西の大都市 嘉成
「あそこが嘉成だ。その手前にポツポツと旗が立っているだろ。あれが道だ、外れると整地されてないから気をつけて進んでくれ」
「了解」
バンニングに示された道に沿うように、キャビンはトラックを進める。
旗に沿って岩ばかりの道を進むが少し目線を遠くにやると、山々に囲まれている圧迫感を感じる。
それでも段々とその狭い感じは減ってきて、代わりに嘉成のそばまで来ると、緑の畑と、勢いよく流れる川のせせらぎが聞こえてきた。
城壁はなく嘉成の街並みも見える。高い建物はなく、砂漠の交易都市都市の都会の感じをみた後だと少し素朴に感じる。
「ねぇ、バンニング班長。何か素朴な街並みじゃない?」
「そうだな。何百年か前の昔は賑わっていたらしいが、今は炎国と砂漠の交易都市は海路があるからそこまで通らないと聞く、もっぱらこの山々を抜けて交易都市都市と嘉成を通るのは炎国西部の名産品を運ぶためだろうな」
「名産品?」
「綿だなあの見えている畑もほとんど綿花だ。炎国西部から海までは二本ある。一つは安全策で炎国の中央を通って南に行く道だ」
「もう一つは直接南に行くルートね。でもそっちは危険なわけ?」
「そうだ。真南へ行くにはこのそびえ立つ山を越えなきゃならないし、一旦東南へ行かざるを得ない。山々の切れ目が見える頃は大分高度が下がるが、そうなると森の魔物が、活発に動いている」
「商売なら整備された道の方がいいわね」
「そうなる。そんなわけで、炎国西部と交易都市だけ目当てなら陸路もありってわけだ」
「あれ?交易都市って沿岸じゃなかったわよ。砂漠のオアシスみたいなとこだった」
キャビンは何となく頭に地図を思い描く。
「あそこも中継地だ。北の小麦を集めるにはちょうどいい場所だ。他にも交易都市ってだけあって各地から集まりやすい場所だ」
「なるほどね、じゃあ嘉成は?」
「こっちは元々修行の坊さんが僻地で生活するために居を構えたって話だ。川があって水があれば標高が高くても大麦や草が育つから、ヤギのミルクもある」
「ヤギのミルク!飲んだことないかも」
「牛とは少し違うな。それにヤギのミルクのミルクティーは塩を入れて飲む。最初はむせたが、スープだと思うといける」
「飲んでみたい!」
「どこでも屋台があるはずだから見つけたら行こう。気温が低いから温まるぞ」
新しい楽しみに胸を躍らせていると、すぐに嘉成の入り口に到着した。
入り口には炎街で見たような赤い門には、文字のような模様のようなものが描かれていたり、エキゾチックな模様がびっしり描き込まれていた。
門の前に着いて車を止めると、やはりというべきか、入り口の衛兵は驚いた様子で、仲間を呼んでくるとぐるっと囲まれてしまった。
「俺が出る。他は戦闘準備して待機」
「拙者も行こう」
朱雀もバンニングが衛兵の所へ向かったので、荷台から降りて追いかける。
「ぎょうさんおるなぁ、来ないに来られたらやられてしまうんと違う?シシオンさんも起こすかいな?」
そう呟きつつもエイテルは特に心配していない様子だ。
「寝かせといてあげましょう。昨日も夜に哨戒してくれてたし。トラックの中なら魔法で何とかなるわ」
キャビンは不安気にバンニングと朱雀の方を見つめる。
少しだけ服装が異なっていて衛兵長に見える人がやってきて話を始める。
朱雀の方を見て大げさに仰け反ると、頭を下げて町中へ駆けていった。
「やっぱり朱雀さんは凄いわね。衛兵長がびっくりしてた」
「炎国の四方守護者ざます。南の朱雀大使が西にいることは本来異常事態。まして先触れもなければ、木っ端役人はパニックになってもしょうがないザマス」
「ねぇクインテ、四方守護者ってどういう役割なの?朱雀さんだって南の守護者らしいけどスプリークで大使をやっていたから炎国の南を離れるのって普通よね?」
「四方守護者は炎国の中央から東西南北にある大都市にいて、炎国の守護をするものザマス。辺境伯家のようなものザマス」
「辺境伯ね、それなら他の人に仕事を任せて他に行ってても平気なわけか」
「そうザマスおそらく朱雀大使も代理の方が南の防衛をしているザマス」
「朱雀さんよく大使やってたわね」
「王国にいる炎国大使が暗殺されて、急遽代わりにということざます。噂なので口外なさらないよう」
「暗殺って、大使って仕事は危ないものなの?」
クインテはこれから炎国で大使をするのだ。危ない仕事だと不安になる。
「冒険者より危険なことはないザマス。あっても暗殺者の襲撃や毒の混入くらい。襲撃はシシオンがいて、毒も私の感知魔法で問題なく対応できるザマス。それに、暗殺は炎国内の政治的都合によるものザマス。本来大使が暗殺されるなど、大使館のある国の面汚し、起こることなどあってはならないザマス」
淡々と、しかし面倒そうに答える。色々巻き込まれた部分もあるのだろう。
「それでも炎国の大使は暗殺された?」
「なりふり構わないか、面子を気にしない者の仕業ザマス」
「ふーん。でも何で炎国内の仕業ってわかるの?」
キャビンがたずねるとぴょこんとエイテルが荷台の窓から運転席に顔を出して答える。
「そら、大使館ちゅうんは外国にあって外国になしやからな。スプリーク内にある大使館でも、その土地は炎国の法律を守らないといかんし、外の治安はともかく中は炎国の護衛が守るんや。シシオンさんもその役割やな。つまり、大使館内で何かあったら炎国の責任や」
「へぇ、詳しいのね」
「まぁ、一通りはな。知り合いがそういう仕事しとるから聞いとるだけや」
「知り合いじゃなくてあなたのお父親ザマス。……キャビン隊長もこれからはだんだん外国との機会もあるでしょうから少しずつデバン君から教わるといいザマス」
「はいっ」
デバンは遠くから勝手に仕事を増やされた気配を感じて、嫌な寝汗で飛び起きたのだった。
「あっ、何かギラギラしてる人が来たわ」
キャビンはのしのしとバンニング達に近づく大柄な男を見つけた。
日差しで光る銀の装飾。つやつやとして高価そうなシルクのマント。
バサッとそのマントを広げて、朱雀と握手している。一瞬見えた手は輝く。
どうやら指輪も沢山つけているらしい。
キャビンには声まで聞こえない。
朱雀は握手をすると、挨拶を交わした。
「白虎殿久しぶりだな、貴殿の白虎就任式以来か」
「おぅ、お早いお着きだなぁ、まだ、ちんたら砂漠を走ってる頃だと思ってたぜ」
白虎は手を大きくひらひらと振り上げて、馬鹿にしたようにポケットに腕を組んだ。
「んで、なんの用だ?南に帰るならさっさと帰りやがれ」
横にいたバンニングは白虎を睨みつける。
近くにいた衛兵葉震え上がっていたが、白虎はせせら笑うだけだ。
「威嚇してきても恐ろしくはないぜ。おれらは何もやっちゃいねぇ」
「ふざけるな、賊に襲わせただろ」
何もしていないなら、こちらが聞く前に何もやっちゃいねぇなどとは言わない。
バンニングが詰問しようとすると、白虎は機先を制して仰々しく手を広げる。
「賊の苦し紛れのおしゃべりを信じるのか? それにな仮に、仮にだ。俺が襲わせたとしたらお前らはどうする?炎国の四方守護者を潰すのか? 大使を乗せてるその道中でそんなことをすれば宣戦布告と同じだが、貴様にその権限はあるのか?」
カッとなって殴りかかるほど若くはない。
バンニングが逡巡していると朱雀が助け船を出す。
「両者そこまでだ。バンニング殿『スナクサリ』の奇襲については置いておく。仮にとして続けるがもし、貴殿が襲わせたとしたら、次もやるのだろうか?」
「いや、俺ならやらないだろうな。俺の管轄する西の行商路を荒らす『スナクサリの牙』を、名うての冒険者に潰させたらそれで十分だろうし、それが出来る一団かお試しにもなるからな」
おちゃらける白虎に飲み込まれまいと冷静にバンニングは反論する。
「『スナクサリの牙』とまでは朱雀殿は言っていないがしらばっくれるつもりか?」
言質を取ったと詰めるバンニングに、白虎は飄々と返す。
「おっと、自白を取れたつもりか?『スナクサリの牙』のハザンと言えば世事に疎い僧でも知ってる名だ」
「ハザンは逃げたがな」
「逃がした、の間違いだろう。殺せる状況ではなし、捕らえたところで、衛兵を皆殺しにして逃げ出されるよりは被害が少ない。一団の雑魚どもは捕らえたんだろ?合格だ」
バンニングは上から目線で評価する白虎に苛つくも、ふんと唸って黙り込む。
情報が来ていて、詳細も把握している警戒感を上げざるを得なかった。
「いいぜ、お静かにしてもらえりゃあ、素直に話ができるってもんだ」
バンニングは朱雀に任せるように一歩下がった。
「話とは?」
察した朱雀が引き継ぐ。
「お前らにも悪くはない話だし、手っ取り早いのは助かるぜ。何、その神速の馬車でちょっと寄り道してきてほしいだけだ」
キャビン達は東にいますので、スプリーク王国とは時差があります。
今嘉成は朝なので、スプリーク王国は夜です。




