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レイ

「資材はどうするんだい?」

 ちゃっかり、キャビン達の朝のお茶の時間に紛れ込んでいたレイ。

 葉巻をもらって満足そうに吸っている。

「輸送班がウチの領地に取りに行ってるわ。」

「ウチの……?ああ、あんたもお貴族様だったか」

「お貴族様っていうのやめてくんない?慣れてないの。それに、あんたは臨時の隊員何だからキャビン隊長と呼びなさい」

「はいはい、わかりましたよ。隊長さん」

「……まぁいいわ。それより、あなたは何でグロッタ伯爵の所で働いてるのよ?」



 レイは不機嫌そうにする。

「色々あって、グロッタ伯爵の所で絵画を修復したら臨時雇いになった」

 キャビンは目を輝かせる。

「絵画の修復!凄いわ、そんな事出来るのね」

「何だ?珍しいのか?」

「私はほとんど屋敷には帰らないし、お母様なら知っているかしら?」

 デバンが新聞を置いて話し始める。

「カトレア様はお詳しいです。ご自身でもお描きになられますし、屋敷の絵画はカトレア様が管理されています。商人は魔法を使えない者も殆どですし、街には絵の修復が出来るものもいますよ」


「なるほどな、道具がある程度揃っていたのはそういうわけか」

 レイは納得したように葉巻を吸い込む。

「ある程度ってなによ。ウチの国に文句言いたいわけ?」

「俺がよく使う薬品やら、精度が高い光学機器やらは全くなかった」

 レイは煙を満足そうに吐きだすと答えた。

「薬品や光学機器?ってことはあなたの国はウチの国より技術が進んでるのね!」

 キャビンの大声にレイはたじろぐ。

「そ、そうだが美術品には興味なさそうなくせに、技術は興味あるのか?」

「美術品だって興味あるわよ。王宮でも見たし、新作はよく話題になるから、グロッタ伯爵の所の綺麗な緑のやつとか覚えてるわよ!パーティで自慢してたから!」

「あれか?背景が緑で、手前にグロッタ伯爵が描かれたやつ」

「そう、モデルの美化が激しくて全然にてないやつ、ただ、背景は凄い鮮やかだったわ」

 キャビンが感激を語るとレイは怒ったように言った。

「処分した。他にも何点かの絵画と、同じ物を使った緑一色のドレスも捨てた。輝くような赤の異国の絵も捨てた」

 キャビンは驚いて大声を出す。

「何でよ!あんなに綺麗な物をどうして捨てたの!美術がわかってないのはあんたじゃない!」

 レイは怒鳴り返す。

「毒だっ!あんな物飾っていたら体中蝕まれて死ぬぞ。」

 キャビンはレイの異常な形相に身をすくめてしまう。



 沈黙のままレイはキャビンを睨む。


 デバンは二人の顔を盗み見ると笑いながらキャビンに話しかける。

「隊長。レイは恩人かもしれませんよ。私達もあの絵を運んでいたら、毒に当たっていたかもしれません」

「保存魔法でも……?」

「動いている間は保存魔法って効かないんですよ。そうでないと、人がエリアに入ったら動けなくなります。複雑ですし、結構弱いんです。サハギンを運んだ時も氷漬けにしましたよね?大量すぎて使えませんでしたし、保存魔法は解けやすい。劣化をゆっくりにするだけです。完全に劣化しないなんてそれこそおとぎ話の時間停止魔法とかじゃないでしょうか。だから運搬時に絵の毒を吸い込んでいたと思います」

「……」

 キャビンは自分が詳しくないのに知ったかぶりしてしまって恥ずかしくなった。

「絵の輸送計画も我が国の知識では最適と判断できますが、他の方法があるならレイ氏に協力したもらう方が良さそうです」

「……ふん」

 レイはまだ怒りが収まらないようでスパスパ葉巻を吸って煙を出しまくっていた。


「その……、ごめんなさい。私が不見識でした」

 キャビンはレイに頭を下げた。

 レイは葉巻を吸うのをやめて気まずそうに言う。

「俺も、すまん。つい、ウチの職場に入り浸ってる娘に重ねちまった。危なっかしい事に興味で首突っ込みたがるやつなんだが……まぁ、ともかく魔法に頼りすぎるな」

「どういう意味?」

「よくわからん部分が多いのに、とりあえず使えるからと過信するな」

「魔法に詳しくないのによく言うわね」

「あぁ、この際だから言っちまうが、俺は異世界から来たらしい。自分の画廊で絵を修復していたら絵が急に光ったんだ。それで、気付いたらグロッタ伯爵の屋敷の美術室にいた。何でも、伯爵のとこの魔法使いが絵を修復しようとしてたらしい。元に戻すよう言ったがわからないとか言い出した。それで、絵が修復されれば帰れるかもとか言うから修復してやったが、まだ帰れん。それで、帰り方を調べるから待ってろと言われた」

「じゃあ、レイはそのまま伯爵の屋敷にいたらいいじゃないの」

 レイは頭を掻きむしる。

「まぁ、そうなんだが。美術品の移送をやるとか聞いて、計画書も見たせいでつい口を出しちまった。そしたらグロッタ伯爵から手伝って欲しいなんて言われちまって、勢いでここにいるわけさ」

 デバンがポカンと口を開ける。

「何というか……勢いがすごいですね」

「……あの筆遣い、陰影の表現、素晴らしい作品が素人移送で損なわれるのは許せん」



「あんたが美術品に愛着があるのはよくわかったわ。レイの話しを含めて計画を変更して、最善の状態で運びましょ」

 キャビンも呆れ笑いが出る。


「そうしてくれ」

 新しい葉巻に火を付けたレイは気恥ずかしそうに、吸い込むのだった。


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