お出迎え
翌朝キャビンは、バンニングといっしょに皆を出迎えに行き、王都の正門前で待機していた。
デバンは出掛けにキャビンとバンニングに色々とお小言を話して、参考になるノートなんかも渡してくれた。
正門はというと大勢の人が使うので広い。馬車が10台並んで通れるより、なお広いくらいだ。
ちゃんと待ち合わせ場所は伝えていたので、キャビン達が着くと、一番端の門に皆待っていた。
エイテルはトランク一つ、元Sランク冒険者のバンニング達の3人もザック程度。
草で編んだ円錐状の笠を被って顔を隠している朱雀大使も手荷物だけだ。
見送りのギームー大臣やら、炎国の大使館員やらがポツポツといた。
朱雀大使はファンがいるらしく、出発は秘密にされていた。
さらに、目立たないように大使館員は数人しかきていないらしかった。
「キャビン殿。よろしく頼む」
朱雀は乗り込むとトラックの窓からキャビンに声をかけた。
「こちらこそよろしくお願いします。多少狭いですが、ご不便ありませんか?」
「ご覧の通り、拙者は手荷物のみだ。冒険者ゆえどんな場所でも問題ない。拙者には大使等の待遇は贅沢過ぎた」
助手席のバンニングが笑う。
「はっはっはっ、細っこいと思ってはいたが冒険者の癖は忘れてないと見える。流石朱雀殿だ」
「失礼だが、バンニング殿か?傷ついた仲間を抱えながら、深淵の洞窟でゴーレムを倒したという」
「偶々だ、相性が良かっただけだ俺の打撃が届く遅いやつだったから何とかなった」
ダンプの後部座席に座っている妙齢の派手な指輪やら、ネックレスやらの魔女はふてくされたように会話に混ざる。
「その時に、倒れてたのは私ざますけど……魔法が返される事なんて後にも先にも、あの時だけ。今回は活躍しますから見ているといいざまぁす」
魔女の横に座っている銀髪の男は旅行記を開いてのんびりと言う。
「クインテ。そう息巻いたって、まだまだ炎国は遠いんだぜ。それに、龍退治とくりゃあ遠距離戦こそが華。活躍ってぇなら、このシシオン様の射撃をとくと御覧じろってな」
シシオンが決め顔をすると、クインテは呆れた。
「龍退治じゃあないざぁます。それに内容はまだバンニング班長さんしか知らないはず」
「おいおい、クインテ、久しぶりだからって、班長さんは他人行儀じゃないか。前みたいに副団長って呼んでくれよ」
慌てたバンニングが後ろの窓に顔を向けて叫ぶ。
クインテは不貞腐れるようにツンツンと答えた。
「勝手に軍に入って、団は解散したのにまだ引きずってるざますか?」
「そうだぜヴァン!昔を思い出させようとすんな。クインテはお前に振られて、こんなに宝石やらにのめり込んじまったんだから」
「なっ、そんなんじゃあござぁません。魔力を込めるのに便利なだけざます。シシオン!余計な事は言わないでいいざます」
しんとなった二台の空気が気まずくて、キャビンは声をかける。
「そろそろ、自己紹介と旧交を温めるってのは充分みたいね。それじゃ何点か注意事項を伝えます!まずはシートベルトを着けてその椅子の右上にあるやつ。それを左下に引っ張ってカチッと差込口から外れなくなるようにして。揺れたときに吹っ飛ばないようになるわ。強い衝撃の時も、差さってる椅子だけ緩衝魔法が効きます。外せるようになったらお伝えします。そしたら中で動いても大丈夫です。それと、機密の関係で着くまで外を見られません。ちょっと特別な移動技なの。運転席との間の窓も閉めます。音は通るので何かあったら声をかけて下さい。飲食は自由です。馬がいないから変な臭いとかじゃなきゃいいわ。魔法は一部禁止です。収納魔法とか小規模なものはいいけど、仕組みを調べたりトラックに影響がある魔法は禁止です……とりあえずそんなところです。何か質問はありますか?」
キャビンは事前にデバンが書いた注意書きを見ながら説明する。
魔法禁止って聞いてないんだけど……まぁ、いいか。
注意事項を下を向いて聞いていた朱雀は顔を上げて、キャビンに尋ねる。
「旅程について再度確認したい。10日と聞いていたがそんな早く着けるのか?」
どう答えようか迷ったあげくキャビンは短く答える。
「着けます」
「本気でわからぬ。距離では中間地のオアシス都市シェルプラスまででさえ、馬車では10日では着かぬ。砂で足を取られ、岩場を進むため蛇行した道ではどうしても遠回りせざるを得なかった。トラックが早いとしても、ああも蛇行しては機動性も出まい。それに、砂漠を抜けた後の道でも炎国へは山越えがある。蛇行した道、山岳の傾斜、そもそもトラックが通れる広い山道があったかどうか……噂に聞くキャビン殿の尋常ならざる魔法であれば全て問題にならぬのかな?」
キャビンは朱雀の細めた目で、見通すように聞かれて迷ってしまう。
少しくらいならと答えようとすると、バンニングが遮っておだやかに話し始める。
「朱雀大使。本件は国家機密ゆえお答えしかねる。我が国と炎国の利害が一致し貴殿の帰国を支援する事となった。その約定の提携に際して、方法の開示はなさないと伺っているが?」
「ふむ、拙者も気が張っていてな。何せ、外も見えず、出ることさえ出来ない上、これだけの異国のSランク冒険者に囲まれるなど……ダンジョンの深奥にいるときのようだ」
朱雀の全本位への警戒を感じて、全員が身構える。
朱雀がもう一押しと尋ねようとしたところで、ピリピリした空気に今まで縮こまっていたエイテルが耐えられなくなって喚くように言った。
「嘘いうなや、あんた自分で自国の護衛断ったって聞いとる!それにSランク冒険者ゆうたかてピンキリや、ウチじゃ勝てんのわかる。それに、皆が座っとるときに朱雀さんが一人で切り始めたら誰も間に合わんて。それで席の位置取りとか見てたんやろ。まぁキャビン隊長に一番近い席に座ったんもいざというときに人質にでもするつもりやったんかいな」
そんなふうに追求されて朱雀は呆気に取られてつい笑ってしまう。
「ふふ、弱いと言いながらよく見ている。言われてみれば今貴殿が言ったことは確かに当てはまる……が、癖でやってしまっただけだ。そのような意はない」
「癖やて?」
「そうだ、ダンジョンでは咄嗟の反応が求められる。特に近接系の拙者は見てから動くなどでは間に合わん、こうくるだろうと予想し、位置取りし、動きを事前に考えておく。これを無意識にやれるようでないととても巨体の魔物とはやりあえん。一撃貰えば終わりなのでな」
朱雀がふぅと息を吐くと、トラックの中が一気に弛緩した空気に変わった。
「はー、多少は共感出来る部分があるけど、遠距離戦とは少し勝手が違うんやなー」
エイテルが感心していると、クインテが突っ込む。
「あーた、そんな事も知らないで冒険者やってたざますか!だからだれかと組めと再三言ってるざまぁす」
「おばちゃんは黙っとき!ウチはソロで充分やねん。てかダンジョンで二人に補助魔法かけてたら魔力足りんよ」
「んまっ!クインテさんとお呼びと何度も言ってるざぁます。血縁の叔母だとておばちゃんはやめるざまぁす。そういう事言い出すなら、あーしの姉さんが毎回あーしに言うようにお見合い話でもしましょか?」
「それ、ウチの母親の話やないか!そういうお節介なところがおばちゃん根性やねん」
二人でキャイキャイ言い始めて、朱雀はやれやれと首を振ってキャビンに告げた。
「先程は済まなかったな。こちらも探りは入れたという体裁は取っておかねば後で対外省がうるさい。今回の移送後、炎国へ報告する際に対外省に抗議してくれ。拙者も、貴国の口は硬いと内々に伝える」
朱雀の小声の謝意を聞いて、バンニングはにやりと笑う。
「紐付きは大変だなぁ」
「貴殿も同様かと思うが」
「色々は弟に任せてるからなぁ。まぁそこら辺も折り見て話そうや」
二人がコソコソと話したのを聞き終えて、
「もう、じゃあ出発するからね。見送りの人も疲れてるわよ」
何人か気まずそうにしつつ、エンジン音を鳴らして、キャビン達は出発した。




