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主菜

 楽真が厨房に行ったと思ったら、すぐに銀色の蓋をした大皿を持ってやって来た。

「お待たせいたしました。主菜は料理長の得意料理でございます」

 そう言って楽真は蓋を持ち上げた。

 肉の脂が跳ねてパチパチと心地よい音が響く。

 それに、焼けた野菜やスパイスの鼻孔に沈み込む薫りもたまらない。

 キャビンはよく見ようと身を乗り出すと、皿の中は薄っすらと空気の膜が貼られているかのように遮られてぼんやりと見えていた。


「何これ、何かボヤケてる?」

「これは……小規模な魔法壁ザマスね。中の物を遮断しているけれど、匂いなどは選別している。魔宝石に術式を刻んだものが中に入っているザマスね。かなりの腕前の方」

「さぁ皆さま。大皿に御注目いただくのも結構ですが、そろそろ、中身も見えてまいります。本日の主菜は青椒肉絲でございます」

青椒肉絲チンジャオロースか、私の故郷でも食べていた。よくある家庭料理だったはずだ」

「左様でございます。ただし、食材は選りすぐりでございます……では、お取り分けいたします」

 楽真がトングを大皿の空気の膜に当てると、途端に中がクリアに見えるようになった。


 茶色い細切りの肉、赤や緑、黄色の鮮やかな野菜それらに降りかかっている


 次々に全員分をきれいに取り分けた。その後、何処かから取り出した小瓶を開けて粉を振りかける。


「お配りします」

 楽真が取り分けた小皿を円卓回転卓の上に一箇所にまとめて置いた。

「はっ」

 円卓を掴んで腕を軽く振ると回転して、それぞれの前にピタリと止まった。


「凄いわ! それに近くで見るとやっぱりきれい。野菜がツヤツヤしてる。いただくわね。……柔らかくて、蕩ける。お肉も野菜も味がついてて満足感があるわね」

 フォークで上手にすくって食べるキャビンは、エイテルがガチャガチャと皿をつついているのを横目に少しずつ食べる。


コメも合いますので、こちらもお召し上がりください」


 キャビンが気づくと、器によそわれた白いつぶつぶが置かれていた。

 鼻を近づけると。それは甘い匂いを漂わせていた。


「コメ?麦みたいなものかしら?」


「せや、麦とおんなじように畑から取れる。米は麦と違うて炊いてそのまま食えるんや。麦粥みたいに作れるから便利やで、てかパエリア食うたことあるやろ? あれと一緒や」

 したり顔のエイテルは青椒肉絲を米に乗っけて、幸せそうにかっこんでいた。


「え、これパエリアと同じ植物なの?全然見た目違わなうわよ……あ、でも、モチモチ感は似てるかも」


「同じ米ではありますが、スプリークで栽培されているものとは少し品種が異なるのですよ」


 濃いめの青椒肉絲のタレに米が絡んで美味しい。

 国に戻ってもたまに食べられたらなぁとキャビンは思いながら、味を覚えるように噛みしめる。


 最後にデザートはレモンのシャーベットだった。


 こってりした主菜を締めるのにちょうどよく、お腹いっぱいで、大眉族だった。


「美味しかった。シェフに聞きたいことがあるから呼んでもらえるかしら」


「かしこまりました」

 楽真は厨房から、料理長を呼んできた。


 料理長は頭を下げてキャビンに訪ねる。

「お呼びと伺いました。料理長のエゼルです。何かございましたか?」


「まずはお礼を、スプリークから来た私たちにも合うような料理を選んでくれてありがとう。それにとっても美味しくて最高でした」

 キャビンが、丁寧に言うとエゼルはまた頭を下げる。

「ありがとうございます」


「それで、質問があるのですが、この青椒肉絲の味のコクを出すのにどういうものを使っているのかもし秘密でなければ教えていただけないでしょうか」

 キャビンが、ダメ元で聞くとエゼルはあっさり答えた。

「多分、オイスターソースのことをおっしゃっているのかと。炎街の食料品店で、お求めいただけますよ」

「そうなの。教えてくれてありがとうございます」

 キャビンがお礼を言うと、エゼルは微笑む。

「いえ、お気になさらず。質問とはそれだけですか?」


「せやな、女に興味なさそうな冒険者を射止める方法とか教えてほしいわぁ」

 エイテルが楽真とエゼルを交互に見てから下世話に訊ねる。


「射止めるも何も、ワチが無理やり楽真様を引っ張ったんだす。ワチが帰省の時、魔物に襲われた時にたまたま同じ隊商を護衛をしていたのが楽真様で、怪我をなさったので……助けて貰ったお礼にとワチは飯を作るくらいしか出来んって言ってたら、毎日こんな飯が食えたらなぁとかいうからチャンスじゃと思ってひっ捕まえたんじゃ」

 エゼルは接客姿勢が崩れたのかフランクに話し始める。

「こら、エゼル、お客様の前でそういう話は……すみません皆様。料理の腕はともかく、我慢が効かないものでして」

 エゼルは楽真の腕を掴んでヘラヘラと笑う。

「いいじゃろたまにはこういう話ししても……今は他に客もおらんじ、聞かれたら我慢はできんよ、楽真様」

「しょうがないな……」

「さて、お客人方。明日の朝も美味い料理出したるき、楽しみにしとってくり」

「……失礼しました」


 いちゃいちゃし始めた二人を見ながらクインテはため息をつく。

「……お腹いっぱいザマス」

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