夜閃
「これで第二章も終わり……と。いきなり血生臭くなったからびっくりしたな〜。………でも、最後の所、ちょっと気になったな」
読み返したのは、第二章の最後の部分。
「───土の精霊は言った。「人は増えていく。私達だけでは人を見続ける事ができない。各々の力を分けた精霊を創り出そう」そして土の精霊から火の精霊と雷の精霊、水の精霊から風の精霊、光の精霊から闇の精霊、命の精霊から死の精霊が生まれた。───やっぱりちょっと変。初めの四精霊を創ったのは神様なのに、他の精霊はこの精霊が創った事になってる。第一章の時もちょっと思ったけど、これ神様は必要ないって事なのでは………?」
第一章でも、神様は名前だけで何も干渉してこない。四精霊を創った、ただそれだけ。天地創造も、人を創ったのも、捧げ物の相手も精霊達。最初から四精霊がいた、もしくは土の精霊とかが他の精霊を創った事にすれば良いものを、何故わざわざ出番のない最上位者に言及する必要があったのだろうか。精霊を一番上にしたくない何か考えでもあったのだろうか?
「メイドさんに聞いてみる?………いや、無いな。私はこの場合当事者?になるから、『正しくはこうだ』っていう感じになっちゃう。責めるニュアンスになったら困るし」
時刻はもう八時頃。外は当然真っ暗。いい枕になりそうな神話はベッドの上に残して、バルコニーに出る。
「やっぱり、月が見えないのは落ち着かないな。でも、これがここにとっての普通だもんね」
うっかり忘れていたほんのり温かい位まで冷めてしまった紅茶、ではなく黒茶を飲む。うん、おいしい。
「そうだ。忘れないうちにお風呂入っておこう」
現に、本に熱中して今の今まで忘れていた。そうしてバルコニーに出た、その時。
ピカッ!
「な、何っ………眩しっ………!」
急に、下から光線が発射されて私に直撃した。手で遮りながら目を細めて発射された場所を探すと、
「あそこか………確か、あそこって………」
発射地点は城壁に立っている塔だった。前に見た時には結界の緑色の結晶を浮かべていた、重要そうな施設。
すぐに光は消えて、周囲は再び闇に包まれた。光はスポットライトのようにここだけを照らしていたため、騒ぎにもなっていなさそうだ。急に明るくなったり暗くなったりで目がチカチカする。
「なんだったんだろ………ここに発射して偶然私が当たっただけなのか、狙ったのか………どっちなんだろ………」
数分その場で待ったりしてみたもののドアはノックされていないので、メイドさんは来ていないっぽい。
「いないって事は、そこまでマズい事じゃないの、かな?どちらにしろ、暫く寝れないな………」
「お風呂ゆっくり入ろ」
★
「………うわっ!」
例の物を装置に固定していた助手が悲鳴をあげる。
「何があった!?」
「た、大変です………!」
「な…これは……」
装置に固定された例の物、それが光を放っていた。そして、その光は一直線に開かれた窓から上空に放たれていた。いや、違う。ただ上空にむかって光が放たれているだけならどれ程良かっただろう。問題は、その方向にあるものだった。北西にあるのは、王宮のあるレジェル山。その上にあるのは……
「もしや…不味い……!」
慌てて窓に走り寄って暗幕を垂らし、光を遮る。すると、光はそれに気が付いたかのようにすぐに消えた。助手が装置に飛びついて操作している。足元が歪んだような感覚に陥り、近くの椅子に倒れ込む様に座る。最悪の予想が思考を支配し、息が荒くなる。後ろから助手が大声で言った。
「内含魔力が低下しています!」
「…そん、な……」
考え得る限り最悪の展開だ。抜けていった魔力は、迷う事などなく主の元に戻っていったのだろう。もし自身の魔力が戻って来るのを感じて発生元を見ていたとしたら……願うのは、あの場に例のメイドがいない事と、無理だとわかっているが、あれがここについて知らない事。
「………終わりだ」
そう呟いた言葉は誰にも拾われることなく、無機質な白い床に吸い込まれていった。
「──そろそろ、本日は終いに…」
「失礼致しますっ!」
「なんだ?またか。今度は何だ?」
「何かありました?」
「そ、それが……」
「早く言いたまえ。私は待たせられるのが嫌いだと、何度言えばわかるのだね?」
「まあまあ。博士も混乱しているようですし、息も乱れておりますから」
「わ、我々の不手際ですが、例の物を調べていることが奴にバレた可能性があります……!」
「な……!」
「状況説明を。できる限り詳しく、簡潔に」
───「成程。理解しました。魔力指向計の履歴などから調査を進めなさい。塔の暗幕を全て垂らし、速やかに移動を」
「は、はいっ…!」
レジェル山
王宮や別館のある山。南側は元から断崖絶壁で、下の方にある出っ張りを塔にして中をくり抜いたのが王宮。
北側は普通の山で、軍事施設が立ち並んでいる。王宮→別館の通路のように山の中に通路を掘ってあり、北側に出る王族の逃げ道こと隠し通路がいくつかある。