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癪報(しゃくほう)

二〇二三年、日本がいつもと同じように、闇を渦巻かせながら活動していた()()()、一人の人間によって、政府が壊滅させられた。


政治でも、権力でも、名声でもなく、たった一人の武力だけで一日にして、日本は崩壊したのだ。


人々は、その男を『王』と呼んだ。


『王』の死後、県の大半の都市は個々が占領し、力ある者だけがリーダーとして君臨していた。


いくら力があろうとも、一人で占領できるのは町で精一杯。


しかし、政府を壊滅させた『王』と同じように、単体の武力だけで県を丸ごと支配する人物がいた!


その人物を国民はこう呼んだ。

王の(かわり)をする者たち、通称。

王番(メンバー)』と。


その内の一人が、三重の刑務所にいたのである!




「釈放だ」

看守が、一つの牢屋の鍵を解き、扉も開けた。

中には、灰色の服を着た男。

ずっと剃っていない無精髭、髭とは違い整えられてあるショートの髪、歳は三〇ほどか......その様子には生気がまるでない。


「おいおい、あんなやつを出していいのかよ?」

「上からの命令だ。従うしかないだろ?」

「分かってるけどよ、警察本部は三重(ここ)を消したいのか?」

鉄の扉をくぐる度に、警察の小言が聞こえてくる。



「囚人199784番。いや、地獄谷(じごくだに) (りん)。これに懲りたら、悪いことはしない事だな」


「俺、悪いことした記憶ないぜー? 組織へのカチコミしただけだ。冤罪だって」


「それが犯罪なんだ......! 三年だけでも軽いと思えよ」


「へいへーい」


地獄谷 琳は看守二人の付き添いの下、外へ出る。


出る時に与えられたサンダルで門まで出ると、前を見た。

家の多くは空いており、倒壊しているものもあった。


「ん〜! 久々の外だぁーーー!!!」

琳は両腕を振り上げる。


「外に出れたわけだし.......パァーっと飯でも食うか? あ、そういや。あいつら、元気にしてっかなー......ん」


琳は何かに気づくと、少し横に動いた。

すると、先程までいたところに弾痕があった。


「なんだ? 出所祝いは要らねーぜ」

と、廃ビルの上にいる狙撃手を見る。


「二キロ先なのに......あいつって三年のブランクがあるはずだよな。は〜、腐っても地獄谷 琳ってとこかな。有賀原(ありがはら)、頼んだわ」

狙撃手はスナイパーをいじりながら、仲間と通話をしていた。


「オーケー」

琳の背後に人影。

人影はナイフで琳の首を狙う。


しかし、琳は度肝を抜く速さでナイフのある手を掴み、強く捻った。


「なっ!」

紫色の髪を輝かせ、有賀原は手を引き抜く。


その隙にナイフを奪うと、無精髭を剃り上げ、若々しい顔を取り戻す。


「危ねぇな、こちとら一般市民だぜ? 怪我したらどうすんだ?」

有賀原は背中に掛けてある箱から、鎖鎌を取り出した。


「善良な市民が持ち歩いていいもんじゃねーぞ。お前は世間を知らねー箱入り()かなんかか?」


「何言ってんだ!? 正確にゃ、箱入り()()な!」


「できれば、箱に入ったままでいて欲しかったとこだが......それはそうと、お前ら。死神の有賀原と不可視(インビジブル)大倉(だいそう)か? 牢屋で聞いたことがある気がしなくもねーんだ」

琳は小指で耳をほじる。


「ありがたいなぁ? 最強の十人と呼ばれた方に名を覚えられるなんて......よ!」

鎖を回し、鎌を相手に向けて放つ。


「過去形かよ。なら......来い、双刀(そうとう)

そう言うと、琳の手元に短刀と長刀が現れる。

その二刀で鎌を弾いた。


「それ、どっから出しやがった!」

有賀原は空中に放り出された鎌を取る。


「ん〜、磁石のN極とS極的な?」


「答えになってねぇよ!」

有賀原は、またもや鎖を振り回し、鎌を放つ。


(雑な動きだ。さっきと同......)


有賀原の鎌は地面に着くことなく、急ブレーキ。

刃は上に向けられ、下から鎌を放たれる。


(おぉ、鎖鎌版の燕返(つばめがえ)し!?)


「へー、面白ぇ技あるじゃん! しかも、中々のクオリティだ......これは苦戦しそうだよ。俺以外の相手ならな」

琳は鎌が届く前に鎖部分を掴むと、軽く砕いた。


(俺の鎖鎌が......! 高かったのに!)


そして、畳み掛けるように、みぞおちへ打撃を打ち込む。

見事なノックアウトであった。


彼に安息を与えるはずもなく、大倉は弾丸を飛ばす。


琳はそれを短刀で斬り、二キロ先の廃ビルへ全速力で駆け抜ける。


「このバケモンめ! 速すぎだろッ......! 」

(照準が合わせれない! こんなこと初めてだ!)

再度、スコープを覗き、標準を合わせようとしたが......


「やべっ」

対象に集中していたせいで、琳が廃ビルの間近に来ていることに気づかなかった。


その間に彼は廃ビルの壁付近で、長刀を強く握る。


長刀を鞘から振り抜きざまに振り上げると、紙でも斬るかのような音を発するが、その一瞬が過ぎた後、火山が噴火するが如く、轟音が鳴り響き、廃ビルが真っ二つに割れた。


砂煙の中、大倉の体が浮き出す。


(あ、これ......死ぬんじゃ......?)

落ちまいと足掻こうとするも、崩れ去るビルを見て、悟ってしまった。


しかし、咄嗟の判断でか、銃口を地面に向ける。


「やぁ」

琳が大倉のいるところまで、飛び上がり挨拶をかける。


「え、マジすか?」


空中()()()逃げようとした大倉の首に、琳は手刀を与えた。


「ぐぇっ......!」

大倉の視界はブラックアウトする。


------


「ん......」

大倉が目を覚ます。

(あれ、さっきまであのゴリラと戦ってたはず......夢か? きっと、そうだ。あんな地獄みたいなことあるわけないもんな!)


彼は体を起こし、周りを見渡した。

(やっぱ夢じゃ......)


「ようやく、起きたかー!」

琳が大倉に向けて、手を振る。


(地獄だ......)


「あ、生きてたんだ。てっきり、天に逝ってるかと」

可愛らしい少女の声。

白髪に童顔で、肌色のスウェットと茶色のスカートを着合わせていた。


(誰......!?)


「おい、起きろ! 有賀原!!!」

大倉は有賀原の体を大きく揺らす。


「んぁ? まだ寝たい......」


「んなこと言ってる場合じゃねっての!」


「んー? うるっせぇなぁ......地獄を見たような声出しやがってよぉ......」

有賀原は体を起き上がらせ、前を見た。


「撤回する......地獄のようなじゃねぇ、()()だな」


「二人して、俺らをそんな風に言うなんてさ。悲しいぜ?」

琳はふざけた口調でそう言った。


「俺”ら”って私も含まないでよ。嫌われてるのは琳だけでしょ? はぁ」

少女は溜息をついた。


「地獄谷 琳......なんで俺たちをここに? 拷問でもする気か。だが、残念だったな......俺たちはそんなんで屈さないぞ」

大倉は床に置いてあった狙撃銃を手繰り寄せ、標準を琳に合わせた。


「ちょいちょい! 銃下ろせ! そういうつもりじゃねーよ!」

大倉は言われた通りに、狙撃銃を少し下げた。


「目的は?」


「目的......? そんなのないけど。ま、強いていうなら、俺の気分かな?」


「殺しにきた輩を気分で助ける奴なんかいない......はずだ! やっぱ、裏があったか!」

大倉はまた、銃口を構えた。


「それをする奴が、ここにいる! 一旦落ち着けよ!」


「大倉、やめろ。あっちに敵意はない。それに......」

有賀原は冷静に、狙撃銃を手で下げた。


「良かったー。話が通じそうで......」

琳は少しだけ安堵した。


「あいつには、オレの鎌を弁償させなきゃならねぇ!」

有賀原は琳へ、人差し指を向ける。


「あ」


「なけなしの金で買ったもんなのによぉ!」

有賀原は地団駄を踏む。


「それは、マジでごめん」


「許せねぇ!」

彼は拳を強く握った。


「はぁ、喧嘩するなら、外でしてよね。折角、昨日に掃除したばっかなんだから」


「分かってらーに......ふん。お前ら、そろそろ落ち着いたか?」

琳の雰囲気がガラッと変わる。


(ひっさびさに見たわ。この雰囲気......)

女の子は険しい表情をした。


「俺は落ち着いたっすけど。有賀原は.......」


()()()ー。そんなに鎖鎌が大切か?」


「大切......というか、鎖鎌はオレにとって一番使いやすいんだ。だから、無いと困るんだよ......!」


「なら、俺に雇われてみねーか」


「は......」

女の子は言葉が出てこず、硬直している。


「え、なんでそうなるんだよ!」


「だって、お前らが殺しに来たのってどうせ、めちゃめちゃに強い俺を殺せば、組織からの勧誘もあったりして、金ががっぽり入るって考えで、だろ?」


「なんで分かっ......って、自分で言うことじゃないすよね?」


大倉が言い終わるより先に、琳は席を立ち、二人の目の前まで行った。


「遠回りすぎるんだよ。それなら、いっそ俺に雇われた方が手っ取り早いと思わねーか? 俺としても、何かと使えそうなお前らを引き入れたい」

琳は手を差し伸べる。


「殺そうとした相手なのよ!? ほんと、三年間なにしてたの!」

ようやく、状況が呑み込めた女の子は抗議した。


「冤罪を償ってましたー」

それを軽く流す。


「冤罪じゃないでしょ!」


「んで、決まったかな?」

女の子を無視して、二人に訊く。


「まだ、話は終わってな......! ん〜〜〜!」

途端、琳が手で女の子の口を塞いだ。


「これ、もしも、断ったら......?」

有賀原が訊き返す。


「ぶん殴る」


「はは、流石に冗談っ......」


琳は冷酷な目をしていた。


(マジで殴る気だよ、この人......!)

大倉は体を震わせた。


(もしかして、これを確実にするために、あの女の子が出るのを待っていた......? なんて、策士......!)

「で、ではお願いし、ます」

大倉は琳の手を受け取った。


途端、契約破棄という単語が頭をよぎりによぎったが、しかし、それは無理だと感覚が理解していた。






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