地獄のタブを開ける
「二〇キロのステーキかぁ......それなら、俺が食って......」
大倉がそう寝言を言っていると、
「おらー! 起きろー!」
誰かに起こされる。
「誰だ......はっ! 琳っっっ!」
大倉は跳ね上がるように起きた。
「お前も起きろ!」
今度は有賀原に手刀を食らわせる。
「夢の夢っていう可能性はなかったんだな......」
有賀原は達観していた。
琳は二人を引っ張り、家の中に放り投げた。
「なんすか、本当に! あと、外は俺らの家なんで勝手に入らんで下さいよ」
「昨日今日で言うようになったな!」
昨日のように、琳は大倉の頭を掴む。
「あがががが!」
手の力を緩める。
「安心しろ、ずっと外で住まわせるわけじゃない」
「え?」
「おお!」
「言っただろ? 仕事さえ、してくれれば住居は保証するって。ただ、軽い仕事はお前らには向いてない。必然的にお前らの担当は戦闘になる。頼んだぞ」
二人の肩をさする。
「ど、どうしたんすか〜! 急に褒めるようなことを」
「はっきり言うが、褒めてねー......やれることが少なすぎるつってんだ」
「逆に言えば、戦闘ではピカイチってことだ」
「ピカイチ......? なんだそれ。新たなモンスターかなんかか?」
「ずば抜けてるってことよ」
隷裏荒が答える。
「なるほど」
(子に教えられるゴリラか......)
有賀原は笑いを堪えていた。
「まぁ、お前らなんか、この世にウジみたいにいるぜ! ハッハッハッ!」
「なんも良いところねぇじゃねぇか!」
「俺には狙撃があるから......有賀原! どんまい!」
「大倉、お前許さんからな」
大倉と有賀原はバチバチにガンを飛ばしていた。
「アリちゃんもダイちゃんもダメダメでしょ」
「とりあえず、飯の時間だ。出掛けるぞ」
「出掛け......って奢りっすか!?」
大倉は急に態度を変えた。
「当たり前だ。ちょうど贅沢にいきたかったんだよ。んじゃ、行くぞ!」
「「「おぉぉ〜〜〜!!!」」」
三人は腕を振り上げた。
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「なんだこれ、でっけぇスーパー」
有賀原は見上げていた。
ロゴがない、ただ大きいスーパーを。
「ここの飯は美味いって評判なんだ」
「大丈夫ですよね......殺し屋とか組織の人間の集う場所とかじゃ、ないですよね......?」
大倉は有賀原の後ろにいた。
「怯え過ぎだろ。万が一いても、倒せばいい。なんなら、お前を先頭に......」
「近距離で攻めれる人間はそうでしょうけど、俺は違いますよ。スナイパーは囲まれれば、一巻の終わりなんすから」
「そういう考えか......」
琳は小さい声で呟いた。
「え?」
「いや、なんでもない。とりあえず、中に入ろう」
「そうね、さっき言ってたみたいに、組織とかが来るかもしれないし」
「やめてくださいよ......! 余計に入りたくなくなりますって」
「ここはレディファーストで、隷裏荒が先に行くか」
「それって、私に確認役をさせるってこと!? まぁ、別にいいけどさ〜......」
隷裏荒は悪態をつきながら、前に出る。
自動ドアを潜った。
内装はほぼスーパーで、商品も多くあった。
人も多くおり、買い物を楽しんでいた。
ただ、左に小さい店がある。
そこが今回の目標なのだ。
「いたか?」
隷裏荒は琳を見て、横に首を振る。
「一般の人以外は、いないみたい」
「面白くねーな」
琳はがっかりしたのか、肩を落とした。
「いて欲しかったのかよ?」
有賀原はそう言った。
「そういうわけじゃねーんだが、三年のブランクがデカすぎるんでな。もう少し、体を慣らしておきたい」
「そうか。でも、俺たちと戦ったはずだろ? そんだけじゃ足りねぇのかよ......あれ......?」
大倉は周りを見渡す。
琳がいないのだ。
「店員さん、注文いいかな?」
「いいですよ、なににしますか?」
その時、既に琳は店内にいた。
「「速っ!」」
「抜け駆けしたわね......! はぁ、行くわよ!」
三人は琳へ駆け出し、すぐに追いつく。
「お前ら、遅いじゃねーか。道草食ってる場合じゃねー......」
言葉を言い終えるより先に隷裏荒が短剣を取り出し、琳へ向けた。
「私が言いたいこと、分かってるわよね?」
「あー、悪かった悪かった! あとで、好きな物買ってやるから」
「よし!」
隷裏荒がガッツポーズをする中、大倉と有賀原はメニューを開き、注文しようとしている。
「じゃあ......オレはステーキで!」
「俺はうどんがいいです! ネギ多めの!」
玩具を手に入れた子供のように、はしゃいでいた。
「はい、他には」
「あっ! 店員さんいいかな? 私は蛇の丸焼きで!」
「はい」
((蛇......?))
二人は聞き間違いかと思う。
「ん〜、俺は......そうだな。十段のパンケーキを頼む」
「これで以上ですか?」
(これって飯だよな......?)
「ああ、以上だ」
一同はソファの席に座る。
注文を訊いた店員は、厨房に入っていった。
大倉は、ずっと耳を疑っていたが、少しすると、頼んだ料理が届いたために、すぐにそれを忘れ去った。
はたから見れば、異様な光景だ。
見た目は普通のステーキ、ネギしか見えないうどん、まんま蛇、山盛りのパンケーキ.......
油っこい匂いと、甘い匂いが香るので、違和感があるものの、飯の前では.....そんなこと関係ない!!!
四人は飯にかぶりつこうとした......!
が、何故か琳が振り返る。
入口から気配を感じたのだ。
「やあ」
聞き覚えのない男の声。
声の位置を見ると、そこには数十の人がおり、中央にリーダーらしき人物がいる。
「誰かと思えば、三年ぶりだな。田部」
「誰だ? 知らねぇ名前だ」
有賀原は呟いた。
「俺も知らない。だが、あの感じからして、味方ではなさそうだけど......」
田部がこのスーパーに足を踏み入れた時に、一般の人たちが一目散に逃げていったのだ。
到底、味方とは思えない。
「知らなくて当然よ。田部が仕切ってた『カンビン商事』は三年前、琳によって壊滅したんだから」
「三年前って、もしかして.......!」
「そう、琳が刑務所に入った原因となった組織よ」
「ってことは、そんなに強いんすか?」
そう単純な疑問を投げかける。
「いや、琳の圧勝だったはずよ」
「じゃあ、なんで......」
「そこは私にもさっぱり。一つ言えるのは、あの時の琳は普段と違ったってことだけ」
「俺の組織を壊滅させやがった分際で、なに一丁前に飯食いに来てんだ」
田部は痰を地面に吐く。
「飯食うぐらい良いだろ。ミイラになれって言いたいのか?」
「その態度が腹立つんだよ!!! ......まぁ、いいさ。今日の俺は、気分がいいからな」
「あ?」
「多くは言わないがな。缶先 朱溜。名前ぐらい聞いたことあんだろ」
「いや、ない」
知らない、と手を横に振る。
「そうか。それでもいいさ。缶先、やっちまえ」
組織員の後ろから、一九〇センチほどの細身の男が飛び出してくる。
その男は、金髪に黒いスーツを合わせている。
それは、まるで、生命の栄枯を表しているようだった。
大きな傷が鼻下から顎にかけて、深く刻まれていた。
「これがあの地獄谷 琳? 弱そうだね」
缶先は二回、肩を鳴らす。
「あいつは......!」
大倉が声を上げた。
「知ってるの?」
「逆に知らないんすか? 俺たちみたいなやつなら、誰もが知ってますよ。あいつは九州で超有名な殺人鬼です。金のためなら、いくらでも裏切り、相棒すらも手にかけています。それで付けられた二つ名は......『死事人』」
「ふ〜ん、ある程度は強いっぽいね」
「強いどころじゃないっすよ! 街一つは軽く制圧出来ちゃいます!」
「街ね......そんなの、琳の敵じゃないわ」
隷裏荒は目の奥を輝かせた。
「早く始めよう」
缶先はコンパクトナイフを取り出し、刃を広げた。
そして、ナイフを振りかざすと、琳へ斬りつける。
「そんな、かっかすんなよ」
と、琳は斬撃を軽く避ける。
「随分、身軽なおっさんだ」
続けざまに牽制の蹴りを繰り出す。
「おっさんじゃねー! まだ、三十路だ!」
反応し、琳は跳び上がる。
「それをおっさんって、 言うんだよ。おっさん」
攻撃を躱せない空中にいる琳は、缶先にとって格好の餌食だ。
缶先は腰から肩にかけて、斬撃を放つ。
「あっぶ」
琳は商品棚の角を掴み、勢いのままに手の方向へ避けた。
「あれを避けるとなれば......もう少し、速度を上げ......」
缶先は重心を深く落とし、いつでも斬りかかれるようにしていた。
「お前、ずっと勘違いしてるぜ」
「何.......?」
攻撃しようとした手を緩める。
「お前、俺と戦うって思ってんだろ」
「妙なことを言うね、他に俺と張り合える奴、ここにはいないよ」
「節穴め、お前の相手は......あいつらだ」
そう言うと、琳は有賀原と大倉の二人を指し示した。
「「えっ」」
缶先の『死事人』っていう肩書きは元々、無かったんです。
まず、缶先自体も存在していませんでしたが......
この肩書きは必〇仕事人から着想をえました。




