静夜はいずこに
キャビン達が夕食の余韻に浸りながら部屋で休んでいると、慌ただしく走る音が廊下に響いた。
ドタドタという音は近くで止まる。
ノックの音がするので、キャビンが様子を見に廊下に顔を出すと、息を切らした兵士が部屋の前にいた。
兵士はゼイゼイと息継ぎしながら話し始めた。
「失礼、します。冒険者の、クインテ、殿は、おりますか」
呼ばれて、部屋の中からクインテがやってくる。
「何ザマス?落ち着いてから話すザマス」
兵士はホッとしたように安堵の表情を浮かべ、深呼吸してから話を続けた。
「司法所におりますバンニング殿に言われて、クインテ殿を呼びに参りました」
「司法所?……全く、食事を届けに行ったはずなのにどうして司法所の世話になんかなってるザマスか。街なかでケンカでもしたザマスか?」
クインテが飽きれつつも出かける準備を始める。
「わ、我々も詳しくはわかりませんが、デバン殿の乗り物が襲われたとかで、襲ってきた奴らを捕まえたと……司法所で話を伺っているのですが、詳しくは話をしていただけず。とにかくクインテ殿を連れてくるようにと」
「……事情は分かったザマス。キャビンさんは一緒に来るザマス。エイテルは隣の部屋の護衛を……私たちが行ったら彼に事情を説明しておくザマス」
「わかったで」
クインテに促され、エイテルも動く準備を始めた。
キャビンも食事の余韻を冷ましてすっかり意識を仕事モードに切り替える。
二人が呼びに来た兵士と一緒に司法所に着くと、すぐに中に通される。
司法所の中は明かりが煌々とついており、事務員が慌ただしく駆け回っている。
個室に通されると立派な服をクタクタに着た、しなびた老人が座っていた。
「司法所長、クインテ殿を連れてきました」
兵士が言うと、しなびた司法所長はクインテに淀んだ目線を向ける。
横にいるキャビンと目線が合った。
キャビンはヒヤリとしたが、司法所長は何も言わず、再びクインテに目線を向けた。
「ご苦労。さて、スプリークの貴族であり、Sランク冒険者でもあるクインテ殿。あなたのご同行者の件についてはどこまで伝わっておりますかな?」
「私たちの乗り物が襲われ、バンニング殿が返り討ちにしたとそこの兵士が言っていたかと」
普段のザマスは鳴りを潜め、クインテは探るように訊ねた。
壁際に立っていた兵士はガチャガチャと兵装を鳴らしながら、大きく身動ぎした。
司法所長は、ハァ〜と長いため息をついて説明を始める。
「私も理解が追いついてないのですが……、本日の夕刻、門の外に止めている貴方方の鉄の馬車が『スナクサリの牙』に襲われ、護衛をしていたSランク冒険者のシシオン殿が全員捕縛、その後元Sランク冒険者でありスプリーク王国軍のバンニング殿が『スナクサリの牙』の首領を担いで司法所にやってきたと言っていました。そこでたまたま15連勤明けで明日から休めると思っていた私と入り口で遭遇しました。その後、鉄の馬車付近に倒れていた『スナクサリの牙』の賊共を兵士に牢屋まで運ばせました。殿に旅の目的等を司法所長権限を持って尋ねましたがほとんど答えてはいただけず、クインテ殿に聞けと言われてお呼びした次第です。」
半ば恨み節のような下りを入れつつ、司法所長は分かる限りをクインテに伝えた。
「なるほど、理解しました。ですが、ひとまずバンニングと会うことはできますか?」
「勿論です。今お呼びしてまいります」
司法所長は兵士に指示して呼びに行かせた。
近くにいたのか、兵士はバンニングを連れてすぐに戻ってきた。
「よぉクインテに隊長、騒がせて悪いな。飯は食い終わったか?」
ひょうきんな様子のバンニングにキャビンはホッとしたながら訊ねた。
「災難だったわね。あなたもシシオンも無事?」
「おう、俺はピンピンしてるぜ。何せシシオンが全部片付けた後に一人運んだだけだからな。門番共、司法所まで運べとか面倒を押しつけてきたから連れ帰ったらそこの司法所長とばったり会ってな、精勤に手続きしてもらってるとこだ」
「じゃあ閉じ込められたとかそういうわけじゃないのね」
「当たり前だろ。隊のトラックが襲われたんだ。黒幕が誰か知らないといつまでもやられて面倒だろ」
司法所長が困り顔で口を挟む。
「本来、こういうことは捜査上の秘密なので答えられないんです」
「だから、スプリーク王国軍として捜査協力の要請をしてるだろ」
「ですが、今は一回の冒険者として活動中なのですよね?任務内容も秘密。交易都市に駐留しているスプリークの領事(スプリークと交易都市の外交事務をする人)も本件を把握してませんでしたし……」
「ギルドには話言ってると説明しましましたが」
「ギルドに都市の司法に介入する権力等ありませんよ」
バンニングが手を挙げて呆れるようにキャビンに向き直る。
「こんな具合でずっと押し問答だったわけだ……で、何かいい方法がないかクインテを呼んでもらったわけだが」
「あるにはあるザマス……ちょっと私と司法所長の二人にしていただくザマス」
そう言われて、みんなは不思議そうに部屋を出て、数分すると、青ざめた司法所長がドアを開けた。
「話しはわかりましたのでバンニング殿だけ、尋問に立ち会うことを許可します」
「うし、とっとと黒幕吐かせて、解決といこうか」
「バンニング殿!立ち会うだけです。尋問を行う権利はありません。隣、隣の部屋で見てるだけですからな」
息巻い取調室へ向かうバンニングを追いかけて司法所長はパタパタと去っていった。
「クインテ、どうやったの?」
キャビンが司法所長の変わり様に目を丸くして、クインテに聞いた。
「大人には色々やり方があるザマス。キャビン隊長も色々勉強するザマス。さて、バンニングには手紙を渡して、私たちは引き上げるザマス」
クインテは兵士に借りた筆記具でササッと手紙を書いて、バンニングに渡すよう伝えた。
キャビンはクインテと一緒に宿に帰った。
「戻ったか」
報告のために朱雀の部屋に行くと、寛げる快適な空間で、すぐにでも戦えそうな朱雀とエイテルがお茶を飲んでいた。
「戻ったザマス。今、バンニングが賊の尋問に立ち会ってるザマス。おそらく、黒幕は判明しないザマス。すぐに立ってしまったほうが良いザマス」
「成る程」
朱雀は目を瞑りながら黙考する。
「なぁ賊のアジトに何か証拠残ってるんと違う?」
「アジトの場所すら判明するかどうか。アジトが都市の中なのか、砂漠の何処かにある谷や山間なのか、あるいは両方か。情報がなければ判別はつかぬな」
また、ドタドタと足音がした。司法所にいた兵士だった。
「た、大変です。スナクサリの牙の首領が逃げ出しました。今、バンニング殿や警備兵が追いかけています」
「何で逃がしてるのヴァン!」
クインテがとっさに言って赤面する。
「こほん。何でもないザマス。それで、賊はどこへ?」
「裏道を伝って盗賊ギルドのある宵闇街へ向かったのは分かっています。ただ、あちらはあちらで危険な集団がいくつか根城にしてまして、Sランク冒険者のエイテル殿とクインテ殿を呼んだほうがいいという判断で私がお呼びに参りました」
「夜食前の腹ごしらえにいっちょやったるで!」
「まだ食べるの?」
エイテルの発破にキャビンは呆れながらも、同じく気合を入れた。
「拙者も行こう。……君たちといると静かな夜を探すのが難しいな」
「とにかく急ぐザマス」
四人は兵士に案内されて盗賊ギルドの区画へ向かった。




