初めての長距離移動
バレーラモンテノーザの関所をつつが無く通り抜け、しばらく陸路を走り、人目がなくなった所でキャビンは空中走行に切り替えた。
虹は目立ちすぎるようなので薄雲が散ってるようなカムフラージュに切り替えた。
時速数百キロは出ていて、キャビンは鼻歌混じりに東へとかけて行く。
前方下にうっすら見える島々は点に見える。
それだけ高い所を走っているが、実際どれくらいの大きさだろうか。
確か炎国へ入るときは物凄く高い山を超えるらしいがどのくらいだろうか。
色々考えながら運転していると、荷台からシシオンの声が聞こえた。
「ちょっと休まねぇか?もう昼過ぎてんだろ」
「ごめん無理。今海上、進路上に止まれるどこはないわ。昼ご飯も車内で適当に食べてて」
「わかった。後どのくらいで休憩予定だ?」
「バンニングどう?」
「東の砂漠で一旦降りるのは出来るが数時間後だ……酔ったか?」
「エイテルがな、朝飯食い過ぎなんだよ。それに昼飯もソーセージとか脂っこいものばっか食いやがって。とりあえずバケツに出したが、臭いったらない」
エイテルは顔を真っ青にしてバケツに突っ伏していた。
「クインテ、シールは使わないのか」
クインテは鼻を覆いながらくぐもった声で答えた。
「シールするならバケツごと閉じることになるザマス。次に使えなくなるのは困るザマス」
「長距離移動は色々課題があるわね」
キャビンは迷う。
「臭いがこびりついても困るし、一旦降りられそうな島を探して休みましょ」
しばらくして、人目にふれなそうな無人島を見つけると一休みする。
荷台でほとんど閉め切っていた状態から解放されてすっきりした様子だった。
エイテルはバケツを処理して出発する頃には顔色が良さそうだった。
「なぁ、安心したらまたお腹空いたわ、食べていい?」
「あなた!こんなに迷惑かけて。護衛対象の前で吐くなんて不甲斐ない事しといてまた繰り返すざますか!シールはあなたにしたほうがいいざますね!」
「シールって密閉の魔法やろ?何や魔法の膜で覆われたら、うち息できなくて死んでしまうんちゃう」
「そう思うなら自制するザマス」
二人がキャイキャイ騒ぎ始めたのでバンニングがたしなめる。
「遠回りしちまったんだ、元気ならすぐ出るぞ、遅くなると町に入れん」
「今夜はどこに泊まるのか?」
朱雀が尋ねる。
「砂漠の都市……だ」
「速いな、数日かかるという話ではなかったか?」
「道がなめらかだと思ったより速いみたい」
「隊長が飛ばしてるのもある。かなり速度出している」
「なら、休憩増やそうぜ」
「町がないのでは」
「そうザマス、流石朱雀殿」
「しかも、通常の陸路をそれてるから宿場町もない」
「ガタガタはせんけど、引っ張られる感覚が辛いんや、ちょこちょこ地面で息吸いたいわ」
「ちょっとなら窓空けていいわよ」
「そんなんしたら、中の荷物吹き散らかすわ!突風やろ外」
「確か!」
キャビンがざっくりと計算するとエイテルが吠えた。
「荷台に風魔法放つようなもんや。そん中で息しろって無理やろ」
「そうね!」
「そうね!ちゃうわ」
「うるさいザマス、あなたは客じゃないザマス。我慢なさい。本当に申し訳ないザマス朱雀様」
「いや、賑やかな旅で結構だ」
「……酔い止めの魔法?引っ張られるのを軽減?いや、酔わん人もおるなら、身体を酔わない人と同じ体質にするか?」
うるさいと言われたエイテルはブツブツと酔わない魔法作りに没頭して気を紛らわすのだった。
「何とか間に合いそうね」
西日が落ちかけて夜が迫る中、東の町に灯り始めた明かりを見つけて、キャビンは安堵した。
バンニングが荷台に声を掛ける
「おう、待たせたな、もうすぐ町に着くから陸路に切り替えるぞ、揺れるから気をつけろ」
「わかった」
グロッキーなエイテルは弱々しい声を精一杯張り上げた。
「交易都市といえば、炎国の薬もあるやもしれぬな。吐き気や、めまい等の酔いにも効くだろう。同卿の店を探そう」
朱雀がふと思い出してエイテルに励ますように語りかけた。
「ほんま、助かるで」
「砂漠っていや、砂クジラだな脂肪がみずみずしいんだ」
シシオンは前に寄ったレストランを回想する。
「脂の話とかせんといて!」
エイテルは悲鳴のように言う。
「エイテルうるさいザマス!静かに寝てるザマス」
エイテルはシュンとして、そのままうなだれながら目をつむった。
魔法の床は緩やかに下る。キャビンは坂を降りながら減速していく。
この速度で砂漠に突っ込むと横転しかねない。
ガタガタと走行音が切り替わる頃には、速度も落ちていて、後ろに引っ張られる感覚も緩やかになっていく。
揺れてはいるがホッとする空気感を味わいつつ、日の入り前に都市へ入りたいキャビンは、また少し速度を上げた。
長距離移動が楽になる魔法が欲しい。
転移をとるか旅情をとるか悩ましい。




