炎街散策
バンニングと分かれてからキャビン達は炎街の散策を始めていた。
「夜なのに、人通り多いわね」
人通りは多く、露店も賑やかだ。買い物客が列を作っている店もちらほらと見受けられる。
「ふふん、日中は尋常じゃない暑さやからな。通り歩く気力も湧かん。そういう地域は、涼しくなってからが商売の始まりやで」
エイテルが自慢げに語る。
「流石冒険者、詳しいのね」
「せやろ!逆に、極北では夜が長すぎて、一日中夜のとことかもあるんや、そういうとこは一日中寝とるんやで」
エイテルの話にキャビンは目を輝かせて感心する。
クインテがエイテルの頭を引っ叩いて訂正する。
「何をお馬鹿なことを。隊長さんに嘘を教えてはだめザマス。あなた、極北に行ったことあるんザマス?」
「うぅ……ないで。頭揺らさんといて、気持ち悪いの戻ってきてしまうやろ」
エイテルが具合悪そうに口元を抑える。
「都合が悪くなったからと病人の振りするのはやめるザマス。本当に悪くなった時に助けてもらえなくなるザマス」
「せや、急に良くなってきたで。さっさと薬屋行こか」
エイテルは背筋をしゅっと伸ばして歩き始めた。
「クインテは極北に行ったことあるの?」
キャビンはキラキラと目を輝かせて尋ねた。
「雪の化身との戦いの時に行ったザマス、極北の人達は真っ暗でも普通に生活していたザマス。もっとも、雪の化身の性で大吹雪が止まらなかった時はそうではなかったザマス。それより、エイテルが勝手に行ってしまうザマス、場所も知らないのだから、追いかけないと」
エイテルを追いかけて、一行は薬屋に着いた。
薬屋は炎街の他の建物と同じで広々とした木造の平屋だった。中は朱塗りの柱等炎国風の内装だった。
薬屋だけあって独特の匂いが立ち込めている。
沢山の棚が壁にびっしりとあり、あちこちに薬の材料が入っているのだろう。
引き出しには炎国語で何か文字が書いてあるから、材料の名前だろう。
朱雀が店主に馬車酔い止めや、他にもいくつかの薬の調合を頼むと、端にある喫茶室で待っているように言われた。
「先ほどの話の続きを伺いたい。クインテ殿、魔力感知のダンジョンは君たちが攻略を攻略したのか?」
クインテは少し驚く。
「そうザマス。よくご存知ですね」
「魔力感知のダンジョン?」
キャビンが初めて聞いた単語が気になって尋ねた。
「魔力感知というのはわかるか?」
「知ってるし、出来るわよ。こう、視覚に魔力を乗せると魔力の流れがわかるってやつ。沢山練習したわ」
「そうだ。では、それがいつ使われ始めたのかを知っているか?」
「知らないけど、大昔からじゃないの?」
キャビンがキョトンとすると、クインテが答える。
「魔力感知は使われ始めてから20年経っていないザマス」
「え、そうなの? こんなに便利なのに、使われてなかったの?」
「魔力と魔法は全然違うザマス。魔法はダンジョンを攻略すると世界に解放されると言われているザマス」
「へー。ん?でも、魔法って何千とあるわよね?魔法図鑑で見たことあるわ。棚一杯になるくらい全部魔法の説明がある本。そんなに全部ダンジョン攻略したってこと」
「何千年もかけて解放されていると言われているザマス。今でも一年に数箇所のダンジョンが攻略されているザマス。年3箇所として2000年で6000個、妥当な数になるザマス」
「そんなにあちこちにダンジョンってあったっけ?」
朱雀が答える。
「ダンジョンはいつの間にか発現して、攻略されると消える。難易度もまばらだ。おとぎ話ではあるが、炎国にあったダンジョンは、炎に包まれた壁が迫りくる部屋を通り抜けると、攻略となり、炎魔法が世界に解放された。それが炎魔法の始まりであり、攻略したものが初代の炎王であり、炎国の始まりであるとされている」
「炎のダンジョンは熱そうね」
「そうだろうな。今は跡地として標識があって観光名所になっている。炎国の中央にある山の中腹だ。そこから真南に朱雀門がある。拙者が拝命した地だな」
「何か関係あるの?」
「儀礼的に炎国の中央の南を守護する地となっている。他の意味はない」
「そんなわけで、おばさんが魔力感知を解放したから皆使えるようになったってわけやな」
エイテルが何故か得意げに言う。
「そういえば、解放された魔法ってどうやってわかるの?」
「ダンジョンの最奥にある宝箱に珠が入っているザマス。それに触れるとわかるザマス。やり方の映像が頭に流れ込んでくるザマス。だから、最初の攻略者は練習しなくても使えるので特権と言われているザマス」
「へー、いいわね。あ、でもさ。その攻略者が魔法を広めなかったら世界に魔法は広まらないってこと?隠」
「WITという魔法が付与された木板があって、そこに攻略者が見た映像が表れるザマス。各ギルドや魔法学院、様々な所にあり、作ることが出来ます。勿論映像なので、使い方を理解するために研究する必要があるザマス」
「映像を見ても使い方がわからないやつとかありそうね」
キャビンは興味深くうなずいた。
「せや、そもそも大規模魔法は、魔力足りんと再現も何もあったもんやないからな。WITに載った魔法だからって、全部がお手軽に使えるわけやないんやで」
エイテルが得意げに言う。
「それに、使い方は多様だ。炎国の炎魔法が最たる例と言えるが、炎大きな火の玉として敵を倒すだけでなく、料理の種火とすることや、一欠片発現させて、焦がして字を書くのに使ったり出来る。他にも歴史の中で使い方が工夫されていった魔法も多い」
「わかるわ! 魔法の応用研究は楽しいもの!」
キャビンは共感出来る話に嬉しくなってはしゃいで立ち上がるとクインテが手を前に出して遮った。
「キャビン隊長、そういう魔法の使い方は国の秘密もあるザマス。こういう所で話さないようバンニングに言われているはずザマス。気をつけるザマス」
キャビンはシュンとして座った。
「気をつけながら話せば問題ない。実は拙者も魔力感知には世話になった口でな。ダンジョンで隠れて奇襲をしてくる魔物に苦戦した際に、魔力感知で切り抜けた事があった。あれがなければ魔物の来る方向がわからず苦戦したであろうな。なので礼を言いたかったのだ。クインテ殿。感謝する」
「そんな……依頼のついでに、たまたま攻略出来ただけザマス。こういうのは、お互い様ザマスから気になさらないでほしいザマス」
「かたじけない」
気まずい沈黙を打ち消すように、エイテルがずずっと音を立てながらお茶を飲む。
「このお茶すっきりするで。酔い止めになりそやな」
「エイテル!まったく。音を立てるなんて行儀悪いザマス、今度マナーを一通りやり直したほうがいいザマスね……まずカップの持ち方は……」
いつもの調子でお小言を言うクインテを見ながら、キャビンは音を立てないようにお茶にそっと口をつけるのだった。




