夜陰
別視点で一話使ってしまった。
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コンコン キィ パタン
小さくノックをし、反応が無かった為静かに扉を開け、中に入って静かに閉める。部屋の明かりは消され、微かに寝息が聞こえる。ベッドに近づくと、そこで寝ているここの持ち主の姿が見えた。
(精霊様は、眠りを必要とされているのでしょうか。我々に合わせてくださっているのかもしれません。…しかし、もう寝ていらっしゃるのは、ある意味幸運ですね)
ふと、ベッドの隣に置かれた椅子に目が行った。そこには本が置かれ、タオルが被せられている。そして、タオルの下にある何かが光を放っていた。タオルの凹凸から、そこまで大きい物ではないようだ。布から漏れる光が丁度良い間接照明になっている。
(しかし…このような大きさの明かりはこの部屋には置いていない筈ですが)
タオルに上からそっと手を触れる。魔力光なのか、熱くはない。かなり凹凸があるのか、とげとげとした感触が伝わってくる。全容を把握しようと手を動かすと、物の一つが動いた。
(この形と大きさ…もしかして)
動いた一つの物をタオル越しに握り、魔力眼を発動する。
「っ!」
眩い光の魔力を感じ、すぐさま解除する。間違いない。この形、大きさ、そして魔力量。夕方、私にくださった物と同じと見て良いだろう。そう結論付け、次の手を考える。夕方同様大臣達の元へ駆け込み、説明する必要があるかもしれない。
(でも、もう終わっているでしょうし…)
思い出されるのは、あの部屋にいた一人、自身に関する全権を持つ男の姿。まずあれに報告するのが必要になる。
(かなり忙しそうにしておられましたし…この話はもう聞きたくない様子でしたのでやめた方が良いですかね…)
そこで思い至る。自身の上司ではないが、この件の手綱を握っていると思われる人物を。
(あの方なら…まだいらっしゃいますかね?)
僅かな期待を抱き、転送魔方陣に乗る。瞬きをし、目を開いた時には違う景色が見えた。滑らかに削られた大理石の壁と床か光を反射する。押し戸を開け、廊下を小走りに進む。絨毯や装飾のテイストが変わり、今日二度目の扉の前に行く。今回は開かず、扉の横に立つ兵士に声を掛けた。
「将軍閣下はまだおられますか?」
「いや、もう出て行ったぞ。地下に行かれたと思うが…流石にもういらっしゃらないだろう」
「わかりました。…王妃殿下は?」
「…あんた、夕方走って来てたよな?探してんのか?」
「は、はい」
「右大臣は執務室だ。王妃殿下は…わからんが、いらっしゃると思うぞ。棟の方に行かないとわからんが」
「ありがとうございます」
軽く礼をして、再び小走りで進む。向かうのは、王妃殿下の住まわれる王妃棟。暫く行っていないが、かつて王妃棟に勤めていたこともあるので迷わずに進む。そういえば、王太子様がご成婚なさるんだっけ、と頭の片隅で考える。婚約者はいらっしゃるし年もあるからもう決まっているとは思うが、王族の女性は皆王妃棟に住まわれる事になっているから、本当なら大忙しだ。王太子の婚約者様は外国の方だった筈だし、慣れもいるだろうから大変だな、とか考えていたら、また装飾のテイストが変わった。目の前には小さな渡り廊下があり、その先には大きな純白の扉が。兵士に声をかける。
「すみません。アーシャ•レヴノウェルといいます。王妃殿下はいらっしゃいますか?」
「いらっしゃる。何か用か?」
「はい。急ぎの報告が」
「わかった。速やかに用事を終わらせろ」
私と話していた兵士が扉を人一人が通れるくらいに開く。もう一人が手に持った紙に何やら書いていた。見覚えのある、入出の名簿だ。不審者や侵入者警戒で、勤務者以外が出入りする時に名前と時間が書かれる。勤務者には判別用の名札が配られていたから見るだけで使った事はない。控室へ行き、近くにいた一人を捕まえる。
「ねえ、王妃殿下がどこにいらっしゃられるか知らない?」
「今は書斎にいらっしゃらると思うわ」
「ありがとう」
控室の反対からホール裏の階段を登って、更にもう一つ分厚い扉を抜けて書斎のある廊下に向かう。
コンコン
「誰です?」
「王妃殿下。アーシャ•レヴノウェルと申します」
「入って」
用事も言っていないのに名前だけで何かわかったのだろうか。恐る恐る扉を開け、中に入る。
「精霊様の事でしょう。何があったの?博士についての事は解決したわ」
本を閉じながら早口で言われた。
「いえ、そうではなく───」
───「そう。…わかったわ。戻ってなさい」
「…えっ?」
予想外の言葉に驚く。何か対応が必要かと思っていたのに。
「意図はわからないものの、敵意はありませんから。まあ最も、敵意という概念すらあるか謎ですが」
「…は、はい」
「また何かあれば報告に来なさい」
「失礼いたしました」
深く礼をしてその場を立ち去った。
王太子
かなりイケメン。婚約者もいます。外国の王族だけど。小さい頃から婚約自体はしてたけど向こうの状況がちょっと不味くなって結婚は保留になってた。漸く落ち着いて来たので話が進んだ。