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朝日

 ☆

「………んー?もう九時か、そろそろ寝よっかな。大分面白かったな」

 とりあえず一番左端の緑の本を持ってきて読んでいた。中身は冒険譚─と見せかけてのただの食べ歩き日記。海を渡ってやって来た傭兵が世界を巡る話だった。途中で食い逃げ犯と間違われた時は読んでるこっちもハラハラしちゃった。というかこの感じ、多分ノンフィクションだな。ここに置くとか、よっぽど有名な人が書いたのかな。

「えーっと名前は………ソルデ・パーザ?ま、覚えておくか」

「王国に帝国、連合国に海の向こうの国………想像が膨らむな〜。というか、地味に敵対してるの帝国だってわかったのデカくない?この本に地理とか街の名前とか大分しっかり書き込まれてるから、何かで役に立ちそう」

「………………」

「………まだ、考えないといけないことあった………」

「………いやホント、あの時なんであんな事にしちゃったんだろ………繁栄を齎すとかさ………」

「も〜………やだ〜………あれもう二度とやりたくない………」

 消し去りたい記憶を思い出し、ベットの上でゴロゴロと転がる。

「絶対式典の時それじゃ、実演どうぞになるじゃん………今のままだとただのヘンナノだからなー………」

「ホントどうしよう………光纏うのはやめて、やっぱり病を癒すとかそっち系?」

「頭の中のイメージでは手をバッと広げて光の粒子をふわ〜っとばら撒いて治すってことなんだけど………」

「………………いや、案外いけるのかも。………いやいやいや、それで後から困るの絶対私だし………」

「………………もうやだ、考えたくない。不貞寝してやる………いや、普通に寝る時間だな」

「………ま、いっか。一ヶ月後の自分が何とかしてくれる。おやすみなさ〜い」

「………………」

「………念のため、防御用の結界張ってから寝よ」



「ん………」

 カーテンの僅かな隙間から差し込んだ朝の光が瞼に攻撃を仕掛ける。

 手で遮りつつ目を開けると、カーテンの向こうに昇って来た太陽が見えた。

「南向きだったんだ………」

 体を起こし、サンダルを履く。ベッド横の元からあった椅子にかけておいたカーディガンも忘れずに着る。

「おぉ………寒っ」

 窓を開けて外に出る。流石に朝一ということもあり、寝起きなのも相まって昨日の夜より寒い気がする。

「………目が覚めて来たし、水でも飲みに行くかな」

 手すりを掴まなくても良いように恐る恐る階段を降りる。

 さっきうっかり手すりを掴んだら真冬の鉄棒のように冷たかったから、もう触りたくない。

「おー、これが朝露ってやつか」

 花や葉には小さな水滴がぽつぽつとついていた。

 冷たいドアノブをひーひー言いながら無事開け、廊下に辿り着く。

「はー………あったかい………助かった」

 これで鍵が掛かっていたら手が凍りつく所だった。



「いっぱいあるな………これでいいや」

 食事室の棚には、沢山のコップが丁寧に並べられていた。その中から、グラスを一つ手に取る。

 切子細工が施され、縁に薄く青い色が付いている。

「お茶淹れるのも良いけど、朝ご飯あるからやめとこ。後で頼めばいいし」

 給湯室に戻ると、つい癖で蛇口を探してしまった。

「そうか。コップあれば魔法で水出せばいいのか。【アペアランス・ウォーター】」

 コップの上に手を翳すと、掌のちょっと先から水が流れ出し、一杯になると止まった。

「止めるタイミングも出力も、自分で決められるの便利で良いよね」

 スツールに座り、一気飲み。冷たい。おいしい。水道水は日本の誇り。

「………コップは持って戻るか」



「お食事をお持ちいたしました」

 やる事もないからベッドの上でゴロゴロと食べ歩き本を読んでいたら、ドアがノックされた。七時半くらい。

「………どうぞ」

 上手い言葉が思いつかなくて声が小さくなってしまったが聞き逃されはしなかったようで、扉が開く。

「おはようございます」

「………おはよう」

 昨日と同じ人だ。深々と一つお辞儀をすると、手早くお皿を並べ始めた。

 自分の為なのにベッドの上で待つのは失礼と思い、ソファに座る。

「………」

「………」

 メイドさんは何も喋らない。だから私も何も喋れない。感覚としてはマンションの清掃員さんのような感じ。距離は近い。会えば挨拶はするし、そこ気をつけてくださいといった短い会話はするが、距離感は遠い感じだ。

「(気まずいなぁ………)」

 取り分け今は私がお客さん。だからホテルの従業員さんのほうが近い。と思う。

「それでは」

 また一礼すると部屋を出ていった。昨日と同じだから言う事がないんだろう。

「………」


 朝ご飯は、普通に美味しかった。フレンチトーストとか、パン系が多かったかな。

アペアランス

創出魔法を表す。階位で言えば一番下なので、扱いやすい。つまり応用がよくきく。

ものを出現させる魔法には、大体これがある。しかし短縮も可能なので、上位魔法に近づくにつれ消えていく。出現させた量に応じて瞬間ごとに魔力が消費される。だから分割して出現させても大して意味はない。

アペアランス・ウォーター

水を出現させる魔法。出力、量、形状は自分で決められる。蛇口のようにも、宇宙空間のような球体にもできる。

出現させる水については決められないが、本人の「水ってこんなもん」というイメージを利用しているため、操作は可能。だけど泥水などは不可。本来の目的から逸れているから。

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