散策
先に飯へと繰り出していた面々を追いかけて、キャビンとバンニングは早足で街へ向かった。
涼しげな日陰のテラス席で待っていた四人の席に着くと、既に空になった一本のボトルと、つまみが何皿か置いてあった。
「よぉ、先に始めてるぜぇ」
ご機嫌なシシオンにキャビンは呆れながら応える。
「買い物はどうしたのよ。飲んだくれてちゃ買いもの行けないでしょうに」
メニューを眺めながら、シシオンに問うと酔っぱらいの定型文が返ってきた。
「情報収集だよ。最新情報っては酒場で仕入れるもんだ!今年のワインの出来や、新しい名物なんかもな聞ける!このキャラメルタルトは新作らしいぞ。めちゃくちゃ甘くて美味い」
切り分けられた黄金色のタルトに少し明るい茶色のソースがどろりと垂れている。
キャビンが注文する前に、シシオンがキャビンとバンニングの分を頼んでいた。
すぐに届いたケーキは皿もフォークもがひんやりしていて、まだ日が高くて暑いから、嬉しい。
タルトにナイフをいれると粘度があるのか、中々進まない。少しだけ力を込めて押し込むと下ははカチャリと更に当たるまで沈んだ。
切り分けたケーキを口に寄せると、いくつかの香辛料と圧倒的な甘味の香りに幸せになってきた。
口に入れた途端、食べたことないほどの甘味にくらくらした。
「これは凄いわね」
「だろ!夜には完売らしい。ラッキーだったな」
初っ端で美味しい物にありつけてご機嫌なキャビンは土産用のキャラメルを大量に買って、道中の楽しみにするのだった。
「さっそく食べてるざまぁす。こういうのはホントに気をつけないと虫歯になるざぁます」
クインテに窘められてちょっと焦るキャビン。
「せやで、ウチ甘い話で聞いた怖い話あんねん。奴隷の呪いって話な、教えたる。……とある貴族が金にあかせて朝から晩まで、甘いモン食うてたらしいんや。最初は幸せやったらしい。だけどな、ドンドン太って、動くのも億劫になって、そのうち目ぇ回るようになったんやって、食っては意識が飛び、息も絶え絶えの中、目ぇも見えなくなってきて、そんで歯も黒く、欠けていき、常に痛くなってたんやと、それでも、甘いモン食べてる一瞬は痛みが治まるゆうてずっと食べ続けてたんやと、したらどうなったと思う」
「……ど。どうなったの?」
「痛い!苦しい!って言いながら死んだんや!砂糖を作るのに死んでった奴隷の呪いや〜!」
「いや〜」
二人でキャイキャイやってると、店員がやってきて注意する。
「流石にうるさすぎるのは勘弁だぜお嬢ちゃん方。そりゃ、呪いじゃねぇ。はち切れるまで食えばそうなっちまうのさ。虫歯も痛ぇし、駄目になったらペンチで引っこ抜くのも痛ぇ。だから食い過ぎんな、あと食ったら歯ぁ磨け」
店員に言われてビクビクしながら頷くキャビンだった。
クインテと朱雀はその様子を見て微笑んでいた。
「腹も満ちたし、そろそろ買い物行くかぁ」
シシオンが満足そうに立ち上がると、皆も買い物に向かう。
「まずは軽いもんからだな、肉とチーズ、その後は瓶詰め、最後に酒だ」
さぁ行くかとはしゃいでいたシシオンに、クインテは伝えた。
「私はあちらに行くざぁます。エイテル、メモを渡すからこのチーズは買ってくるざぁます」
「おば……クインテさんは行かんの?」
「私は、薬屋で歯ブラシやら薬剤を買ってくるざぁます」
「なんや、虫歯の話ビビってんのかい」
「そういう事言うなら、あなたの分だけは買わないざぁます」
ツンというクインテに慌てたエイテルが拝み倒す。
「わーうそやで、ウチのも買うてきて」
「仕方ない子ざぁます」
「俺も先に酒屋行ってるぞ。試飲できるらしいからな。肉やらは俺の分も買っといてくれ」
「んだよ皆バラバラだなぁ。朱雀殿は俺と一緒でいいかい?」
投げやりなシシオンの問いかけに朱雀は肯定する。
「無論。この街は始めてゆえ、詳しいシシオン殿に案内願いたい」
「おっしゃ!そこまで言うなら任せとけ!まだ夕方まで半日あんぜ。街歩きついでに観光名所も案内してやりますよ」
「楽しみだ」
バラバラに別れる前にキャビンが注意する。
「ディナーはホテルでだからね。時間遅れないように行きましょう」
飲兵衛組を不安そうに見送った後、キャビン、エイテル、シシオン、朱雀はシシオンの案内で観光名所に向かった。
「ほれ、これが最近改修されたバレーラモンテノーザの駅だ有名な建築家が設計したんだと」
喧騒の中、大勢の人が歩いていく。
高さは普通の建物の3階建てくらいで、レンガ造、ところどころにある窓は色付きで陽光で輝いている。
赤いレンガを基調に、白煉瓦で何本も線を描いていて、赤レンガの重厚さと、白煉瓦の包容感が調和していた。
「おしゃれね……そのうまい感想は出てこないけど」
「そんなもんだろ。それに、ここから王都までの汽車しか出てないから小ぶりだしな。まぁ、ここはついでだ。向こうに昔からある商店街があるからそこでまとめて買い物する。そこまでに、魔石のランプ館とか、文豪が散策した道とか、古代の城壁跡地とかあるぞ。だが、本命は魔導博物館だ」
「魔導博物館?」
キャビンが尋ねるとシシオンは得意げに話し始めた。
「元々魔法で発明をしていた、バラケル?とかいうやつがいたらしいが、年で亡くなって、息子がそいつの発明品を展示してるんだと。中身は行ってお楽しみだ。俺も聞いただけで見たことはねぇ」
「せっかくだし、順番に見ていきましょう」
あちこち散策したあと、キャビン達は魔導博物館までやってきた。
魔導博物館は町中の大通りに面した大きなレンガの建物だった。
中に入るとチケット購入に列が出来ていた。
「結構混んでるわね」
「チケットが買えれば、すぐ入れるようざぁます」
四人はチケットを買って、入場口を通り抜けた。
ざわざわと話しながら動く列に合わせて進んでいたが次第に歩みが遅くなる。
一瞬列が立ち止まると、前の人たちは上を見上げていた。その視線の先には大きなブロンズ像がゆらゆらと浮かんでいた。
横長のドラゴンが青銅の緑と錆で色合いを出して、大きな赤い目は見上げるこちらを睨みつけるように鋭く光っていた。
ゆらゆらと動いているので、こっちに来ないかと身構えてしまいそうだ。
「でっっかいわねー。ドラゴン?浮いてる!魔法?」
キャビンのはしゃぎっぷりに、スタッフがやって来た。
黒いスーツをキリッと着こなした細身の若い男性だ。
キャビンよりかなり背が高く、シシオンよりも高い。
「喜んでいただけて光栄ですが、館内ではお静かに。お嬢さん」
「すみません。気をつけます」
「ありがとう。祖父パラケルススの様々な魔法と、美術展示がある魔導博物館を是非ご堪能してください」
キャビンは丁寧なお辞儀の所作に少しドキッとした。




