表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

排水口の髪

作者: 雉白書屋

 夜、男は引っ越し祝いに酒とツマミを持って、友人のアパートを訪れた。二人で酒を酌み交わしながら盛り上がっていたが、ふと、彼は妙なものが目に入って気になり、友人に訊ねた。


「なあ」


「ん?」


「窓際にある、あれ何?」


「ああ、髪の毛だよ」


「いや、それは見ればわかるけど……」


 窓際に敷かれた新聞紙の上には、エクステ一本分ほどの黒くて長い髪の毛が無造作に置かれていた。


「あそこで髪を切ったとか? でも、お前の髪じゃないよな。長すぎるし……」


 彼は友人の頭と新聞紙の上の髪の毛を見比べた。友人はビールに口をつけながら言った。


「ああ、乾かしてるんだよ」


「乾かしてるって……エクステ? 着けるの?」


「いや、排水口にあったやつだけど」


「へぇー……汚ねっ! は? どういうこと!?」


「だから、風呂場の排水口に詰まってた髪の毛を引っ張り出して、乾かしてるんだよ」


「いや、なんで乾かすんだよ。捨てろよ」


「何言ってんだよ、もったいないだろ?」


「えぇ、もったいないってさあ……。あ、お前、彼女できたの?」


「は? いないけど? なんで話が飛んだんだ?」


「いや、だから、彼女が風呂を使ったあとに抜けた髪を集めてるのかと思って」


「なんだよ、その発想。お前って気持ち悪いな」


「お前が言うなよ! こっちは理解しようと頑張ってんだよ!」


「ちょっと落ち着けよ。怖いぞ」


「怖いのはお前だよ……。ほら、鳥肌立ってきたし。それで、あの髪の毛は結局、誰のだよ。前の住人の残り物か?」


「だからさ、ホラー映画とかでよくあるだろ? 排水口に女の髪の毛が詰まってるシーン」


「え? あー、そういう演出あるよな」


「それ」


「え? それ!? え、じゃあ、あれって幽霊の……」


「そう」


「いやいや、無理無理。怖い、もう帰るわ……」


「いや、待てって、一回落ち着いて考えてみろよ。すごくないか?」


「何がだよ……」


「無から有が生まれてるんだぞ。すごいだろ。宇宙の始まりを彷彿とさせるよなあ……」


「いや、壮大なこと言ってるけど、ただただ怖いって……」


「なんでわかんねぇかなあ……。だってあり得なくないか? 何もないところから髪の毛が現れるんだぞ。すごいパワーだ。宇宙パワーだよ」


「いや、何もないって言っても排水口から出てきてるんだろ? 殺されて、あの風呂場でバラバラされた女の髪の毛が排水口の奥に残ってて、その、霊パワーで押し上げられてきたんじゃないのか?」


「ふっ、霊パワーってなんだよ」


「お前がパワーって言い出したんだろうが!」


「悪い悪い、でも、あの髪の毛はただの女の髪の毛じゃないんだよ。俺も最初はお前と同じことを考えて、パイプクリーナーを使ったけど、全然効かないんだよ。それに、超常現象も起きてるしな」


「えぇ、怖い……」


「ああ、物が動いたり、電気が消えたりしたときは俺も驚いたよ。他にもいろいろと起きてさ」


「いや、さっきからおれが怖いと思ってんのは、お前のことだよ」


「ん?」


「いや、なんでその幽霊の女の髪の毛をわざわざ乾かしているんだよ」


「だからさあ、捨てるなんてもったいないだろ? 無から――」


「はいはい、無から有な。それは確かにすごい気がしてきたけど、でも髪の毛だろ? どう有効活用するんだよ。いや、髪の毛を買い取る会社があるか。でも、金になるかな……」


「お! いい線いってるな。ちょっと待ってろ」


 そう言って友人は立ち上がり、どこかへ消えた。そして数分後……。


「お待たせ。さあ、見てくれ」


「いや、お前、それってまさか……」


 友人が手に持っていたのは、黒く長い髪で作られたカツラだった。


「そう、あの髪の毛を集めて作ったんだ。で、今乾かしたやつも合わせて……よし、これでちょうど完成だ」


 そう言うと、友人はカツラを頭に被り、前髪をかき分け、ニヤリと笑った。そして、ゆっくりと彼に近づく。


「どう? 似合う?」


「お前、やめろよ……近寄るな……」


「なあ、似合ってるだろ?」


「お前、まさか……すでに取り憑かれて……」


「似合うって言えよ」


「そんなの……いや、女の髪にしてはなんかボサボサだな……ん? なんで急に座禅を、は? はあ!? お、お前、浮いて……」


「ほら、すごいだろ? これが、宇宙パワーだよ。我コソガ偉大ナル大宇宙神教ノ教祖ナリ。信者第一号ヨ、平伏スルガヨイ……」


「宇宙パワーってそういうこと!?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ