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バレーラモンタノーザの夕食

 興奮冷めやらぬ魔導博物館は通報があって、官憲の取り調べのため臨時休館となった。


 古参の官憲が初代パラケルススの時にもこういう事がよくあったというと、きつく注意されただけで終わった。


 キャビンたちは気まずくて、落ちた瓦礫やら気絶した客の介抱を館長に申し出て魔導博物館で手伝っていたらすっかり夕方になっていた。


 何とか明日も会館出来ますと館長がホッとしていたので、 後を任せてキャビンたちは急いでホテルのレストランへ向かった。


「おう、遅かったな」

 赤ら顔でつまみとワインを楽しんでいるバンニングと呆れ顔のクインテがいた。


 男爵もいて、キャビン達が席に近づくと破顔して声をかけてきた。

「これはエイテル殿、魔導博物館のドラゴンのパフォーマンスを手伝いなさったとか!さ、どうぞおかけ下さい。博物館からの光が、我が屋敷からも見えましたぞ!あれをパラケルスス教授以外に動かせるものがいるとは驚きましたな」


「あー、こちらこそ街中に迷惑かけてもうて、申し訳ない。ちょっと勢いつきすぎたわ」

 エイテルがチラチラとキャビンの方を見ながら答えると、バンニングは意味ありげに目線を送ってきた。


 キャビンは縮こまりながら黙ってコップに口を付けた。


「迷惑だなんて、最近はサハギン騒動やらで粛厳な雰囲気が続いておりましたからな。実はバレーラモンテノーザは派手好き、祭り好きの気風でしてな、住民は久々のイベントで楽しんでおりましたぞ!」


 クインテが二人を睨みつける。

「観光といっても限度があるざぁます。男爵はこうおっしゃって下さってるざぁマスが、街中はパニックでドラゴンが出たと大騒ぎにもなったざぁます。ヴァンがいなかったら、怪我人も出たかもしれないざぁました。あーしも、魔導学院でパラケルスス教授にはお世話になりましたので、ご迷惑をかけて身が縮む思いざぁますよ……まったく……」


「おい、クインテちょいと飲み過ぎじゃあないか?無事で済んだんだ。面白いイベントだったと締めて終わりでいいじゃないか」

「デバンにも同じ事がいえますの?頭抱えるに違いありませんわ」

「口調も戻ってるぞ」

「私の気品に恐れをなしたと思ったからふざけ口調に変えたのに結局付き合ってくれなかったじゃないの!」

「そういうわけじゃないんだが……」

「服も駄目、化粧も口調も駄目、冒険者としてついてっても駄目…駄目駄目ですわ〜」

 クインテはグラスに残ったワインを一息で飲み干すとそのまま机に突っ伏してしまった。


「クインテ?クインテ! 駄目だ、寝たな。シシオン、部屋へ送ってやってくれ」


「わかったよ。んじゃ楽にさせるから姪っ子はついてきてくれ」


「誰が姪っ子やねん、エイテルっちゅうとんやろ」


「あの、騒がしくてすみません。観光気分で皆浮かれてるみたいで」

 キャビンが男爵に謝罪すると、男爵はホクホクと笑った。


「構いませんよ。言ったでしょう、バレーラモンテノーザは祭り好き、我が領の産物を楽しんでいただけるのは本懐ですぞ。さ、キャビン殿も気にせず召し上がって下さい」


「ありがとうございます」

 キャビンは最後のデザートを食べて心を落ち着かせる。チーズをたっぷり使ったケーキで、フォークで切り崩すだけで芳醇な香りが満ちる。


「苦労しているな」

 朱雀がキャビンに労いの声をかける。


「クインテさんはもっと落ち着いているかと思ってたけど」


「普段は落ち着いているぞ、今日は飲みすぎてたな。久々に冒険者仲間で集まれてはしゃいだんだろ」

 デバンが余裕たっぷりに言うので、キャビンはからかい気味に聞いた。

「ずいぶんモテてるみたいじゃない?」


「忘れてくれ、それに愛だの恋だのは当面いい」

「どういう意味よ?」


「……クインテに関しては、シシオンがお熱だからな。いくら助けられたからって、十年近く一緒にいないだろ」

「前にちょっと聞いたっけ、シシオンが村の狩人していて魔物に襲われた時、クインテさんが助けてくれたって」

「そうだな、村にスラッシュベアーが来るっていうんで冒険者ギルドに依頼があって俺達が受けた。弓しかもってなかったシシオンがちょうど森でスラッシュベアーに遭遇したが、どうしょうもなくて、クインテが炎の魔法で黒焦げにした」

「それでクインテさんが張り切りすぎて、魔力切れになってた所にゴブリンが現れてシシオンが助けたのよね?」

 何回聞いてもギリギリすぎてヒヤッとする話だ。


「おいおい何だぁ、人がいない間に昔話かぁ?せっかくなら俺の活躍は盛ってくれて良いんだぜ」

 シシオンはひょいと席に戻ると作法もお構い無しにナイフでステーキを乱雑にカットして口に放り込む。


「クインテは大丈夫そうか?」

 バンニングが尋ねると、シシオンはどかっと座って酒を呷る。

「とりあえず水飲ませて寝かせておいた。着替えは姪っ子に任してある。ま、一晩寝りゃ大丈夫だろ。ヴァンに会えて羽目外しちまったんだろうな」


「あの、シシオンさんはクインテさんと付き合いたいとかはないんですか?」

 キャビンが尋ねるとシシオンは、ほの暗く笑い飛ばす。 

「ないない。相手はお貴族様だぜ?こっちはただの冒険者、そのせいで嫌な思いもさせたくないしな」

「でも、お父さんは平民だったけど貴族のお母さんと結婚したわ」


「俺はブレイブほど肝がすわってないんだ、でなきゃとっくに……何でもねぇ。今日のことはクインテのも含めて酔っぱらいの戯言と流してくれ。男爵様もそれで頼むぜ」


「はて?私は皆様が美味しく楽しく召し上がっていただいた事が嬉しくて何も聞いておりませんでした」

 ホクホクと男爵は微笑んだ。

「ありがとな、それよりヴァン。買い出しはどうだったよ?」

「色々買えたぞ、やはりワインやチーズは直接試さないと質がわからん。帰りも寄ってって、隊の奴らへの土産にしたい」

「まぁ炎国まで飽きなきゃいい」

「拙者も通りでよい土産が買えた」

 朱雀は数冊の本と、鉄道模型を持っていたのでキャビンは尋ねた。そういえば本屋に寄った気がする。

「何の本なの?」

「この国の紹介だな、観光マップというものらしい、それと魔法体系の本とスプリーク語の学習本も辞書。それと鉄道模型も何故か本屋にあったが緻密な細工が気に入って買ってしまった。電池で動くらしいのでついでに電池も買ったが炎国より大分安い。持ち出しは可能だろうか?駄目なら読んでしまうが」

 キャビンが悩んでいると男爵が表紙を見てから答える。

「大丈夫ですよ、持ち出し禁止の本は市販しておりません。模型も市販品ですから大丈夫です。流石大使殿。是非我が国との友好に活用してください」

「我が国では市販品でも国外への持ち出し規制があるのでな。確認いただき感謝する」

「いえいえ」


「あ、クインテさん寝ちゃったならケーキもらうわ」

 キャビンが立ち上がって持って行こうとすると、エイテルが叫んだ。

「ちょーっと待ったー、おばちゃん介抱したんは誰やと思うとるん。その分の元気はウチがもろてええやろ?」

 エイテルもケーキが気に入ったのか目の奥が滾っていた。

「んー、半分こする?」

 キャビンは譲って貰えない気配を感じて交渉を仕掛けてみる。

「しゃあない、それで我慢したるわ。よく考えたら今日は美味いもん食べまくってたからな食べ過ぎは良くないわ」

 キャビンはエイテルが聞き分け良かったので、サクッと切り分けて半分渡した。


「ほっほっ、気にいっていただけて何より、では明日の朝にもケーキをお出しいたしますね」


「「是非頼むで」わ!」


 キャビンは声が揃って自分の食い意地に気づいちゃって恥ずかしかったので、顔の赤みが覚めるまでうつむいて無言でケーキを囓った。

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