後始末(本番)
「おぉー!」「やったな」「流石隊長ー」
キャビン隊の歓声が上がる。
「な、何や今のは……」
「んー、変換魔法? 長く燃える球を、すぐ燃え尽きる熱い球に変えたの。拮抗してたから威力上げようと思って。思ったよりすぐ燃え尽きて良かったわ」
呆然とするエイテルに、キャビンはさらっと答えた。
……ホンマこれ普通なん?と周りを見渡すと周りの隊員は皆平然としていてエイテルは困惑した。
「いや……普通に最強クラスっす。隊長が規格外っす」
護衛隊員の一人がぼそっと呟く。
「せ、せやろ。ウチ強いねん。けど上には上がいるって実感できて良かったわ〜ははははは、はぁ」
「とりあえず周囲、警戒して待機しましょう」
キャビンがあー疲れつた疲れたと伸びをしながら、トラックからお茶セットを取り出す。
キャビンはゆったりとお茶のセットを用意して、魔法で水を速攻で沸騰させて、葉っぱもポットに放り込む。
乾燥ミントのハーブティーだ。
抽出できたら、今度は冷却魔法で瞬く間にアイスティーに変わる。
キャビンは紙コップを取り出して、皆の分も注ぐ。
「ほらどうぞー」
エイテルや、手近な隊員やらに渡していく。
護衛班は周辺警戒をしつつ、交代でお茶をもらう。
「あー、最高だ!慌てて、王都から海行って、また戻ったら山ん中の湖かよって思ってたけどピクニックみたいで良いなぁ。ここ」
「何をお前文句言ってんだよ!隊長と一緒にクエストだぞ。あーでも、酒が恋しい」
「おめぇもじゃねえか、たく、でもよ、湖見てたら思い出してきた。ドレージの基地で喰った飯は美味かったなぁ、あのアクアパッツァの旨味恋しぃ……」
護衛班は思い思いに楽しんでいるようだった。
キャビンはお代わりを飲みながら、ポケーっと休憩を楽しんでいた。
暫く経つとエンジン音が鳴り響いた。
「無事ですか!隊長!」
デバンが数名の隊員と共に、バイクをかっ飛ばしてやってきた。
皆で魚を食べていたキャビンはもごもごと返事する。
「やっときたかー。お疲れ様」
気が抜けた声のキャビンに脱力して、デバンはバイクから降りるときによろけた。
「お疲れ様です。うおっと」
「落ち着いてデバンの分も焼くから」
「あどうも、じゃなくて、何で魚食べてるんですか?」
「これから復興作業でしょ、書類、ハンコ、反省文。落ち着くまでは部屋に缶詰だと思ったら……」
「思ったら?」
「今のうちに遊んで…ち、え、英気英気を養っとかないとと思って」
デバンがギロリと見渡すと、一緒になってはしゃいでた護衛班員もうんうんうんうんと、真顔でうなずいていた。
「まぁいいです。よくまぁこれだけ取れましたね」
「湖の真ん中に光球を投げてサハギンをやっつけたら浮かんでたから、拾った」
色々言うと面倒なので、ワタシシャナイデスヨ、エイテルがやりましたと見えるようにエイテルの方を向きながら、端折って説明する作戦に出た。
エイテルが「え?ウチ?」
と言ってしまいキャビンはなすりつける作戦が失敗したと諦める。
パッドがやってきて、口を挟んだ。
「来るときに見えた青白い光球ですねぇ。おそらくプラズマの電気で魚が感電したものかと。サハギンから離れていたから直撃で消し炭にならなかったんですかねぇ。周りに影響がないのは湖の中心にある魔力溜まりのおかげですね。下流も影響はなかったですし」
と見てないのに、状況から察するパッド。
「隊長、後で詳しくご説明下さいね」
デバンの引きつった笑顔に、キャビンはゴクンと喉を鳴らして震えた。
固まった空気をほぐそうとエイテルはデバンに声をかける。
「それでー、残ったサハギンはどうするん? 魚みたく、真ん中から離れとったのは消し炭にならんで感電してるからぷかぷかと浮いとるんが、ぎょーさんおるけど……」
デバンはふむと一考する。
「ご心配なく。一旦全て回収して、魚市に提供いたします。食料なり肥料なり色々役立つようです。我が隊は商路にも通じておりますので無駄にはいたしません」
取り付く島もない中、ぴょこぴょこと二人の赤毛の少女が馬車から隊の中から飛び出してきた。
「食料って言ったか?」
「聞こえた! サハギン料理作るぞ!」
「あら、ミネス、ローネ、来てたの?」
ミネス、ローネはキャビン隊の料理人だ。
「湖行くって聞いた」
「珍しい魚いたら珍しい味出来るからついて来た」
キャビンは魚を振りながら答える。
「はーん。こっそり潜り込んだのね。そこに焼き魚あるから、試食していいわよ、あ、私の魚に塩頂戴」
ミネスとローネはキャビンの魚に塩を振ると、
「オッケー、自家製調味料セットはバッチリ」
「味見してくる」
とよく焼けている魚を観察して、あの料理がいい、この料理に合う等賑やかに語り始めた。
キャビンは塩の効いた魚を頬張ってデバンに笑いかける。
「隠れてた二人にも気づかなかった副隊長の慌てっぷりも、後で詳しく聞いて回るわね」
デバンは、早速魚にかぶりついているミネスとローネを見て、ため息を付いたのだった。




