ビッグプル
キャビンはデバン副隊長に案内されて丘の上から物資集積所の本拠を眺めていた。
突発での命令だったが、物々は整然と並んでいる。
木材が目立つが、石材も相当な量だ。
天幕に集まるのは医療物資だろうか、あの馬車の青い紋章は見覚えがある。
「ホント! すっごい量ねー。これ全部ドレージに運ぶの?」
デバンは楽しそうに答える。
「集積した総量の二分の一をドレージへ運ぶ予定です。残りは周囲の町や村用ですね。完全に倒壊した町などの方が物資を多く必要としていますので」
それを聞いてキャビンははっと息を飲む
確かにドレージには自分の家ではなく外から避難してきた避難民の方々がオーク避難所に行ったのがちらりと見えた
「彼らの家の再建もしなければいけないわね」
「そうですね。そのためにもさっさとこの事態を終わらせなければ」
デバンはキャビンの真剣な目に同意した。
「それで、トラックでどれを運んだらいいかしら。まずは私たちが先導する方が、受け入れやすい物ね」
「まずは食料がよろしいかと、ある程度の期間はまかなっていたようですがやはり避難民の分まで完全に回ってはいません」
「そうね。今回は避難も早かったからあまりけが人はいなかったみたいだしドレージ基地でも医療物資に関しては特段の不足はないような話しだったわ。海側から来たサハギンのせいでけが人が少し出たみたい。直接襲われたってわけじゃなくて、避難時の混乱で転んだりぶつかったりっていうことだったから軽傷らしいけど」
「けが人が少なかったのはドレージの壁のおかげですね。これがなかったらどうなっていたか。医療者の方々のためにも食料はなければ看護もできませんから。我が隊のメーチェも、けが人がいた時は自分の食事も分け与えるようなタイプですから。きっとドレージの病院の方も同じかと思います」
「わかったわ。とはいえ分配はドレージの領主の管轄だから、領主へそっちも気にするように手紙を出さないと……大隊長の名前と私の連名で送り状手配しておいて」
デバンはうーんと困りながら答える。
「……キャビン隊長の家格はともかく、大隊長が貴族位を持ちだしたら命令と同じです。一領主では逆らえません。変に角を立てるくらいなら王国軍の提案として出します」
「ごめん。その手の交渉は勉強中だし任せます。それより、持ってく量を増やした方がきちんと末端まで分けてくれるようになるわよね?」
キャビンのあっ!と思い付いて変わった笑顔に、デバンは冷や汗が垂れる。
「それはそうですが……何か嫌な予感がするのですが」
キャビンのものすごく楽しそうな笑顔に、デバンは冷や汗を感じた。
「トラックに乗らないならプルブルで運べばいいじゃない?名付けてビッグプル作戦」
デバンは嫌な想像にあんぐりと口を開ける。
「まさか、プルブルでトラックの上に全部を積み上げて運ぶおつもりで?バランスを崩したら危険ですよ」
過積載で馬車の床が抜けたり、大きすぎるものが周りにぶつかっての事故というのはよくある事例として輸送隊の会議や研修で話題になっている。
むしろ、こういうやらかしをしないように会議を開いているという面もあるくらいだ。
知らずに言っているはずはないので、最後まで話を聞くことにする。
「私もまだ仮定にすぎないからパッドとスペッレのところへ話を聞きに行きましょう。医務室だったわね」
キャビンはデバンの返事も聞かずワクワクが止まらず歩き出した。




