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慎重に

「何でなん? こっちはこんだけしかおらん。第一部隊も来るし、そもそもあんた輸送隊て言うたやん」

 キャビンはさっとトラックに乗り込む。


「ほら、あんたも早く乗って、急がないと」

 嫌そうにエイテルは問う。

「何か案があるんかいな」


 キャビンは平静に答えた。

「一つだけね」


「なら、しゃーないか。キャビンはそろそろ奴らが動く思たんやろ?」


 他の護衛班もぞろぞろと荷台に収まっていく。


「ドレージの文献によると、昔サハギンが一斉に遡上した所がロコロ湖、そして、ルビーと言われたサハギンの王が生まれた。そのサハギンは海に戻ったけど奴が目撃された海域では船が沈むんだって。今も船乗りはそこを避けて通っている。船乗りによると、そこはサハギンの王国があるって噂」


「新しいサハギンの王でも生まれるんかいな?」


 エイテルが乗ったのを見てキャビンは出発する。

「あなたも魔法に詳しいなら、ロコロ湖の魔力に気づいたでしょ?湖の中央に何かあるわよ。多分魔力溜まりか、巨大な魔石」


 エイテルは得心がいったと相づちを打った。

「はーん。奴さん、魔力溜まりから魔力吸収出来んのかいな。そら、Sランク魔物並の特性やな。準備せんと舐めてかかったのがあかんかったわ」


 ロコロ湖に向かいながらキャビンは説明する。

「流石歴戦の魔法使い、物わかりがいいわね。遡上の時はただのサハギンの集団だったとして、あれが暴れたらドレージからロコロ湖まで陸地全部が海になるわよ」

「かといって、うち火魔法か水魔法しか強いのはない!」

「Sランク魔物を倒した火魔法があれば充分!後は私がなんとかするわ」

「なんとかって?方法は思いつかれへんな。まぁ、乗りかかった船、もとい乗った魔導馬車や、最後まで付き合うたるわ」

「ありがとう。それにこれは魔導馬車じゃなくてトラックっていうのよ」


 その後キャビンは荷台の側の壁を叩いて護衛班に声をかける。

「皆も聞こえてたわね!ロコロ湖に着いたら、私とエイテルで大技飛ばす!耐えたサハギンは片付けて」


 荷台から歓声が上がる。

「「「おおー!」」」

「久々隊長の魔法が見れるぜー!」


 セメテが、疑り深そうに尋ねる。

「隊長、本気出すのか? それだけは止めろと副隊長に言われている」


「出さない。あくまでサポート」

「ならいい、守りは任せろ」

 キャビンとセメテの意味深な会話にぽかんとするエイテルだったが、杖に頭を持たれて、座ったまま最強の火魔法の為に精神を集中させる。


 もう数秒で到着だ。


 湖に着いたら、サハギンの集団を超えて、ルビーまで届く炎の球を放てるように、エイテルは詠唱する。

「生けるものを抱く大いなる大地よ、混じり、分離し、震えて、滾れ。煮え立ち、溶けゆく、全てを大地へ招く熱き岩よ」


 到着し、トラックが停車する。

「今よ!」


 キャビンの声でトラックから降りると、エイテルは最後の詠唱をしながら、杖をルビーの上へと向ける。

「溶かして、飲み込め!太陽顕現!」


 トラックより遥かに大きい火の玉がサハギン達の上に現れる。


 眩いオレンジ色の光に皆目を開けられない。

 熱波が辺りを襲い、サハギン達は苦しげな声をあげる。


 それでも、サハギン達は水魔法を火の玉に放水して抵抗する。

 中心からは一際強い水の噴射があり、火の玉の勢いは弱まっていく。


「あかんやん」

 エイテルはこのまま消されてしまうと焦り、叫ぶ。

 他の、護衛班の面々は心配しないのか、顔を見るとみな、真剣な目で一点を見つめる。

 どこ、見てるん?と視点の先に目を向けると……



「大丈夫!」 頼りになる元気な声が響いた。


 キャビンは唱える。

 大きな声ではない。

 炎の、熱風の吹きすさぶ音がある。

 それでもなお、皆にはっきりと聞こえた。

「ゾヘ・セイ・ホカ・マハ」


 キャビンは掌を火球へ向ける。

 オレンジの火球を青白い光が塗りつぶす。


 熱風が音を変える。

 辺りの物をはためかせる音は止み、バチバチと塊を作っては弾けるような音が響く。


「落ちろー!」

 キャビンが掌を真下に叩きつけると、青白い光球は湖にゆっくりと落ちる。


 具現化した赤い魔力が下から拮抗する……。


 今まさに下のものを潰そうと落ちていく光球を、ルビーの魔力放出が押し留める。


「これでっ!」

 キャビンの掌を上げるのにあわせて光球も上がった。


「落ちろー!」

 キャビンが思い切り掌を真下に下げる。

 光球も勢いを増して湖に落ちる。


 ルビーの魔力の放出に耐えきれず、青白い光が湖に沈む。


 尋常ではない放電音に、サハギン達の断末魔はかき消され、サハギン達も消えた。


「ふぅ」


 鳥すら鳴かない静寂の中、キャビンの吐息が世界の始まりの音だった。

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