行く道来た道
キャビンは窓を開けて屋根の上の2人に大声で話しかける。
「そろそろ陸橋よ。気を付けて」
スペレは大声で返事する。
「わかったっす」
べグレイトは進行方向を睨みつけていた。
「橋上にはいないようだ」
「来たときは壊れた馬車に隠れてたから、まだいるかも」
「橋の下には影が見えますぅ。でも、数はいないです」
「良いタイミングね!さっさと通過しちゃいましょう」
キャビンは少しだけアクセルを強めた。
橋の中央付近で馬車の裏に隠れていたサハギンが、ギョグェーと叫びながら現れたが、べグレイトが即座に倒した。
「流石っす! 必中っすね」
「だが、揺れる。振動計算を常に行え。精度が落ちるので、2発目の速射も意識しろ」
「はいっす」
スペレも真剣に応えて狙いを定め、川から橋へ飛び上がってくるサハギンへ向けて撃つ。
乾いた音とともにサハギンが川へと墜落していった。
トラックの走行音に反応して、川にいたサハギンは飛び上がってきているようだ。
「やったっす」
スペレの嬉しそうな声が響く。
「まだ来ている!」
サハギンが川から飛び上がら水音を頼りに、べグレイトとスペレは撃ち落としていく。
10体ほど撃ち落とした。
「流石のサハギンも飛び上がるのをやめたみたいですぅ。飛び上がってきません」
パッドが心底安心したように言うので、キャビンも一息つく。
「前!警戒!」
上のべグレイトから警告が飛んできてキャビンの心臓が跳ねる。
キャビンは言われた通り前方を注視すると、打ち捨てられた馬車の端からチラチラとサハギンの半身が出ていた。
「来たときから隠れてたやつね。跳ね飛ばされた仲間を見てなかったの?!」
キャビンは馬車を避けながら進むしかないので、止まってから緩衝魔法を使うか悩んでいるとスペレが声をかける。
「キャビン隊長、手前の敵は俺が魔法でやったっていいすか!」
スペレが意を決してキャビンに叫ぶ。
「よし、スペレやっちゃいなさい!」
キャビンは即座に決断して、命令する。
「了解しやしたっす」
スペレは唇端をペロリと舐めると銃で馬車に狙いを定める。
銃身にシュルシュルと細いテープ状の呪符を巻き付ける。
「行くっす!『プルブル』」
スペレの銃から黄色の光が馬車に向かって放たれた。
馬車の残骸に当たると、光が円状に広がって残骸を包み込んだ。
残骸は塊となって少しだけ中に浮き、そのまま、向こう側にいたサハギンを高速で吹っ飛ばした。
「スペレすごい!」
「プルブル、当たった物体を浮かせて動かす魔法ですねぇ。使用者との距離を保つことで、トラックの勢いのまま当てたと。さながら装甲板ですねぇ。隊長、あれなら陸橋上の木片は一掃できます。橋越えまでは直線なので、前見えなくても大丈夫ですよね?」
「まぁね。だけど、曲がる道路はこの状態で走るのは無理」
数メートル先は馬車の残額だけしか見えない。
「橋を越えたら1度止まって下さいぃ。プルブルの解除を待ちましょう。少し速度を上げてあげるといいと思います」
「? わかったわ」
キャビンは言われた通り速度を上げた。
迫りくる残骸に、サハギンは押しつぶされるか避けるかでトラックは無事に進むことが出来た。
装甲車と化したトラックは路上の馬車の残骸なんかもガリガリと音を立てて押しだしながら、無事対岸に到着する。
「無事陸橋を超えれたっすね」
サハギンの叫び声を負け犬の遠吠えの如く、後背に聴きながらトラックは無事通過できたのだった。




