南西へ
キャビンたちは南西経由という遠回りで炎国の中央に行くことになった。
白虎から脅かされるように頼まれたからだ。
「先代白虎が南西へ行き戻ってこない。奴はこの溶けない雪山の正体を魔石のせいだと思って、単身で南西にある雪山へ向かった」
「南西と行っても山々のどこか分からねば探しようもない」
バンニングが言い返しながら白虎を睨みつけた。
「砂堆氷川の山頂」
「それは……冬には行けぬ場所だな。今ならまだ可能か?」
朱雀が思案顔でたずねる。
「お察しの通りかなりまずい。砂堆氷川は字の通り砂状になった氷に覆われた山だ。真冬には砂嵐のごとく吹雪いているため遠方から見ることも出来ない」
「そんな所に普通はいられるわけないでしょ? 何か特殊な力でもあるのかしら」
キャビンはワクワクしながら白虎に聞いた。
珍しい景色なら見たいし、人助けならしないと。
「お、行く気になってくれたか? 先代白虎は山を駆け回れる。勾配はいくらあっても登るし、尋常でなく速い。1週間もあれば砂堆氷川ですら行って帰ってこられる」
「じゃあ、もう他の所に行ってるんじゃないの?」
「それはない。詳しくは言わんが俺は先代の場所が分かる。間違いなく、生きているし山頂にもいる。下山出来なくなっているだけだ」
「理由は分かるの?」
「先代白虎……面倒だな。奴の名前はサンポだ。その奴が全力でも逃げられない事。魔物と睨み合ってるか何かで動けないはずだ」
「睨み合って何日も山にいるの?」
ずっと見ていると疲れそうだとキャビンが想像しているとバンニングが教えてくれた。
「隊長、ものの例えだ。魔物がヤバいやつで、目を離したら街を襲いに行くとか、お互いに背を向けたらやられるから、離れたところで隙を見せないように構えてるとかそういうことだ」
「なるほど」
「お察しの通りそういうわけで、援軍がいればすぐ帰ってこれるだろ……よろしくな」
……
そんな会話をして、今全員でトラックで空を駆けながら、砂堆氷川へ向かっていた。
「クインテはそのまま中央へ行ってくれてもよかったのに」
バンニングが助手席から荷台に向かってそういうとクインテはヒステリックに喚いた。
「朱雀殿も向かうのに一人で行けるわけないザマス!それにこれに乗っていったほうが、結局速いザマス」
「それもそうか、じゃあもう少しよろしく頼む」
「任せるザマス。私たちがいればどんな魔物でもぶっ飛ばせるザマス」
嬉しそうにいうクインテにシシオンはちゃちゃを入れた。
「おいおい、そんな事いってっとまたヤベェのが出てくっぞ。前もそんな事あったの忘れてねぇからな」
「忘れたザマス」
中は呑気ながら、キャビンは運転に集中する。
砂堆氷川まで近づくと、灰色の絵の具を振りまいたような濃い雲に覆われていた。
その絵の具の中に混ざっていくようにキャビンはトラックを進める。
雲のなかにはいると、コツコツと車体を叩く音が始まった。
「アラレか?これくらいならば問題ない。進んでくれ隊長」
「アラレ?」
「氷みたいなものだ」
「ふわふわの雪じゃなくて、氷が舞うことがあるんだ」
シシオンが荷台から解説してくれた。
「砂堆氷川は地熱を持っててな。雪が溶けて氷になるけど、吹雪いてるからすぐ固まって氷になる。そしてくっついて氷の礫になる」
「どう対処すればいいの?」
「防御が常道だな。トラックみたいに硬い何かで防ぐのが最善だが、冒険者なら通常、防御魔法で硬化させて耐える。」
「耐えられるの?」
「普通の時期なら風が弱く、礫も小さい。冬は防御魔法では無理だ。まだ時期じゃなくて助かったな」
春から秋は軽く風が吹、小粒も出来るが、地熱がないところは溶けないので、砂のようにジャリジャリとした雹が積もる。
「フルプレートなら魔法もいらないんじゃない?」
「はっはっは! 鉄は寒いと皮膚にくっつく、皮が剥けて血まみれになるぞ。隊長も気をつけろ」
おぞましい想像をさせられてキャビンは身震いする。不意打ちで怖い話されるのは血の気が引く。
「それじゃ、車から出られないんじゃない?」
「心配ない。隊長は運転席から出ないでくれて構わない。サンポ殿は俺たちで見つける」
更に近づくにつれて、コツコツと叩く音は時折ゴツゴツとした鈍く強い音がし始めた。
トラックの防御魔法が効き始めたのか、次第に車体に当たる音は弱まった。
今は暴風と氷の礫同士が当たる音が異質な世界を感じさせていた。
「そういっても、手がかりもないし」
見渡す
「何、大抵、山頂は狭いもんだ。辺りを探せば痕跡はあるだろう……なんだシシオン騒がしいぞ」
荷台からはシシオンとクインテの言い争う声が聞こえてきた。
「この吹雪の中で人探しすんなら着替えなきゃと思って準備始めたらクインテが騒ぎ出してよ」
「何言ってるザマス!突然脱ぎ始めたのはシシオン、あなたザマス」
「どうせ着くまで暇なんだから、準備だけしといたほうがいいだろ?」
「せめて離れるザマス!ほら、荷物で壁作る」
「いつもはそんな面倒な事言わないくせによ」
シシオンはブツブツ言いながらもずずっと荷物を引きずって言われたとおりにしているようだ。
「淑女の観念に触るザマス。嫁入り前の娘に恥をかかせるんじゃないザマス」
「ウチのことやったら気にせんでも……冒険者やっとったんやから慣れとるで」
エイテルは気にせんで〜、とシシオンを励ますとますますクインテは怒鳴る。
「慣れてはいけないことザマス!恥ずかしがるくらいの貞淑さを取り戻しなさい。後、今回あなたの火魔法は不要ザマス。大人しく中で待ってるザマス」
「何でやー礫言うたら火魔法や熱魔法やろ。ウチかて一時的にならこの氷域でも活動域に変えれるで」
「不要ザマス」
「ウチの得意分野やのに~ケチ」
ワイキャイ言っているのを聞いて、キャビンは肩をすくめる。
「何やかんや後ろは楽しそうね」
キャビンは半ば呆れながら言った。
「バンニング班長も準備してるの?」
「おう、俺の出番だぜ。隊長地面に着いたら止めてくれ」
キャビンはバンニングが指さした山の上方に向かいゆっくりと着陸し、停止した。
ニカッと笑いながらバンニングはシートベルトを外した。
「さてと、んじゃまずは俺が露払いしてくる。後ろ、クインテとシシオンは合図したら出てこい、サンポ殿の捜索を始める。朱雀殿とクインテは車のなかで待機。隊長は運転席を離れるな。魔力を出しつづけて、トラックの防御と駆動状態を切らさないでいてくれ。それに、エンジンが止まったら再始動しないかもしれんとの話もあるから絶対守ってくれよ」
「わかったわ!絶対に運転席から離れないから」
「それじゃ、行くとするか」
バンニングが助手席のドアを開け、すぐに閉めた。一瞬の冷気が入ってきたが、礫は一石たりとも入ってこなかった。
ドアの向こうを見ようにも、曇っていて何も見えなかった。
ん…?曇ってたっけ?
今回は冬山の機能が発揮されてます。
暖房、緩衝魔法、曇り止め、タイヤも空転止め、滑り止め等てんこ盛りですぅ。大活躍は、荷台の角度補正ですぅ。坂道でも水平を保つので荷物があっちに滑り、こっちに滑りというのがないんです。船乗りの戦友に羨ましがられました。方法を教えたらドン引きされました。魔力消費効率が悪すぎるので……魔力以外の物質的な機能を発揮できれば魔力抑えられるんですけどねぇ。
それと、いくら隊長の多量の魔力が前提でも上限はかけているので万全ではないですぅ。
魔法陣相互の干渉があるので、無制限にはならないようにしてます。
それと、寒いと動かないかもって言う話も説明します。魔力伝達に気温は関係ないのですが、魔力が流れる魔石を中心とした動力系統への影響、例えばギアの間のオイルの粘度硬化が考えられますぅ。隊長が行きたがるところにはどこでも行けるように考えてますぅ。これからもどんどん活躍できますよ。裏技も仕込み済みですぅ。 (キャビン隊の技術開発担当パッド)




