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陰謀論

 司法所はスナクサリの首領だけは捕まえられなかったため、全員が夜通し捜索にあたったが、手がかりは得られなかった。


 そんな騒ぎは関係なしとキャビンたちは昨夜は関わらなかった。


 昨夜の司法所でハザンがいなくなったとき、バンニングが「全員宿に戻っていろ」と言い残して駆け出していったからだ。

 言われた通り、キャビンとクインテもバンニングに呼ばれて来ただけなのでと、司法所長に告げると、困惑している司法所長を残して宿に引き返し、宿で待っていた朱雀とエイテルに事情を話す。


 朱雀が推測を語り始めると、それに乗って他の皆も今回の襲撃について意見を交わし始めた。

 数十分と経たずにいかめしい面構えでバンニングが帰ってきた。


「首尾は?」

 朱雀が短く訪ねる。

「ケジメはつける。リオウという名に心当たりはあるか?」

 バンニングは睨みつけるように朱雀に尋ねる。

「心当たりがあるが、まずはバンニング殿。少し落ち着かれよ。周りが脅えていては、話も入っていくまい」


 バンニングはハッとして、深呼吸をする。

 すると幾分か険が取れた顔つきに戻った。

「すまない。朱雀殿」

「別に問題ない。さて、リオウと言うと、李王という名がある。炎国の西側の市場を牛耳っていて相当に影響力がある。更に、裏でも炎国の西部を縄張りにしている組織の首領として禁制品やら、奴隷やらの元締めとして大金を稼いでいるため、裏の王と書いて裏王とも評される。もっとも、実際に本人が何かをするとは聞かぬ。他人にやらせているだけだから捕まることもない」

「今後も変わらなそうだな」

「そうだな。それに、リオウは炎国と西の国々を繋ぐ街道に目が届くつまり……」


「つまり、今後も街道を通って炎国へ進めばそいつの目にとまるってわけね!」

 キャビンが話に割って入る。

「明察だな。逆に言えば街道を使わなければ襲われることもあるまい。それにリオウの縄張りから更に東に抜ければ追っては来れまい。我々の目的地は炎国の中央にある首都だ。どうとでもなる」

「じゃあ、さっさと出発しましょ。どこの町にも寄らないで直行すれば問題ないし」


「待ってくれ隊長。行先はリオウの所だ」

「何で? そんな危ないやつ関わらない方がいいじゃない」

 バンニングの提案に訝しむキャビンだったが、バンニングの方を見ても何も言ってくれない。


 沈黙を破ったのはクインテだった。

「私が、大使として炎国に残る事になるざます。その時に敵の狙いもわからず置いていくのが嫌なんざましょ?バンニング」

「おまえ、極秘の任務だろ」

 バンニングがバツの悪そうにクインテをたしなめた。


「ここまで一緒に来た仲間ざます。あなたとシシオン以外は知らないなんて淋しいと思っていたところざます」

 クインテがバンニングに向き直ると、バンニングは勝手にしろと下を見つめた。


「クインテが大使になるの? 朱雀さんを送るのが任務だと思ってたけど」

「それも本当の任務ざます。ただ、私が大使として着任するのにタイミングが良かったので一緒に発ったざます」

 バンニングは頭を振ると説明を始めた。

「断片だけ知ってても動きづらいだろうから一から説明してやる。実は、在炎国のスプリーク王国大使は老齢でな。実家から孫が生まれたって知らせが来た途端、死ぬ前に孫に会うとか言ってさっさと帰ってきちまったんだ。んで、慌てて後任を探していてクインテが適任だったってわけ」


「なんでおばさんが適任なん?貴族で教養がある言う人は他にもぎょうさんおるやろ?あ、わかったで冒険者で炎国来たことがあるってのもポイントやんな?」

 エイテルが閃いたぞと破顔する。

「そうざます。Sランク冒険者として、炎国での実績があって評判も悪くない。その上、炎国語が出来て、数年間の炎国での生活に文句を言わない貴族となると私くらいざます」

「ほぉ、なるほどなぁ。ん?おばさん一人で残るんか?シシオンさんはどうするん?」

「シシオンは私の護衛として一緒に炎国に滞在予定ざます。同意もあるざます」


 クインテはこの話をシシオンにした時の事を思い出すと、ふっと笑ってしまった。

 ……「話があるざます。実は数年間、炎国で仕事することになるざます……一緒に来てくれるざますか?」

「わかった」

「え?」

「だからわかったって」

 シシオンが面倒くさそうに繰り返す。


 あっけにとられていたクインテに、シシオンはさらっと流す。

「今までも一緒にあちこち行ってたろ。それに、炎国は行ったことない場所でもないんだし、全然問題ねぇよ……酒があればな!」

 クインテは自分が思っていたより軽い返事にどうこたえていいかわからない。

「酒くらい好きに飲むざます。実入りはいい仕事ざます」

「お、そいつぁ楽しみだぜ」

 そう言って笑いあったとき少し心が軽くなった気がした。

 ……


「なにを笑てんね、おばさん。ビックリするわ」

「失礼したざます」


 キャビンが手をパンパンと叩く。

「じゃ、クインテさんの安全のためにも話を聞きに行きましょう。悪い奴なら捕まえて牢屋に入れちゃえばいいんだし」

「さっき、脱獄されたけどな……」


「交易都市なぞ、比べるべきもない炎国の大監獄に入れてもいいが……おそらく話し合いで何とかなるはずだ」

「詳しいのか?」

 朱雀の説明にバンニングが興味を示す。

「奴は現在の『白虎』を拝命している。正式に炎国の西の守護者であり、炎国民には手出しをしたという話は一切聞かない」

「私たちが行ったときの白虎は山岳の部族の長で快活に山を駆け回っているお方だったと思うのですが」

「先代は存命のはずだ。外に出たすぎて、政務が滞るというので周りにも言われて引退したくらいだからな」

「まずはリオウの所へ行く。『白虎』であれば西の大都市「嘉成(かなり)」にいるんだろ?」

「そうだな」

「じゃ、決まりね。まずは嘉成を目指しましょ。どんなとこなの?」

「それは行ってみてのお楽しみざます。ただ、見たことない景色なのは保証するざます」

「見たことない景色!楽しみ。ほらみんなも行く準備しましょ」

 キャビンはそう言うと部屋に戻ってすぐに荷造りを始めた。

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