緑のレースを何枚も重ねたようなワンピース。ゆったりした袖と襟ぐり。柔らかそうな光沢がある。しかし、それより気になるのは胸元や袖についている飾り。私が作ったのと似た色とりどりの小さな星が結びつけられている。(…どうしよう)こういう飾りにはいい思い出がない。スパンコールの模様が変わるような服とかシールで貼り付けられている服とか、一つも欠けずに捨てられたのは記憶にない。必ずどこかなくなっている。

「この布いいね」

「ありがとうございます。こちらは妖精国産の魔力布でして、滅多に出回らない品なのです」

「へえ」

「かなり高額なものですが、精霊様のお召しになられるものですから、この程度は当然かと」

「ふーん。他何かある?」

「いえ、これ以上は特にございませんが、何かございましたか?」

「いや、特に何も」

「そうですか。こちらは、後でお部屋に運ばせていただきます」

 帰り際、片方のメイドさんと目があったら凄くびっくりされた。なんで?

魔力布

魔力を凝縮して糸に纏わせて織った布。対魔法の強度が非常に高く、対物理攻撃にもそれなりに耐える。

糸によって魔力の纏わせ易さや纏わせられる最大量が異なり、妖精国の特産品の糸は難易度は高いものの最大量が他の糸とは段違い。かつ妖精は魔力の操作が人より上手いので難易度も下がる。国内の布はほぼ魔力布。

滅多に外国には出回らず、出たとしても手の届く値段ではないため、国同士の取引でしか見る事はない。

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