ボトル社
「おーい、田部。正気になってるか」
琳は田部の顔をペちペちと叩く。
「あれ......俺は何を......」
田部は正気に戻った。
だが、気づくと、椅子に括り付けられていた。
「なんだこれは!!!」
一瞬で、状況を呑み込めたようだ。
「二度は言わねーから聞けよ。今から、訊くことにちゃーんと答えたら、俺たちは手出ししねー。まぁ、お前らが来ない限りだけど」
「何を訊きたいんだ......?」
「吐く気満々じゃねーか。じゃあ、訊くぞ。『カンビン商事』は俺が潰したはずだ。なら、あいつらを雇う金を実質的に皆無。どこに雇われた?」
「チッ、クソが......! ふん。お前らに言うことじゃな......」
有賀原は鎌を首に向ける。
大倉もスコープを覗かせた。
「分かった! 言うから! まずは、この二人を落ち着かせてくれ!」
「めちゃくちゃ、落ち着いてるぜぇ。ただ、あんたのせいで机に置かれたステーキは冷たぁくなってる。だが、安心しろ。オレはステーキと逆でキレてるぜぇ」
「何を言って......!」
田部は謎の恐怖を覚えた。
「お前の体温も冷た〜くしてやろうか」
大倉が感情の抑揚もなく、そう言う。
「それは、落ち着いてなくない?」
隷裏荒が口を挟んだ。
「ふぅ、言えば良いんだろ? 俺を雇ったのは、『カンビン商事』の上層部である......」
田部は、深刻そうに一呼吸置く。
「『ボトル社』だ」
「聞いたことねぇな、お前らは?」
「ない」
「俺もないっす」
「私もね」
三人は『ボトル社』を知らなかった。
「そりゃそうだろう。『ボトル社』がやっていることは全て、ウチが背負ってきていたからな」
「それ言っちゃっていいわけ? 尻拭われの田部ー」
「お前らが吐けと言っただろう!」
妙な二つ名に関しては、なんらかの行動を恐れ、触れることはなかった。
「『ボトル社』ね......それって、強いの?」
子供のような口調で訊く。
「強いなんてものじゃない。あそこには、怪物が潜んでいる。缶先との戦闘で分かったが、地獄谷! お前は『ボトル社』の幹部には勝てん!」
「ほー? だから、そんなに強気でこれるわけだ」
「俺がやられたことを知れば、幹部たちも動くことだろう! お前はもうネズミも同然だ」
「どれだけ強いか、知らないけどさ。俺がネズミなら、その幹部どもを噛んでやるよ」
その際、琳はとてつもない殺気を放つ。
「構成員は五〇人程度、幹部は四人......!」
田部はペラペラと情報を吐く。
「訊いてもないこと、話してやがる......プライドってもんないのかよ」
琳は唖然としていた。
「部下も全滅したし、助かる方向に踏み切ったなぁ? こりゃ」
有賀原は脅しが違う意味でする必要がないと、鎌を上着に仕舞う。
「もうここまで情報聞いたら、充分かな」
「地獄谷 琳!!! お前に一番必要な情報をくれてやる!!!」
「え、いや、もういらねって......」
手を横に振る。
「『ボトル社』は”鈴木”の失踪に関係しているぞ!!!」
”鈴木”それを聞いた琳の表情が一変した。
先程までの捉えどころのない顔から、怒り一辺倒の顔になる。
「それは聞き捨てならねーな。もう少し、詳しく話せよ」
琳はほんの少しだけ圧をかけたが、田部には、それが耐えられなかったのか、泡を吹いて気絶した。
琳は地獄のような光景を放置したまま、店員の方へ行った。
「あの料理温めてもらえる?」
「え、いや......それ以前に毒物と化してますが?」
店員は冷静に言う。
「まーでも、解毒剤突っ込んだら、万事解決ー。だから、あっためてねー」
「げど......っ! では、温めて参りま、ますね」
店員は料理を温めるために厨房へ入った。
「なんかさっきすげぇ形相だったけど、”鈴木”って誰なんだ?」
「琳の怨みのある相手だったり?」
「ん〜、その話はご飯を食べてる時にしましょ。まずはエネルギーを溜めて置かなくちゃ」
隷裏荒は毒使いとは思えないほど、可愛らしい笑顔を二人に向けた。
「押忍」
「っはい!」
------皆がソファに座る。
温められた料理がテーブルに出される。
今度こそはと、有賀原はかぶりつこうとした。
それを大倉が止める。
「もう、止める奴は誰もいない。ならば、食べる前の挨拶は欠かさずだ」
「確かにそうか......じゃあ!」
「「「「いただきます!!!!」」」」
四人は手を合わせて、言った!
そこからの勢いは半端なかった。
目の前にある食糧をエネルギーへと変えるべく、ガツガツと食べ進める。
「うめぇなぁ......このステーキ! 猪とかの肉じゃ、体験出来ねぇほどのジューシーさ......!」
食べる度に涙が零れた。
「やっぱ、うどんにゃ辛すぎないネギだわな......! 有賀原が作るやつは大抵焦げてるから、その分も相まって美味い......」
「おいぃ!」
「エネルギーの補給には、やっぱり蛇よね」
「ちょっと、理解出来ません」
大倉の頭がショートする。
「朝飯には、パンケーキの山積みが一番だ」
「それはマジで分からねぇ」
有賀原の頭もショートした。
「そういえば、琳? アリちゃんとダイちゃんがアっくんのこと知りたいって」
琳はパンケーキ一枚を飲み込む。
「”鈴木”か? 簡単に言えば、俺の従兄弟だ」
「従兄弟っ!?」
「ざっくりし過ぎでしょ!?」
二人は驚いた。
琳に仲の良い? 血縁がいるなど、考えてもいなかったのだ。
「実際は従兄弟以上に離れてるだろうがな。失踪したとは聞いたが、まさか、それに関係してるやつが田部の口から聞けるとは思わなかった」
「急がなくて大丈夫なのかよ?」
「大丈夫だ。あいつは殺しても死なねー」
「そうね。私の毒でも殺せるかどうか......」
その言葉だけで”鈴木”の異様さが分かる。
どんな怪物なんだ?
琳が太鼓判を押すほどだ。
頑丈? 剛拳? 屈強? などと二人は考えることだろう。
「アっくんが失踪した時は、琳があっさりと捕まってなければ......琳が脱獄してくれれば......琳が問題を起こさなければ......なんて、ずっと考えていたけどね」
「まあいつからの連絡が途絶えるとは、微塵も思ってなかったんだ。本当にすまん」
「琳って謝れる心あるんだなぁ」
「有賀原、お前っ!」
「そうまでして、死に急ぐか」
拳を鳴らす。
「やべっ」
琳が有賀原へ全力のげんこつを放つ。
爆音とともに辺りに静けさが漂った。
「あーそういや、なんでアっくんって呼ぶんだ? 下の名前か?」
たんこぶが出来た有賀原は、反省していなさそうな顔で訊く。
「あー、アっくんの名前はね。”鈴木 アトランティス”って言うんだよ。だから、アっくん」
「なんだぁ、その......ネーミングセンス」
「俺が付けたんだぜ、かっこいいだろう!」
琳は自分が決めた厨二病ネームに興奮していた。
「だっせぇ」
「鈴木さんが可哀想だ」
「絶対、お前ら、俺のこと嫌いだよな?」
琳は二人に疑問を呈する。
「別に」
「そうでも?」
「素っ気ない態度だなー、俺は悲しいぜ......本当に」
「すっげぇ、悲しませても、有り得ないほどに罪悪感が湧かねぇ」
「まぁ、琳って素で最低だもんね。気持ち分かるわ」
三人は琳を言葉の雨でリンチにする。
「最低なのはどっちだろうな......? とりあえずだ。急ぎでなくとも、いずれは”鈴木”を奪還する。そのためにお前らを雇ったと言っても過言だ」
「過言なんすか」
「ムショから出たらやりたいこと二選が残ってる。そっちが優先だ」
「やりたいこと、すっくないすね」
大倉は冷たく言い放った。
「いつか見つけるさ。まずは、エネルギーを蓄えるぞ!」
「おう!」
「そうすね」
「アっくんのために!」
食べる手をより進め、三分ほどしたら、皿の上が空になった。
「店員さんよー、ごっそさん。あ、あと、これ、迷惑料」
琳は、そう言うと、代金と別に台へ札束を置いた。
「束っ......!!??」
店員は金の量に驚愕し、気絶する。
「うーん、そうだ。田部は使い物にならんから、スマホぐらいは」
と、田部のポケットを漁る。
「お、見っけ。暗証番号じゃなきゃいいんだが......」
スマホをタップすると、顔認証画面が映った。
「よし、隷裏荒ー! こいつの顔の写真撮っといて」
「了解」
言われた通りに写真を撮った。
「強盗の手段だぁ」
「こうやって、生計立ててるのか......」
二人は決めつけで判断した。
「めぼしいものはないかね〜」
琳は田部のメモアプリを開く。
「すーーーー。えっ?」
琳は魂が抜かれたような反応をした。
「どうしたんすか?」
「まさか......!」
「いやぁ......? 重要な情報はなかったんだが......田部はよ。俺たちとの戦闘の間にポエムを書いてやがった!!! しかも、黒歴史もんだ!」
「しょうもねぇ!」




