輸送開始
「2班積み込み完了しました!」
「7班積み込み完了しました!」
各班長が報告を行い、受けたバンニング班長がキャビンに伝えた。
「隊長、全班の積み込みが完了しました。いつでもいけます!」
「了解。じゃあ、運転よろしくねデバン」
そう言って合図した後キャビンはトラックの荷台に後ろ向きに固定された椅子に座る。
キャビンは声を張り上げた。
「魔法発動するわ! みんな離れて!」
その声で全員がコンテナから離れる。
トラックの後ろにはコンテナに向けてキャビンが意識を集中し魔力を込める。
パッドや魔法が得意なものが設置したコンテナの角にあるポインタを目印にキャビンは魔力を流す。
目印があるので、見えなくても正確に魔法の位置設定が出来る。
最初に淡い黄色でプルブルが発動する。
木と縄で作られたワイヤーコンテナは、トラックの後ろに4列、高さ25列の100個を、コンテナタワーとして壮観に並んだ。
次いで、キャビンがコンテナに緩衝魔法をかけた。
これで、トラックがどれだけガタついても荷物は無事届く。
「準備できたわ! 出発!」
キャビンが運転席のデバンに声をかけるとエンジンがかかり、トラックは振動を始める。
荷物は問題なさそうだった。
「「いってらっしゃーい」」
仮設集積所に残った、隊員達や他隊員たちに見送られてトラックと護衛班は出発した。
仮設集積所のあった丘、森、平原を超えて、ドレージ手前の橋までやってきた。
作戦会議のために、一旦休憩を挟む。
エンジンが止まると、キャビンは緩衝魔法だけ解除する。
キャビンが、魔法を発動して集中していて動けないので、みんなはその周りに集まってきた。
キャビンはまだ手が使えないので、パッドがやってきてキャビンに水を飲ませた。
護衛班の一人が先の道を見てきてから戻ってきた。
「報告。サハギンは橋の上にはいません。橋の破損もないので通り抜けられます。河の中には多少います。先ほど近づくとコンテナを見上げながら威嚇している鳴き声が聞こえました。目視範囲では30頭程度です」
デバンが答える。
「どうですかね?」
キャビンが答える。
「やつらが川から飛び上がってコンテナにぶつかったらボロボロになるわね。でも、護衛班なら撃ち落とせるわ!」
護衛班に臨時加入しているべグレイトが断言する。
「お任せください。我々が必ず撃ち落とします」
それを聞いていた護衛班長のシャルフはへらへらと割って入る。
首を回したり手首を振り回したり、およそ人と会話するような体制でない上に服装はだらしない。
ただ、軍人らしく短く刈り込んだ髪に、高い背や鍛えられた体の分厚さから威厳があった。
べグレイトの生真面目さからくる迫力とはまた違う雰囲気だ。
「お前さん張り切ってるが、まぁ始まるまでは肩の力抜いとけって」
「ですが……シャルフ班長。集積所から今までも気を抜きすぎではありませんか?」
護衛班はトラックやコンテナの前後左右に馬で走りながら貼りついて、サハギンが来たら撃ち倒すフォーメーションだったが今のところ一発も撃っておらず、べグレイトは弛緩した雰囲気に不安を感じていた。
「シャルフ班長なら大丈夫よ!」
我が意を得たりとシャルフは嬉しそうにする。
「ほらな隊長もこう言ってる」
「ですが……」
べグレイトが戸惑うのでキャビンが続ける。
「ベグレイト。護衛班は切り替えが激しいのよ。仕事が長期になったり、寝る時間も不規則に交代で護衛していたりするから仕事柄ね。それに索敵の子も優秀だから襲撃があればすぐ対応できるわ」
「おかげで休暇もまとめて消化するするもんだから、休み癖が抜けないってのもあるな」
キャビンが続ける。
「今回もコンテナ運んだらドレージで丸2日の臨時休暇でいいって。帰りは荷物少ないから数人で戻れるし、襲撃を受けているから長期休みはまだ無理だけど」
シャルフは笑った。
「とりあえず休めるなら助かる。班員は仮設集積所でもろくに休憩は取れてなくて疲れてるからな。こういう経験は新参にはちときつい」
キャビンがさらに続ける。
「さて、シャルフは大丈夫そうだけどべグレイトこそ、いざ渡河が始まったら、しっかりシャルフ班長の指示通り動かないと大変よ」
ぎょっとしたべグレイトに、ニッと笑ってシャルフはべグレイトの肩に手を置きながら伝えた。
「落ち着いていこうや」




