砂漠の交易都市
日が落ちる1時間ほど前にキャビン一行は交易都市の城門までやってくることができた。
城門脇にトラックを止めると、衛視が奇異な目を向けながら数人駆け寄ってきた。
何か大声で言っているがキャビンにはよくわからなかった。
バンニングが、トラックを止めろと言われているというのでエンジンを切って、キャビンは笑みを浮かべて停車する。
バンニングがシートベルトを外して、全員に聴こえるように大声で言った。
「話してくるから待っててくれ」
バンニングが降りていくと衛視に囲まれながら堂々と説明をしていた。
「流石あちこちを回っていた冒険者だけあるわね」
キャビンが感心していると、シシオンが得意げに言う。
「そうだな。俺達は前回、隊商の馬車に乗っけてもらって着たんだ。そん時に言葉を教えてもらった。何十日もかけて砂漠やら乾燥地帯やら抜けてったな。暑かったのを思い出したぜ」
「そんなこと言って!暑さを我慢して戦ったのはバンニングだったザマス。魔物が出たときすら、冷気魔法のかかった荷台から降りないで攻撃してたザマス。それで射角が取れなくてシシオンが焦ってたのを思い出してきたザマス」
「忘れてくれよ……」
中の2人がじゃれている最中、バンニングは緊張する衛視を和ませようと、色々と説明しているようだった。
「ようこそ▲○□へ」
囲んでいた若い衛視の一人が集団から離れて近づいてきて運転席の窓越しにキャビンに挨拶してきた。
好奇心旺盛なようで、物珍しげにトラックを眺めた後も話し続けていた。
しかし、キャビンに聞き取れたのはそこだけだった。
後は町中を指さしながら話しているジェスチャーから町中の説明をしてくれているようだが、わからない。
キャビンの反応にトーンダウンしていったが、後ろにいるシシオンが、ふんふんとうなずきながら質問をするので、また矢継ぎ早に話題をつたえてくれているようだった。
「全然わかんない……」
「まぁ慣れだ。それに町中じゃあ色んな所から商人やら冒険者やらが集まってるからスプリークの言葉が話せるやつもいる。地元の言葉が1番多いが、2番目に多いのは炎国の言葉だな特に炎国の商人は区画があるくらいだ。朱雀の言ってるのもそこだろう。っとちょっと降りて話してくるぜ」
シシオンが荷台から降りて衛視と話しに行ったので、朱雀が続けてキャビンに説明する。
「炎街と言って炎国の者が集まっている場所がある。が、炎街も分かれている。スプリークで言う貴族領地のようなものか。その区分けで炎街も異なる。異郷の炎街では歓迎されないこともある」
「それはわかるかも。領主同士が仲悪いのに、領民が表立って仲良くは出来ないし」
「逆に、同郷は助け合うので普通より安く買えたり、身内にしか出さない秘蔵の薬などもある」
バンニングが衛視と話し終わって戻ってきた。
「話はまとまった。シシオンはトラックを外れまで運転してそのまま護衛。残りは一泊宿に泊まる。明日の午前中には出発する」
「わかったぜ。ただ俺も明日、市場に行く時間はもらうぜ」
「そうだな。早めに俺が戻るから、その後町を見てくるといい」
それからシシオンを残して、キャビン、バンニング、エイテル、クインテ、朱雀は都市に入った。
キャビンがキョロキョロと眺めながらバンニングに尋ねた。
「思ったより新しい建物が多いのね?それに、電灯で明るいわ」
「交易都市は見本市にもなるからな!」
「見本市?」
「わかったで!各地から人が集まるってことは商品だけやなくて、建築技術も集まるわけやそんで、目を惹く建物を建てて、自国でも建ててもらうんようアピールしてるんやな」
「そういう事だ。昔は建築材が重かったから地元の物でしか建てられなかったし、風土に合ってなかったが今は鉄筋やコンクリートがあるからなデザインで惹きつけられる」
「すごいもんやな」
朱雀が補足する。
「伝統的な建築も廃れたわけではない。デザインをそのままに、新素材で建てられて物も多い。耐久性や保温性は目覚ましく向上していると聞いている」
「宿も快適だといいなぁ」
「せっかくだ、炎国式で良ければ探せるが?」
キャビンの声が弾む。
「せっかくだからお願いしましょう。炎国での作法の練習にもなるし」
バンニングも頷く。
「朱雀殿お願いします」
「承った」
四人が炎街に向かったら朱雀の同郷はすぐに見つかり、宿まで案内してくれた。
宿は炎国式の赤い壁と、紅の瓦で囲われていて、門には睨みつける虎と鰐の彫刻がされていた。
10部屋程度しかないこじんまりとしたものだったが、嗅いだことのない香りが立ち昇り高級感を放っていた。
「思ったより開放的ね。中は靴で入れるし、ホテルと同じみたい」
「交易都市やから閉鎖的やと合わんのやろ。そいでも入り口は相当に自国風を強調しとったけどな」
朱雀がチェックインして、部屋の手配をしてくれるのを待つ間、宿のラウンジで椅子に座ってくつろいでいた。
すると、従業員がつやつやとした黒塗りの盆に乗せてお茶を持ってきてくれた。
「炎国の茶だ。懐かしい。スプリークには中々届かないからホッとするな」
朱雀が飲むのを真似て、キャビンも口をつける、熱い茶なのだが、涼し気な花の匂い、どことなく花の蜜のような甘い香りがして、すっと染み渡る飲み物だった。
「甘くて美味しい、喉も乾いてたんだなぁって実感しました」
キャビンが続きを飲むと、朱雀は穏やかに微笑んだ。
「気に入ってくれたか? この茶葉も香料も我が故郷のものだそうだから気に入ってきれたなら嬉しい。土産に炎国から帰るときの土産にしてくれたらいいかもな。ちなみに、蜜や糖は入ってないから健康にもいい、菓子に合わせたときに甘くなりすぎないしな」
「皆さまご準備出来ました、お部屋にご案内します男性と女性で二部屋ありますが、お隣の部屋でご用意してございます」
従業員に連れられて部屋の前まで案内される。
そこで鍵を受け取ると朱雀が提案する。
「一旦休んだら、薬屋に行こうと思う。エイテル殿の酔い止めを探そう。エイテル殿はいかがするか?休んでいても構わないが」
「ウチの事で手ぇ貸してもらうんやウチも行きます。それにさっきのお茶とか、少し歩いたりとかで、大分マシになってきましたから大丈夫や」
エイテルが強気に言うとクインテが頭を下げる。
「身内がご迷惑をおかけして申し訳ないザマス」
「んじゃ決まりだな、俺は町で適当に晩飯買ってシシオンに届けてくる。その間はクインテ。朱雀殿の護衛を頼む、エイテルはまだ本調子じゃなさそうだしな、宿で飯が出るそうだが先に食ってくれ」
「放っておいてもいいのでは?食料なら沢山積んであるザマス」
「護衛してくれてるんだ、そういうわけにもいくまい、届けたらすぐ戻るさ」
「バンニング班長、気をつけてね」
「おうよ、隊長もせっかくだ、レポートの端っこに書ける思い出話を作ってきな」




