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炎国風

「そういえば薬って何を買ったん?」

 薬に興味を持ったエイテルが朱雀に訊ねた。


「やけど、切り傷、打ち身等冒険者用の物が主だな。後は二日酔い用も買っておいた」

 薬が包まれた袋をエイテルに見せながら朱雀が答える。


「二日酔い用はバンニング班長には言わないでね。際限なく飲んじゃうから」

 キャビンは真剣に朱雀に口止めしておく。


「そうしよう。他に見ておきたい所はあるか?」

「んー。宿に戻りながら適当に見られればいいわ」

 他の二人も特に何も言わず、来た道を戻る。


 炎街で服屋や食品店を覗いたが、やはり炎国から集めて持ってきているので、その分割高だ。

 どうせ炎国の中でも町に行くからと、一旦荷物を置いて、早めの夕飯を食べてから出発することとなった。


「スッキリしたら食欲めっちゃ沸いてきたわ」

「私も楽しみ」

 心なし足取り軽いエイテルとキャビンを先頭に一行は宿へと戻った。


 宿ではレストランが併設されており、内装は朱色を基調とした絨毯、壁は磨き抜かれた板材で出来ており、板材が照明を反射して、一層部屋を明るくしていた。テーブルは朱塗りの円卓で所々金色の装飾が凝らされていた。


 レストランの入口につくと、大柄なスーツに白手袋の男性が挨拶をする。

 服装はともかく、案内の割に圧迫感が凄く、宿の護衛を兼ねているのかという程に場に似合っていなかった。

「ようこそお戻りくださいました。あちらのお席にご案内します」

「凄い、スプリーク語よ!私にもわかったわ」

「はっはっは、昔は双刃の楽真ガクシンと呼ばれて、少しは名のしれた冒険者としてあちこちを回っていたので、言語はそこそこ嗜んでおります」

 キャビンが感心する中、朱雀がポツリと呟いた。


「楽真聞いたことがある……それに、義手か」

「よくおわかりで、流石でございます」

「挨拶の際、少し違和感を覚えてな……すまない。貴殿のような強者が冒険者をやめたのが気になった。突然不躾だったな」


「いえいえ、ご覧の通り……」

 楽真は白手袋を外す。

「左肘から下が義手です。元々右利きですので配膳でお客様にご迷惑をかけることはありませんのでご容赦を……さて、お席にご案内せねば」

 楽真は手袋を戻して一礼すると、一行を席に案内してくれた。


 別のウェイターが素早くお茶を持ってきて配膳した。


「お料理はコースでよろしいですか?」

「それで頼む」

「かしこまりました」


「ねぇ、この」


 頼んでからは速やかに料理が出てくる。


 キャビンがワクワクして待っていたら、ズッキーニに似てるしゃきしゃきした野菜に透明な紐の前菜が出てきた。

 食べてみるとビネガーがかかっていてちょっと酸っぱい。

 一口、二口でなくなってしまう。

 次の料理を待っていたら余計に食欲が沸いてきた。


 すぐに次の料理がやってくる。


 白色の磁器に蓋がついた御碗だ。

 コンソメのような色だけど、肉の匂いはしない。

 具がいくつか入っているが、全部野菜のようだ。


「前菜はきゅうりと寒天の酢の物、こちらは薬膳スープです」

 大柄な男が料理の説明をしてくれる。

「ヤクゼンって何?薬なの?」


「炎国では医食同源という言葉があります。食事は医療にも通じるということで、薬効があるものを食事として取り入れているのです。今回の薬膳スープは体滞散消、疲労回復や体の強張りを取るものです。長旅のお客様に喜んでいただいています」


「確かに!体が軽くなったかも」

「そうすぐに効くものでもないザマス、キャビンさんはまだ若いのだから疲れなんてあまり残らないでしょうに」

「おばさんが年取った人みたいなこと言ってる」

「年寄りじゃないザマス。あなたも同じくらいの年になれば実感するザマス……それにしても、美味しいザマス」


「ありがとうございます。次は主菜となります。出来立てをお持ちしますので、その間に何かお飲み物でも」

 大柄な男が


 朱雀がクインテに目線で促す。

「私はお酒はやめておくザマス。酒精がなくて主菜に合うものがいいざます」

「あ、じゃあ私も」「ウチもそれで」

「四名分同じのを貰おうか」

 朱雀が伝えると楽真はうなずいた。

「かしこまりました。主菜は味が濃いものなので、爽やかな松のサイダーをご用意いたします」


「松のサイダー?サイダーは知ってるけど」

「マツという針葉樹だ。炎国ではあちこちに生えている。実なども食すことがある」

「へぇぇ、やっぱり離れた土地だと、植生も変わるのね、色々見てみたいわね」

「見るのはええけど、そこらに生えてるもんは勝手に食べたらあかんで、毒あったりするからな、ウチもおやつに食べて大変なことあったわ」

「そんなことしないわよ」


「さて、松のサイダーをお持ちしました。こちらは無毒ですのでご安心を。ですが主菜は病みつきになるやもしれませんのでお気をつけを」

 楽真が茶目っ気を入れながら松のサイダーを配っていく。


「これは飲みやすいわ!すいすい入ってくる」

「果実の豊かな香りを感じるザマス。色々な素材が組み合わされているザマスね」

「ウチおかわりや、主菜来る前に飲み終わってまう」

「美味いな」

 それぞれに感想を言い合っていると、楽真がニコッと笑う。


「お口に合いまして何よりです。こちらは僭越ながら私が作りました。各地で飲んだ先達の味をアレンジしましたここでしか飲めない無二の一品でございます」


「本当に美味しかったし、それならおかわりをもらうわ。あ、でもすぐ飲んじゃうから主菜と一緒に持ってきて、何杯も飲んだら炭酸でお腹膨れちゃうから」

 キャビンが遠慮がちに伝えた。


「かしこまりました」

 楽真は頭を下げると、厨房へ向かっていった。


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