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月夜にて

 トラックのシシオンは、アオリの上に寝っ転がって月を眺めていた。


 砂漠の夜は冷える。

 さっきまで真夏のように日の照り返しに苦しんでいた(荷代だからそれほどでもなかった)が、日が落ちると、熱は地面に溶けていったように消え去った。

 代わりに冷たい風がやって来て夜の砂漠は凍える世界に様変わりする。

 一応、厚着して対策はしているが、トラックから発せられる空調魔法が上部にも届いており、シシオンは快適にいられるのだった。

 それに、今夜は月夜が幸いして多少は明るいし、町の明かりも漏れて来ているので、人影くらいはわかりそうで、トラックの護衛には十分な明るさだ。


 空調魔法といえば視認しづらい点も奇妙だ。

 トラック荷台上部を囲む魔法陣があるし、寒くないから空調魔法の範囲内だと分かる。

 しかし、他の魔法と違って光がないのだ。空調魔法が発動しているならその範囲内全てが明るいはずだ。  

 だが、魔法陣の文字は弱く輝いているが眩しくもなく、照明にもならない。


 普通に魔法陣を改良する場合、魔力を減らしたり威力を高める方に改良するので眩しくて居づらいなんていう使用性まで考慮しない。

 前に乗った馬車も、常時空調魔法が発動していたのではなく、発動して快適になって、また暑くなったら使うみたいな都度かけるやり方だった。

 お陰で断熱性やらの機能面が発達したと聞く。

 しかし、常時発動している空調魔法の方が明らかに快適で、流石キャビンの桁違いの魔力量と、優秀な研究班だなとシシオンは感心していた。


 普段はグルメと討伐クエストのこと以外は考えないシシオンが何で思索を巡らせているかと言うと、暇だからだ。

 それにふと気になったからだ。この空調魔法が馬車にもあれば移動時に困らない。(砂も、冷たい風も入ってきていないのだ)

 安宿でも快適に泊まれそうだ。


 そろそろ荷台から今日の飯と、飲みもんでも取ってくるか。


 そう思ったとき、ふと遠くに人の動く気配が近づいてきた。

 気を張り巡らせ、神経を研ぎ澄ませて集中する。

 フードを被って荷物を持つ男が一人。


 シシオンの射程範囲まであと3歩。

 ザクと止まることなく砂を踏み、トラックに近づいてくる足音。


 ザクともう一歩。次の一歩で警告射撃だと指を引き金にかける。


 撃つかと思ったタイミングで、フードの男が立ち止まり、大声を張り上げた。

「飯持ってきたぞー!」


「んだよ、ヴァンかよ……」

 シシオンは緊張が解けると、悪態をつきながらバンニングのもとへ向かった。


「何でわざわざ飯、持ってきたんだよ。積み込んでんのがいくらでもあるだろ」

「それは、旅行用だ。町の出来立が食えるのに、わざわざ糧食を減らす必要もあるまい?」

 シシオンは荷台に入ると、ありがたくバンニングが持ってきた餡掛けチャーハンとスープを食べる。


「朱雀の護衛はどうした? まさか、エイテルの嬢ちゃんに任せてねぇよな?」

 冷めにくい餡掛けはまだ温度を保っていて、シシオンは感激しながら食べすすめる。依頼中だろうが、飯は大事だ、食わないとやる気なくなるし、冷たい飯はやる気が減らない程度、温かい飯はやる気が増す。


「クインテに護衛を任せてきた」

「なっ……たくクインテは炎国に着いたら別の任務だろ。任務外の仕事で使うなよ」

「お前もだろ」

「俺は良いんだよ。それを言うならトラックの護衛はヴァンの仕事だろうに」


「そうだな。だから戻ってきたが、結果として釣れただろ?」

「護衛が弱いように見せかけて、狙っているやつらを釣り上げる……ね、俺が勝てなかったらどうするつもりだったんだ?」

 トラックの周り、シシオンの射撃範囲をなぞって、20人程度が倒れていた。

 全員が黒い布で顔を覆った襲撃者だ。揃いのヘビの刺しゅうが入っている。


 シシオンが色々と暇つぶしに考え始めたのも、こいつらがやってきたからだった。



 アオリに登って、周りを見渡せると把握してから、銃の整備も終わると、仰向けになって、月の動くのを眺めていた。

 すると、警戒もなくザクザクと歩いてくる集団がやって来た。

 この人数だ、足音の警戒もせず、そのまま歩いてくる。人数が多いからか驕っているのかとシシオンは





「お前は負けない。なんせ俺の後背を任せた奴だ」

「ヴァン……」

「それに、秘蔵の酒をしこたま買い込んでんだ。指一本触れさせないだろ!」

「てめ!ちょっとは見直したってのに調子いいのは変わらねぇな」


 シシオンが飽きれてため息をつく。

「ったく。今日は俺が護衛しとく。それより、そいつらをしょっぴいて目的でも暴いといてくれ。麻痺の魔法弾だから解呪すればすぐに話せるくらいにはなる。元通り戻るには数日ってとこか」

 シシオンは気楽にバンニングに伝えた。バンニングも勝手は分かっているので、そんなものだろうとうなずいた。


「じゃあ、護衛頼むぞ」

「おう」

 飯を食って気合い十分なシシオンは、いそいそとアオリの上に登ると、食後のコーヒーを淹れ始めた。



 バンニングは見本代わりに一体を担ぐと城門前の衛視の詰所へ連れて行った。

「ぞぞぞ、ぞくぞくですと!」

 衛視長が噛みながら返事をする。

「おう。ぞくぞくするほどの大物じゃないが、俺達の乗り物を襲おうとした賊なんでな。色々訳ありな移動だ、今後に備えるためにも、尋問に同席させてもらいたい」


 バンニングがスプリークの輸送隊章を見せると、衛視長は引きつった顔で答えた。

「す、すみません。私は尋問の権限まではないので、賊は中の司法所に引き渡すだけです。司法所で話をしていただければと」


「しょうがないな。案内してくれ」

「はいぃぃ」

 衛視長は、部下に砂漠で転がっている賊の逮捕を命じるとバンニングを司法所の入口まで案内した。


「こちらが司法所になります。ここで受付をします。あ、ちょっと待ってください 


 帰ろうとして出ていく大柄なちょび髭に衛視長が声を掛けた。

「所長。まだ、ご勤務されていたのですか。お疲れ様です」

「衛視長か、また何かあったのか?」

「郊外でこちらの方の乗り物が賊の集団に襲われたと」

 衛視長が説明すると、司法所長は気だるげに答えた。

「町の外の賊討伐の依頼は冒険者ギルドにしてくれ。ウチは捕まえたりはせん」

「いえ、そうではなく……」

 衛視長がモゴモゴ言っているのでバンニングが自分で説明することにした。


「始めまして司法所長、私はスプリークの王国軍のバンニングと申します。賊は捕縛済みですので、尋問に同席させていただきたく」

「その、縄でくくられて君に担がれているのが賊かね? 勾留手続きならともかく、尋問は明日になるだろう。当直以外はもう帰宅している」

「実はこいつは賊の一味の一人でして、他に19人ほどいます。我が方の護衛が捕縛しました」



 バンニングが自信満々に言うと司法所長はケタケタと笑い出した。

「過労で聞き間違えたかな? すまない。20人の盗賊でそのような黒い顔の覆い、ヘビのマークの装束が特徴の一味といったら『スナクサリの牙』だが、やつらは手練れだ。捕まえられるわけがない。本当なら全員呼び戻して賊をぶち込んで、都市長に報告までしないとならなくなる。そいつらは『スナクサリの牙』を模倣した、ただの無法ものでしょうな」


 バンニングは慇懃に頭を下げる。

「ご多忙な所、真に申し訳ない」


 司法所長はくたびれた顔で笑う。

「いや、バンニング殿も責務から気が急いてしまったのでしょう。そのチンケな偽物の尋問は明日行うよう手配しますので本日はお休み下さい」



 ふと、司法所の入口で歓声が上がったのが聞こえた。

 バンニングと司法所長はそちらを向くと、黒装束の一団が何台かの荷車でまとめて運ばれてきた。


「所長、急ぎお伝えがあります」

「何だね警務隊長、『スナクサリの牙』の模倣犯なら通常の手続き通り取り計らってくれて構わないぞ」

 司法所長は警務隊長にそう指示する。


「本物です、リーダーのワジ・エルグを見間違えるはずがありません!我々が敬愛した前任の警務隊長を殺したヤツの顔を忘れるはずがありません!」

 警務隊長は涙声ながらに司法所長に伝える。


「ほ、本物?」

「至急尋問しアジトと残りの仲間の場所を吐かせるのです!仲間が逃げて再起を図られたらこの好機が水泡に帰します」


「わ、私の休みがぁ」

 司法所長はぷつんと膝から崩れ落ちると倒れながら自然と頬が二筋濡れているのを感じた。




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