薬屋
「お薬の調合が出来ましたよ。お持ちしてもよろしいですか?」
騒がしく歓談していた所に、翁の店主がしわがれた手で揉み手をしながらやって来た。
「すまない。酔い止め一包はこの場で飲めるか?そこの行儀の悪い冒険者に飲ませたい。他は包んでもらっていい」
朱雀が苦笑しながら店主に言った。
店主は店の奥に向かって声をかける。
「わかりました……小虎、酔い止め一包は今飲むそうだ。先に持ってきてくれ」
奥から若い女が返事をする。
「わかったー」
「朱雀さん。護衛対象かて、そんなんいうんは酷いわぁ、でも、薬もらえんのはほんま助かる。ふらふらすんのはまだ治らへん」
「なら、少しはおとなしくしてるザマス」
「じっとしとると余計に揺れが気になるやん」
すると、奥から小柄な少女が盆に水と薬を乗せ持ってきた。
「ほら、持ってきたぞ」
「ありがとう小虎」
小虎はそっと机に盆を置いた。
その動きで、キャビンの鼻の前にふわりと苦い臭いが撒かれた。
「凄く苦い臭いがする。熱が出た時を思い出すわ」
キャビンは鼻をこすって臭いを振り払う。
「うち、やっぱりいらんかも」
エイテルも顔をしかめる。
「体の中からスッーとするぞ。馬車酔いならたちまち治る」
意地の悪い顔で小虎は笑う。
「エイテル!子供じゃないんだからすぐ飲むザマス」
クインテもたしなめる。
周りに促されて、エイテルは紙に包まれた粉薬の一包を喉奥に流し込んで、水で飲み下す。
「のどが苦い……けほ、水」
薬を飲むときに水を一気に飲んでしまって足りなくて自分のお茶を更に流し込んでから、エイテルはぐったりとした。
「苦すぎや……あ、何かスッーとしてきたで、気持ちめまいも収まってきた。凄いな炎国の薬は!」
翁は訝しげに残った薬の包みを見る。
「そんなにすぐ効くものでは……」
残った粉を指につけてペロッと舐めた。
「これは……苦い。小虎また分量を変えたねね」
「絶対そっちのほうがいいって、実際早く効いたじゃん」
小虎はにひひと笑うが翁は呆れる。
「薬には副作用があるから、適宜調合しているというのに」
「な、なぁおっちゃん。副作用って何や? うち後で具合悪くなるん?」
「これであれば大して問題はありません。少しばかり倦怠感と眠気が出ますので、運動はお気をつけください」
「困……」エイテルがいいかけると、「「「「丁度いい」わ」な」ザマス」
と声が揃うと皆は笑っていた。
「作り直します。小虎は孫でして、調合を覚えたと思ったら最近は色々と試し始めてしまって」
翁は平身低頭して、朱雀へ詫びる。
それを見て、小虎は言った。
「大丈夫だよおじぃ。さっきのだけ仕上げに混ぜただけだから。他のは手順書通りのものだよ。効果が見られないのに、持ち帰りのをいじったりはしないって」
「そもそもいじるなというに」
はぁと、ため息をついて翁は朱雀に言った。
「折角我が店を訪ねて下さったのに申し訳ありません。お詫びに値引きさせていただきます」
小虎は慌てて遮る。
「ちゃんと効いてるんだから値引きする必要ないでしょ。生活費どうするのさ」
「お前の小遣いから引いておくから影響はないよ。少しは懲りなさい」
朱雀は掲示された値引き後の価格で支払う。
「……ありがたく。では代わりと言っては何だが、この街のギルド宣伝の貼り紙を手配しよう」
「お、それはええな。うちの名前を入れてや」
「それはそれは、では、薬の材料を沢山仕入れて置かないとなりませんね」
「おじぃ、冒険者に伝わったからって、客がそんなに増えるのか?」
「増えると思って備えるのも大事だよ。在庫がなければ売るに売れない」
「では、失礼する。茶も馳走になった」
朱雀が礼し、皆で退店した。
「あーめちゃ清々しくてお腹空いてきたわー!」
店を出るやいなや思い切り伸びをして大声を出す。周りの視線もお構い無しだ。
「眠気なんて全然出てないじゃない」
キャビンはぼやく。
「今んところ、爽やかさしかないわな。あの嬢ちゃんいいセンスやで」
余談になるが、キャビン達が去ってから数日後して、砂漠の交易都市の冒険者ギルドに両名の「炎街の〇〇の店は薬効に優れる 朱雀」と達筆で書かれた紙の余白に「苦くてすぐ効く エイテル」と丸っこい書体の紙が貼られた。
たちどころに薬屋は評判となった。二人の名声は宣伝に大いに役立ったらしい。




