川柳は生気を奪う
「......だそうだ。一同はどう思う?」
大鷲たちは長いテーブルの上に手を乗せ、なにやら、話し合っていた。
「そんな”情報”を持っているってことは情報屋と琳はどこかで会ったってことか......ちゃんと、裏は取ったの......?」
両目に黒い眼帯を付け、口に一つだけピアスを刺している、全身黒色を纏った男がそう言った。
「知っているということはそうだろうな。ただ、証明などは、要らない。俺は人心掌握が得意だからな。ふ、あいつは従順なペットだよ」
大鷲はその言葉に続きを加える。
「大鷲さんよ。その四人ってのは......強いのかい!?」
銀髪という派手な色のモヒカンをし、黒のタンクトップを着た男が室内を貫かんとする大声を放つ。
「強い......が、まぁ......君たちの相手ではないだろう。それよりも、お前は、ちゃんと服を着ろ」
「漢なら、タンクトップ!!!」
「もう、意味分からへんわ。あ、うちとしては、戦うのは構へんのですけど、準備は進めてはるんです? もちろん、大鷲さんのことなんで、信頼はしとんですが」
暗めの赤髪にサングラスを合わせる関西弁の男は、サングラスをクイッと元の位置に戻した。
「準備は出来てるが、万が一もある。ああ、その時は頼んだよ。『ボトル社』”最高戦力”」
大鷲が見た方向には、ただならぬ圧力を持つ男がいた。
濃い緑色の髪に、茶色の羽毛コート、そしてなにより......極限状態まで練り込まれた殺気は、琳にも劣らないものがある。
「万が一? 全て殺しゃ、良いだけだろ」
ただ、冷酷に、冷徹に、冷血に、そう告げた......
「先手は打ってある。様子見だがな」
------一方、琳たちは四人で道を歩いていた。
家に襲撃がかかると、嫌なので、散歩しているのだ。
琳は毎回、分かれ道のところで左右を確認している。
「ここ、やけに人が少ない......『ボトル社』の影響か......そういや、最近、外が暑くなってきたな......これ『ボトル社』の影響だな」
「それは、八つ当たりし過ぎっすよ......!」
大倉が、すかさず、言った。
「なに言ってる? 地球温暖化と少子高齢化と、世界中の怒りが減ってるのは、全部『ボトル社』のせいだぞ?」
「重い重い!!! 一つの組織の行動が地球規模になってるじゃないっすか。あと、最後のは、良いやつっす」
「オレたちの寝床が未だに外なのは、『ボトル社』のせいだったのか......!」
「それは普通に、あんたらが家をぶっ壊しそうだからよ」
前の家事の時の光景が目に浮かぶ。
ゴキブリに狙撃し、Tシャツを爆散させた、あの時のだ。
「あんなの気のせいだ、多分、夢とかだろうなぁ」
「どこがだよ」
「いやぁ、それは......」
(ん......? さっきから、視線を感じる......バレバレだな)
琳がなにかに気づいた、その時、草むらからカサカサと音が鳴った。
「地獄谷 琳と、そのオマケだな?」
現れたのは、日本刀を持った男。
ボサボサの茶髪に黄色の袴。
「なんだー。『ボトル社』か?」
「オマケじゃねぇ!」
有賀原は、その部分だけ、猛反対した。
「地獄谷〜辻斬りですよ〜ボトル社のね〜。五七五、字余り」
「あ、合ってんだ」
「なんか変なこと言ってるぞ。こいつ」
「琳よりやべえっすね」
「なんかね。辻斬りとか、殺し屋とか、人を殺す人間って色々と狂うらしいわよ」
隷裏荒は、淡々とそう言った。
「モノノケを斬った感触は、なにに似ているだろうか」
柳生は手前にいる有賀原を日本刀で斬りつけようとした。
(なっ、見えねぇ......これは......死っ......!)
有賀原は回避出来ない。
「黙って来やがった......大抵、漫画じゃ、攻撃の時に声出すのによ」
と文句を吐きつつも、琳が刀の側面を殴って、攻撃を中断する。
「素晴らしい、我が太刀に対処するか。流石、三年前の怪物と言ったところだろう」
「嫌味かー?」
琳が踏み込みを入れ、辻斬りに拳を放つ。
「ならば、これはどうだ」
その拳より速い、柳生の日本刀での突き。
琳は打撃を中断し、突きを外す。
(予備動作を極限まで削ぎ落としている。俺が止めなかったら、有賀原と大倉は斬られてたか......やっぱ、俺って優しいなー!!!)
この状況で琳は、冷静に分析する。
「お前、辻斬りの柳生だろ?」
「我の名を知っていると? だが、辻斬りとしては、悔いるべきか」
「刑務所の新聞情報、嘗めんなよ。あとさー、ちょっと停戦しよう。別に俺ら、『ボトル社』に攻め入るわけじゃないんだよ?」
「嘘をつけ。いや、ついているか。二三日に攻め入る気だろう?」
(なんで、知ってる? 情報が漏れた......? まさか......)
琳は、更に脳を働かせる。
その時、柳生が斬撃を繰り出す。
(考えてる暇は......ねーな)
「日本刀には、日本刀だよなーーー!!!!!」
琳は召喚した双刀を手の中に収める。
そして、両刀を交差し、斬撃を防ぐ。
間に、琳は短刀で攻撃した。
反応し、柳生は刀を縦にして、防御する。
しかし、なぜか金属の衝突音が二つ鳴る。
(小さいのに、なんて威力!!!)
その威力は構えていた刀でも、弾かれるほど。
(鎖引きちぎるぐらいの腕力あるし......そりゃあ、吹っ飛ばされるよな)
「受けてみろー!」
ついでにと言わんばかりに、長刀を振るった。
その軌道上に、衝撃波が発生する。
(なんだこれは......こんなの、日本刀じゃないいいいい!!!)
必死な形相で柳生は躱す。
(あれは無理だ。受けたら、死ぬもん......)
大倉は、琳の一撃が廃ビルを真っ二つにした光景を思い浮かべる。
「はあ......はあ......中々やるようだが、俺には奥義がある!!!」
(あ〜、これはダメね。なんか、アリちゃんとダイちゃんと同じ香りがするもの)
「子供の頃は、よく使ってたわ、それ」
「児戯と同じにするとは、無礼な! 行くぞ!!!」
まず、柳生は刀を水平に保ち。
次、地面にヒビが入るほどの重心移動を行い。
最後、集中を研ぎ澄ます。
「これが、完成された剣技だ。とくと見るがいい!!!」
それらの行動を経て、放つは、刀の神速の突き出し!!!
その突きは、あともう少しで琳の皮膚に届こうとしていた。
「それさ、フェンシングじゃね?」
しかし、琳は刀を捨てると、右手を大きく広げ、柳生の顔に掌底を与えた。
「た......し、かに......」
柳生は刀を下にして、倒れ込んだ。
その刀は鞘に収められている。
「おーすげー。こいつ、倒れる瞬間に、納刀してやがる」
「なんだったんだ。本当」
「俺たちってまだ、ありんこレベルなんだな......」
「褒める部分が絶対違うわね」
「あ、そうだ!!! 良いこと思いついたぞ!!!」
琳は柳生の首を掴み、その場から去る。
三人は琳に置いていかれぬよう、全力で走った。
そして、ある公園に着く。
また、なぜか、誰もいない。
あるのは、静寂だけだ。
「ここで、なにを......?」
大倉が息を切らしながら、訊く。
「訓練だよ」
「訓練?」
「そう! 今のお前らは、ダメダメだ。な、の、で、一から鍛え上げようと考えた。そ、れ、で、特別講師の柳生君が来てくれましたー! あ、座学とかじゃないよ、実習訓練だから」
「マジすか......ま、琳よりかは、マシっすけど」
「えっ......私がやるんですか......!?」
気絶していた柳生は、ずっと起きていたのだ。
何気に、一人称が『我』から『私』にランクダウンしている。
「二人とも、悪く思うなよ。これは生き残るため......」
柳生は木刀を正面に構える。
「あ、柳生君。殺さない程度にやってねー。まー、そんな手加減される野郎はいないと思うけど」
琳は遠回しに二人を煽った。
「やる気が湧いてきたなぁ」
「言ってくれますね〜......!」
開始の合図はない。
突如、有賀原がおもちゃサイズの鎌を下げた状態で、柳生に飛びかかる。
「遅いっ」
しかし、振るった柳生の木刀が、有賀原の顔面に直撃する。
「ぐべぇっ!!!」
続いて、大倉の腹部に打突を放つ。
「がはぁっっっ!!!」
「無理ぃ......勝てねぇよ」
二人は有り得ないほど、ボッコボコにされていた。
「ふん、この程度か」
「ばーか、勝とうとするんじゃねー。まず、お前らは、単独で缶先と柳生レベルじゃねーんだ。前提が違う。だから、お前らのすべきことは、勝つことじゃなく、強くなることだ」
「こいつ、結構やばいっすよ? 缶先とは、別ベクトルの強さっす」
「今の俺は、柳生の攻撃が見えなかった......本当になれるのかよ?」
「なれる、なれないじゃねー。そうでもしないとお前らは、この世界で生きていけねーんだ」
「え......?」
大倉が困惑する。
「お前らが生き残れているのは、たまたま、自分たちより弱い奴にぶつかってきただけだ。自分が相手する人間は、どんな見た目、所作だろうと自分と同等か、それ以上の相手と思って挑め」
そう言う琳の目には、信念が宿っていた。
(あんな表情になる琳は初めて......怒りとは、また違う。あれは......哀しみ......?)
隷裏荒は、琳の瞳の中を覗いていた。
「つまりよぉ......強くなりゃ良いんだな!」
砂場から立ち上がった有賀原は、鎌を強く握る。
「強くなれたら、いいなー!!!」
琳は倒れ込む大倉を拾い上げると、有賀原に向けて、ぶん投げた。
すると、二人は頭を打ち、気絶した。
「一緒に倒れてやがる。こいつら、仲良いぞ」
「あはは......」
隷裏荒は作り笑いを出した。




