刃を向ける
ある廃工場にて。
「地獄谷 琳と対峙したそうじゃないか? 田部、缶先」
大柄な体格でスーツを着た男が質素な椅子に座っていた。
男の表情は邪悪に包まれており、只者ではないと認識させる。
爪も異常に長い。
まるで、研ぎ終わったナイフのように。
そして、足を組み、腕をもたれるようにして、肘掛けに置いた。
「は、はい......」
田部は屈し、頭が下げる。
男への恐怖が滲み出ている。
一方、缶先は気にせず、立ち続けた。
「君たちの仕事はなんだっけな? 地獄谷の始末じゃなかったか? そうだろう?」
男は剣の如く、鋭く田部に訊いた。
「はぁ、はぁ......! そうです......っ!」
「で? その仕事を失敗したと......? 仕事の出来ない社員が要らないように、こっちだってお前のような組織員は要らない、無論、缶先も同様だ。折角、雇ってやったというのに......」
「雇ってやっただと......? こっちが雇わせてやったんだよ。立場を弁えるんだね。この、金魚のフンが」
喧嘩腰に缶先が反論する。
「ただ、必ず、琳を殺すという名目の下で雇ったはずなんだがな、君もそれを了承したはずだ」
「すみません、缶先が! この後、言って聞かせますので! それよりも、今回、失敗した理由がございます!」
「ふん、言ってみろ」
「私たちがターゲットを殺そうとしていたらですね......! 鎌や狙撃銃を持った奴らと毒使いのガキが現れて邪魔してきたんですっ......! 悪いのは、わ、私じゃない......っ! あいつ、らなんです! 確か、名前は有賀は......!」
田部は必死にそう伝える。
「俺がそんな、はした”情報”を知らないとでも?」
「そ、そういうわけではな、なく! 私にもう一度、やらせて貰えませんっか?」
苦い唾を飲んだ。
田部とて、組織を運営していた人間としての、確固たる意地がある。
それを他の奴に取られては、たまったものではない。
「ふっ、目の色が変わったな......良いだろう。とはいえ、見返りは?」
「それは無論、地獄谷の首ですが、一回失敗してしまった分、地獄谷の部下の首も取るとしましょう」
「次は、しくじらないさ。一度、動きは見たからね。その時は、完璧過ぎて、お前でも、粗探しが出来ないだろうな」
「なら、万全の準備を整えて、行くがいい」
「承知しました、では私はこれにて......!」
田部はすぐに立ち去ろうとする。
「と、言うとでも?」
しかし、突如、銃声が鳴った。
スーツの男は田部の内臓を正確に射抜いた。
「な......ぜっ......?」
田部は冷たいコンクリートの上に倒れ込んだ。
(死にたくない.......死にたくない......ここまで来たんだ......死んでなるものか......)
田部がもがき、抵抗しようとも、道は一つしかない。
──────────死だ───────────
虫のように、もがきにもがいた田部は、意識が遠のき、この世を去った。
残酷の一言に尽きる。
「やはり、組織は信用ならないな」
瞬間、缶先が飛び出した!
コンパクトナイフを展開し、スーツの男に襲いかかる。
いつものように、敵へ斬撃を浴びせようとした。
しかし......
「缶先 朱溜、殺人鬼止まりのクズが」
なんと、その男は鋭い爪でナイフを弾いたのだ!
(あんたの武器が爪だってのは、知ってんだよ)
缶先は斬撃をした時、既にポケットに手を掛けていた。
スムーズに銃を取り出し、指を引き金にかける。
そして、放つは、弾丸の嵐。
弾丸は男の体を掠めるだけ。
「化け物がっ!!!」
そして、彼は、高速で距離を縮めた。
(なっ! 速い!)
男が、缶先へ手を伸ばす。
発砲した後の缶先は、それに対応出来ない。
そのまま、缶先の鳩尾に五本指が突き刺さる。
「ぐあっ......!?」
(なんて、パワーだよ!!!)
缶先は吐血する。
「俺は名を神より授かしり『大鷲』。一度、掴んだものは放さない」
鳩尾部分を掴み、じりじりと力を加えていく。
「掴むのは、常に最先端な”情報”だ。知ってるか? 人間の命は情報一個分にしかならないんだ」
「クソッタレが......!」
徐々に締め付けられていく感覚に、缶先は怒りが顕になる。
「だから、一回でもミスをした命の価値は、ウン十年前の迷信以下へと暴落してしまうんだよ。つまり、お前らの命は”情報”より軽い」
しかし、大鷲は淡々と話続ける。
その途中で思い切り、力を込め、缶先を始末した。
瞬間、辺りに血が飛び散り、大鷲は、それを浴びた。
「だから、その命をつい......離してしまった」
(地獄谷 琳という名の悪鬼よ、神の天罰を食らう時だ)
「そうだ、この後に用事があったんだった、着替えを用意しておけば良かった」
大鷲は使った拳銃を田部の手元に捨てると、その廃工場から去っていった。
------一方、琳の方は、ある場所に着いていた。
四人が着いたのは、廃れた商店街であった。
整備されておらず、全てが瓦礫で埋もれている。
「なぁ、なんで毎回、ボロボロのところ行くんだよ。足場悪ぃし」
「しゃーねーよ。ボロボロの方がなにかと便利なんだ」
「便利? 今回は、なにが目的なんすか?」
大倉は石を蹴りながら、訊く。
「”情報”だ」
「つまり、情報屋か。でも、なんの......」
「アっくんね」
「「ッ!」」
二人は納得がいった。
「ああ、隷裏荒。お前は会ったことないかもな。めちゃくちゃ腕利きの情報屋さ」
話しながら、歩いていると、一つの工房に足が止まった。
「ここだ」
そこは、入口が瓦礫で押しつぶされており、微かだが看板には......『上宮工房』と残されていた。
「人居るのかよ、これ」
「暗すぎでしょ」
「......琳の友達ってことは、色々と狂ってそうね」
「よー、俺の釈放祝いで来てやったぜー!」
そんな声が店中にこだましていた。
店の中は荒れに荒れており、木で出来た床には黒色の汚れが染み付いている。
他にも、破壊された照明と破り捨てられた絵が目に入った。
「いないの?」
隷裏荒が訊く。
「そんなはずは......いるんだろ? ヤイ......」
琳は上に視線を移すと、ある光景を見た。
灰色の髪を持ち、眼鏡を掛けた若い男が、上空から金属棒で琳を殴りつけようとしていたのだ。
琳は右腕でそれを受ける。
「琳......! お前のせいでェ!」
更に、空色の服と白ズボンを合わせていた若い男は少し場を離れると、再度、金属棒を琳に振るう。
琳は屈んで避ける。
「琳、こいつが情報屋なのか!?」
「加勢はいるっすか?」
「いや、いい。俺だって混乱してるんだ。ヤイバ......! お前、どうしたんだよ!」
「どうしただと? 白々しい......お前のせいで俺の人生は崩れたんだ」
ヤイバと呼ばれた男は、今度、金属棒を縦に振るった。
(崩れた? なんのことだ?)
「マジでなに言ってるか、分かんねーが。応戦するしかねーかな、これは! ......双刀......ッ!」
双刀の後になにかを呟いていたが、聞き取ることは出来なかった。
頭をボリボリと掻くと、琳は双刀を召喚しようと片手を構える。
すると、双刀のうちの一本である小刀が猛スピードで届く。
小刀を持ち、軽く斬撃を放つ。
ヤイバは金属棒で防ぐ。
その際に、なぜか......衝突した金属音が二つ鳴る。
(ん? 妙だ。あの棒、滑るな)
琳は一回の攻撃で”情報”を深く得た。
「消えてくれよ。琳」
眼鏡が光を反射している中、銃を取り出す。
銃口はしっかりとこちらに向いている。
そして、なんの猶予もなく、引き金を引く。
無論、琳は避けるが、その先に薙ぎ払いをする金属棒があった。
「危ねーな」
小刀で金属棒を滑らせて、攻撃を回避する。
(やっぱな! 滑りやすく、加工されてある......!)
「これはやばいんじゃ......!」
二人が暴れるせいで、店中めっちゃくちゃだ。
そんなことも気にせず、琳は戦いに集中していた。
「俺、普通に客として来てるんだけど......なんか、機嫌損ねるようなことしちゃったか?」
「人様の邪魔をする客は要らねェ」
金属棒をゆっくりと琳へ向ける。
「話は通じねーが、前より強くなったっぽいし、面白くなりそうだ」
琳の雰囲気が変わる。
いつもの飄々(ひょうひょう)とした空気が、ただただ重いものへ変化した。
本来なら、二人の超激闘が始まるのだろうが、ここには他に三人いる。
「止めないといけないやつね。これ。ダイちゃん、アリちゃん。私が三秒カウントダウンするから、ゼロって言ったら、あの男を止めて」
隷裏荒が指揮を取った。
「もう、それしかねぇな」
「分かりました、けど。失敗しても文句言わないで下さいよ!」
「三」
二人が武器を構え、
「二」
接近し、
「一」
矛を交えようとした、
「ゼロ」
その時、隷裏荒から行動する合図が発せられる。
瞬間、大倉は狙撃銃のスコープを覗き、ヤイバに狙撃をして、金属棒で弾かせた。
「ヂィ!」
その隙に、有賀原は鎌部分を抑え、鎖をヤイバに首に掛けると、地面に叩きつける。
「グハァゥ!」
隷裏荒はというと、琳の進行方向に毒が仕込まれている錐を突きつけた。
「おっと......」
咄嗟に琳は止まり、小刀を握る力を弱める。
「二人とも、落ち着けよ!」
「争っても、根本的な解決にならないじゃないっすか!」
「前までは協力していたんでしょう? 信頼が少しでもあるなら、話し合えば良いのに」
「お前を殺してやりたかったのによ。これじゃ、お手上げだ」
ヤイバは金属棒を下ろす。
「ヤイバ......一時停戦だ。一旦、コーヒーでも飲もうぜ」
「正気で言ってるのか、それは?」




