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バレーラモンタノーザの朝

「昨晩は大変失礼したざぁます。せっかく男爵にも素敵なディナーをご用意していただいたのにお詫びの言葉もないざぁます」

 クインテは朝起きると青ざめてバタバタと取り乱しながら最低限の支度をして男爵の屋敷へ謝罪に向かった。


「構いません。旅の恥は書き捨てと申します。今後もご贔屓にしてくだされば助かります。そういえばクインテ様はかのパラケルスス教授の教え子だとか……今の館長、パラケルスス教授のお孫さんがお困りの際は力になっていただけると、街が賑やかになって嬉しいです」

 男爵はホクホクと、クインテに優しく微笑んだ。


「それは勿論……ではさっそく行くざます」

「お待ち下さい。まだ朝早く、博物館も開いていないでしょう。皆様でホテルの朝食を召し上がってからでも十分かと思います、新鮮な牛乳や焼き立てのパンは道中では中々召し上がれないものですよ」

 クインテは謝罪に行った男爵の好意を無下にするわけにも行かず、ホテルに戻り朝食会場へ足を運んだ。


 朝食は他の客ともいる大広間で、壁際に多数のテーブル、中央に食事が置かれているビュッフェスタイルだった。


「あ、おばさんや。男爵さんは許してくれたん?」

 大広間の入口にやってきたクインテを見かけて、エイテルが声をかけた。

「朝から騒々しいざます」

「夜なら騒々しくてええんか?せっかく忘れたろて思うとんのに」

 ニヤニヤするエイテルにカッとなって小声で怒鳴る。

「お黙るざます」

「まぁ、今は皆がおるからこれくらいで堪忍したるわ。席はあっちや」

 クインテはエイテルについて行って席につく。


 全員丁度戻ってきていたのでクインテは頭を下げる。

「昨日ははしたない真似をして申し訳なかったざます」

「酒の席なんかあんなもんだ。気にすんな」

 と、少しは気にしてほしいバンニングに言われてしまった。

 他の面々はそれを見て気まずそうに肯いた。


「さ、もう済んだことだし、ご飯食べたら出発しましょ。気になるなら今後気をつければいいわよ」

 キャビンは雰囲気を明るくしようと元気に言い放った。


「私はちょっと男爵に頼み事されたので、それが終わったらの出発でお願いするざます」

「わかったわ。どのくらいかかるの?」

「パラケルスス教授の魔導博物館に寄って挨拶してくるざます。場合によっては少し手伝うので2時間は見てほしいざます」

「わかりました。荷物の積み込みとか準備はして待ってるから行ってきて下さい」

「ウチもついてこか?」

 もぐもぐと熱々のベーコンを食べながらエイテルが聞いた。

 結構な量を更に取ってきていて、魔法で保温の魔法をかけていた。

「結構ざます、あなたが食べてる間に終わりそうザマス」

「なら、俺がついてくぜ。もう食い終わってる」

「頼むザマス」

 二人は連れ立って出ていった。


「よく朝からそんなに食べられるわね」

「そか?今日は一日移動するんやろ? ちゃんと食うとかんと気力続かんよ、落っこちたら敵わんしな」


「適量食べてるわよ」

 キャビンが答えると、エイテルは返事の代わりに食べながらグーサインをしてくる。


「バンニング、私は荷物の確認してるから皆の準備が出来たらトラックまで来て」

「了解、隊長。それで荷物結構あるからよろしく頼むな」

 バンニングも山になった皿の間から笑いながら答える。

 朝飯がたくさん食べられてご機嫌なんだろう。

 キャビンはハイハイと手を振って答えた。


 キャビンは男爵の席の側に立って男爵に声をかけた。

「男爵、ご歓待ありがとございました。王都にいらした際はいつでも当家へお越しください。もっとも、私が戻るのはしばらく先になりますが、母はおりますので」

「こちらこそ、様々なお話を伺えて、楽しい一時でした。私も当面は我が領地を盛り上げるのに専念いたしましょう、キャビン殿がお戻りの後に是非寄らせていただきます」

 キャビンは丁寧に男爵と握手すると、トラックへ向かった。


 トラックの荷台を見ると、主にバンニングが買ったと思われる酒やらツマミやらがぎっしり瓶やら食料やらの木箱が埋め尽くされていた。

 輸送隊副隊長が詰んだだけあって、流石に崩れはしないが、とても座れる状態ではなかった。


「やっぱり買いすぎてるわ。えと、どのレバーだっけ?」

 キャビンは荷台の入口にある複数のレバーから必要なやつを探す。

 レバーには文字が書いてあり、お目当てを見つけてロックを解除すると、ガチャんと下げる。



 特に何も起こらない。



「あっエンジンかけないと」

 キャビンは小走りで運転席に向かい、エンジンをかけて再度レバーを引く。


 エンジン音が僅かに重くなり、荷台の壁面に青い線が引かれていく。

「正常ね」

 続けてレバーを一段下げると水色になる。

 もう一段繰り返して緑になった所でキャビンは満足げにレバーをロックした。


「待たせた」

 朱雀が来て、トラックの荷台に乗り込もうとして驚いて足をおろした。

「キャビン殿、荷台が広くないか?」

「そう?荷物が多いから昨日と同じくらいしかないですけど」

「荷物があって、昨日と同じに広いのがおかしいだろう?」

「中を伸ばしたんです!ぐにゅ〜って。これ以上は秘密です」


「中に入って問題ないのか?」

「大丈夫です。検証済みです」

 そうは言われてもと、朱雀は伸ばされた荷台に恐る恐る入る。


 朱雀が見ると中は薄ぼんやりと赤く光っているが、それ以外は特段変わった感じはなかった。

「色はエイテルあたりに白の照明を出してもらえば気にならないと思います」

「問題ない、とりあえず待つか」


 皆を待っているとバラバラにやって来た。

 特に気にする様子でも無く乗り込んだが、ギリギリまで食べていて、最後にやってきたエイテルだけが

「ありえへんやろ!」

 と叫んで、キャビンを質問攻めにしようとした。

 バンニングが機密だと押し留めて、ふくれっ面のエイテルを荷台に押し込むとようやく出発となった。

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