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絶景

 全員キャビンの号令で速やかに荷造りを済ませるとトラックへ向かう。

 

 都市の入り口では『スナクサリの牙』の壊滅で嬉しいニュースを噂する反面、兵士が血眼でスナクサリの牙の首領を町の外に逃がさないよう、馬車の中にある樽の中まで徹底して調べていた。


 トラックが交易都市の外にあるため、持ち物検査は軽く済み、さっさと乗り込んで出発することにした。

 トラックの上で眠そうに横になっていたシシオンは皆を見つけると、手を振るとさっさと荷台に入っていってしまった。

 キャビンが運転席から後ろを見ると、寝入っているシシオンが見えた。


「みんな乗ったわね!出発するわよ」

「やれやれ、ちょっと寄っただけでこんな騒動に遭うとはな」

 助手席のバンニングは心労をつぶやく。

「次の嘉成(かなり)も騒動の予感がするけど?」

 いたずらっぽく笑うキャビンに、バンニングは更にげんなりする。

「勘弁してくれ」

「ふふっ」

 キャビンはアクセルを踏み込んでトラックを発進させる。


交易都市から東に進む、しばらくは砂ばかりだ。ある程度は道が岩盤に沿っているので、しっかり走行できるが、完全に砂で沈みそうになるときは少しだけ魔法の板を発動して踏みしめて進む。


周りに馬車や旅人がいないのを確認すると、キャビンは魔法の板をトラックの前に展開していく。


また、空を駆ける。

「こっからは静かに走れるからシシオンも眠りやすいかしら」

「大丈夫だ、さっきの揺れでもぐっすりだった」

「なら、飛ばすわ」


キャビンは雲を避けながら、高度を上げて、更に上げると雲が来ないほど高い位置までやって来た。

「おい、耳が変な感じだ。下げてくれ、隊長」

「わかったわ」

「ゆっくりだ。多分山に登った時と同じ症状だ」

キャビンは言われて少しずつ高度を下げる。耳が吸われて、頭が圧迫されて軽く痛く感じる。



高度を下げて、しばらくしたら段々と違和感と痛みは減っていったが、吸われているような感じは続いてた。

「隊長、まだ変な感じするならあくびすると大分マシになるぞ」

「あくび?」

「体の空気の流れが変わる」

バンニングのアドバイスでキャビンはあくびをしようと口を大きく広げてみるが、中々簡単にはいかない。

「興奮してるとあくびは出にくい。運転して集中力を向けているからな、とりあえず方角と高度は一定に進むようにして何もなく退屈な空を進んでいるそういう気持ちでいるとふぁっと出てくる」

「やってみるわ」

 そうは言っても運転中では、気持ちがまったりしてこなくて、速度も落としてみるが、気は高ぶるばかりだ。

「狙ってあくびするのはかなり難しいわね」

「そうだなぁ。急ぐものではないからこの速度と高度で進んでいって自然と出るのを気長に待つのがいい」

「バンニング班長はすぐあくびでるのね」

「俺の場合は、昔の思い出で暇で仕方なかったときとかを思い出すと、すぐあくびが出てくるんだ」


「退屈、退屈、退屈」

キャビンは過去に暇だった時のことを考えようとしたが、思い出すのは慌ただしい仕事のあれこればかりだ。


「退屈なんてのは何か考えてちゃだめだ。何も考えないくらいがちょうどいいのさ」

いつの間にか起きていたシシオンが荷台から声をかける。

「あら、シシオン起きてたの?」

「おう、俺の得意な話をしてるからつい聞き耳立てちまったぜ」

 即座にあくびをしてみせるシシオン。


「じゃあせっかくだから教えてよ」

「おうよ。任せな。まずは、深呼吸だ。これをやるときに、大きく口を開ける。ゆーっくりとだ」

キャビンは深呼吸をする。すると気持ちが落ち着いてきた。

「そうだ。ゆーっくり何度か深呼吸をしたら勝手に出てくる」


「すーはー、すーはー……何となく出そう」

「そのまま~、そのまま~」


「すーは-……!ねぇ、前方凄い景色!」

砂漠を進み、いつの間にか山が広がっていた。

一面が山々だ。見渡す限りの青い空の下には、灰色の岩と石で出来た草木も生えない大地ばかりしか見ることが出来ない。所々、白い雪を被った高い山脈と急峻な渓谷を流れる滝のような川が間に見えている。


「まだ炎国の入り口ですらないぞ。ここから更に東へ行くと山が途切れて開けた場所が見えるはずだ。そこが炎国の西の国境だ」

バンニングがはしゃいでいるキャビンを落ち着かせようとする。

「てか、キャビンよぉあくびはいいのかよ」

キャビンの声にシシオンも突っ込みを入れる。


「こんなすごい景色見てたらあくびなんて出ないわよ。険しい山であの山のどれか一個を上り下りするだけでも大変なのに、こんなのが連なってたら通れないわね。馬車通れるのかしら」

「おれも見てぇな」

「ごめんね。秘密にしちゃって」

「まぁトラックの秘密が関係してるんだから仕方ないさ。俺はもうひと眠りするぜ。まだ降りるまで時間かかりそうだからな」

 ぼやいたシシオンはすぐに横になって寝入ったようだった。


一時だけ降りて昼食をとると、またすぐに東へ向かって走り出す。

「ねぇ、バンニング班長そろそろ景色が変わらないかな」

「なんだ? あんだけはしゃいでたのにもう飽きてきたのか?」

「だって、変わらないじゃない。よくこんなに山があるわね」

「下で歩きと馬車じゃ、隠れてる山賊に警戒しながら何か月もかけて進む旅程だ。退屈なら幸せなもんだな」

「そうよね。贅沢を言ってるのは自覚するわ……ふわぁわ」

不意にキャビンはあくびが出て耳の感じがもとに戻って嬉しくなった。

「あ。あくび出た」

「そいつぁよかった。今の感じを忘れずに、耳が変になったらあくびしろよ」

「了解」


「夕焼け綺麗ね。方向的にちゃんと見えないけど」

「見えたら見えたで眩しくて大変だろ」

「ミラーで見えてる。光の加減でもこんなに見え方って違って感じるのね」

「おぅ隊長。暗くなって感傷的になってきたか」

「そうかも」

「んじゃ、いい知らせだ。東の山脈の切れ目が見えてきてる。あれを超えたら嘉成の町まですぐだ。思ってたよりすぐ着いたな」

「暇すぎてアクセルぶっ飛ばしてたし」

キャビンが数字を伝えるとバンニングは豪快に笑った。


「そりゃ早く着くわけだ。だが俺も全然気づかなかったな。こういう代わり映えのない景色だと肌感覚も鈍るか。今日は嘉成から離した場所に野営して明日朝都市へ入るぞ」

「今日は入らないの?」

キャビンはホテルで寝れると思ったので残念がる。


「『白虎』を相手にするのに疲れ気味でやりたくないだろ。それに、夜に一騒動起こして、徹夜で駆け回るのはごめんだ」

バンニングがやれやれと首を振る。


「それもそっか、じゃ。この景色も飽きるまでしっかり見納めておくわ」

「帰りも見ることになるぞ」

「その時はうまくあくびが出せそうね」


しばらくして、嘉成近郊の沢で、比較的流れが緩い所にトラックを止めて野営することとした。

荷台を開ける頃にはみんな船を漕いでいて、キャビンは手を鳴らして起こした。

朱雀とシシオンはすぐに起きたが、眠りこけているエイテルは引っ張り出して濡れタオルで顔を拭くとようやく動き出した。


「あの薬凄いわ。まったく酔わんかった。眠くなったのは副作用やな」

そういってエイテルは元気に夜ご飯をもりもり食べていた。

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