会議
まだ★です
「それは、一体………」
王妃の持つ小さななにかから発せられる魔力に気圧される。
近づいてそれを受け取ると、星の様な形をしているのがわかった。そして、中からぼんやりと光を放っている。
何より、それは恐ろしい程の魔力を放っていた。魔力視を使っている目が潰れてしまうかと思うほどだ。
「この光が、いや、これそのものが………!?」
「やはり、そう思いますか」
厳しい顔をした王妃がそう言う。国中で五指に入る程の実力者である王妃がここまで危機感を露わにするとは。
「い、いえ、まだ詳しく調べていないので何とも言えませんが………その可能性が高いかと………」
「話を無駄に引き延ばすのは避けたい。結論から頼めるか?」
不機嫌そうに右大臣が言う。彼は忙しいから、時間を無駄に使うのを嫌う。
「恐らく、これは非常に大きな魔力を圧縮したものと思われます。ここまで硬度を上げるのは、導師でも一人では『極めて勝率の低い賭け』でしょう。しかし、これは我々が使用するものと同じ魔法を用いていると思われます」
「つまり?」
「これ、ひいては精霊の魔力を研究する事で魔法は更なる進歩を遂げるかと………」
「全く………初めから分かっていたことを繰り返すだけだったな」
「これから詳しく調べる事になりますので、王妃様にはご足労願う事になりますが………」
「調べるのも危険が伴うのではないか?簡単に渡したのだ、なんらかの術が仕込まれていると見るべきだ」
「確かに………そうなれば、立ち会いはやめた方がよろしいのでは。国の誇る魔術師を二人同時に失う訳には参りません。実験も、研究室ではやらせない方がよろしいでしょう」
「地下に簡易的に実験室を作らせます。博士、よろしいでしょうか?」
「は、はい。機器の運搬は時間が掛かると思いますが、動かせない物を失うよりかは良いかと。王妃様は………」
「構いません。その為のこの役職です。魔法の発展は我が国の発展に大きな影響を及ぼしますから」
「明日にでも取り掛からなくてはなりませんね。念のため、箝口令を敷いておいた方が良さそうですね」
「………それでは、失礼しても………?」
「ええ。良い報せを待っています」
「兵士を一人くらい付かせておきますよ」
ギイィ バタン
扉が閉まる音がした。それぞれ徐に食事を再開する。話を中断された左大臣が口を開く。
「さて、話の続きをしてもよろしいでしょうか?」
☆
チリンチリン
「失礼致します」
デザートが運ばれて来る。紅茶のいい香りがして、ふと気になったので尋ねてみる。
「このお茶って何て名前なの?」
「こちらですか?黒茶ですね」
「へぇ」
「海の向こうの国からの主な輸入品でして、我が国では標高が高いところでないと作れないものです」
「そうなの、ありがと」
「いえ、お役に立てて幸いです。では、また何かございましたらお呼びください」
「………ふう、お腹いっぱい………今日この後どうしよっかな………本………一回全部の題名読んでみるか」
忘れずに呼び鈴を鳴らして、メイドさんの顔が見えたので感謝も込めて会釈をして部屋を出た。
「よし。えーっと、これは………『サリュア王国歴史書』?へえ、この国ってこんな名前だったんだ」
「こっちは………『勇者ロイルの冒険』?童話的なやつかな」
「こっちは………おっ、『メロゥ神話』?神話かぁ………精霊とか気になるし、ちょっと読んでみよう」
部屋に戻って来た。ベッドに座ってクッションに寄りかかりつつ、足を立ててその上に本を置いて開く。
「『メロゥ神話』………何々?『この本を作るに当たって多大なる力を貸してくれた国立魔術師協会の神話研究室のフランシス・ルアート教授と助手のクライス・セリオンに感謝を。』ちょっとまって、情報が、情報が多い」
最初からこの調子なら、他の本まで手を出す時間はなさそう。窓を閉めようとカーテンをどける。
空は雲一つない一面の星空で、無数の星々が瞬いていた。真上に天の川のような光の帯が伸びていた。
「うっわ、綺麗………というか、結構寒い。やっぱりいつも星空観察は寒さとの闘いだな〜………」
しかし別に星空観察をしに来た訳ではないのでさっさと窓を閉めてカーテンも閉める。鍵だけは開けっぱ。
「国立魔術師協会ねぇ………なんちゃら研究室とか、大学っぽい感じなのかな?教授って言ってるし」
「次のページが題名か。著者は、『マソル・ロビンソン』………いや、誰?」
いやまあ、当然だけど名前言われても全くわからない。食べ歩きの人じゃないんだな〜くらいしか。
「次、は『序文』と。これ何ページあるんだろ。今日中に絶対読み終わらないよね………ま、読み始めますか」
魔力眼
【サイン・ディテクション】の通称。義眼ではないし何かが宿っているわけでもない。
メロゥ
旧帝国。サリュア王国並びに今ある国ができる前にあった巨大な帝国。
サリュア王国は割と平和的に初代国王が独立したことで成立した。他は国の内部分裂や戦争で独立合併を繰り返して今の形に収まった。皇帝の血筋自体は続いており、今でもメロゥ帝国を名乗り、旗を掲げる都市は存在する。