プルブルの代償
「あー、ふーっ。きつかったっす」
橋を越えたところでスペレは、プルブルで運んでいた残骸を道路脇の上に放り投げると魔法を解除する。
重力を思い出した残骸は鈍い音を立てて落下した。
「凄いじゃない!プルブルってこんなに重いものでも、魔力消費が少ないのね」
「あざっす。本来は物を元の場所から動かす魔法なので、距離を変えなければ魔法の消費はほぼないっす。動かす時はご想像通り、かなりの魔力使うんす」
「訓練の賜物だな。走行の振動がある状態で物を固定するとは至難の業だ」
べグレイトが嬉しそうに教えてくれる。
「そうですねぇ。私だと水を入れたビンを歩きながら運ぶのも出来なかったですから」
パッドが情けなくぼやく。
「いつそんな事やってたのよ。私もやりたい」
「デバン副隊長から訓練だって言われて馬車で水運ぶときにやりましたぁ」
「何か楽しそう!私もやりたい!」
「隊長がやる場合まずは立った状態で長時間同じ程度の魔力制御をキープするところからですぅ」
「やっぱいいわ。ムズムズしちゃう……逆に魔力があれば重いものをブンブン振り回せるわけ? それなら楽しそう!」
目を輝かせるキャビンに呆れてべグレイトが諌めた。
「大魔力で、無理に物理法則を越えると対象が自壊したり大気が歪む。結果、発光したり、爆発したり…とにかく制御を忘れないことだ」
キャビンはそれくらい余裕だわと言わんばかりに自信満々にうなずいた。
べグレイトはキャビンの強気な発言を聞いた後、横のパッドに目を向けると諦めているような無表情であった。
スペレは説明を始める。
「プルブルは副作用があって、筋肉痛がずっと続くんす。重いものを持つので体の魔力系と神経系が作用してる性っすね」
スペレはあっ、と反応して補足する。
「でも、今回みたいに動かさないと筋肉痛はないっみたいっす。代わりに痙攣が……ほら」
スペッレが腕をみんなに見せると、小刻みに震えていた。
「おそらく数時間はこのままっすね。ははは、振動を抑えてた分の反動っすね」
「大丈夫なのか?」
べグレイトが気遣うようにたずねるが、スペレは笑って受け流した。
「結構気持ちいいかもしれません。プルプル震えてるので肩こりにきいてるかも」
キャビンは楽しそうに身を乗り出した。
「肩こりに効くならデバンに教えて上げなきゃ!事務仕事の合間にいつも肩回してるのよ!」
目を輝かせるキャビンに、スペレが言いづらそうに伝える。
「あー、キャビン隊長、その魔力消費の疲労感が大きいので、プルプル健康法みたいなお得な魔法じゃないと思うっす」
「魔力って普通でも使うと疲れるの?」
キョトンとするキャビンに、パッドが答えた。
「一般例ですと、普通の男が筋力で、100kgの重さの荷物を持ち運んだら疲労しますぅ。魔法を使うと非力な子供でも同じ物を運べるようになりますが、魔力消費だけでなく、魔力出力箇所、腕とか筋肉痛になったりします。無理して心臓に負担がかかると病院送りになる例もあります」
「そうなんだ」
キャビンが真面目に聞いていると、べグレイトは訝しんでくる。
「キャビン隊長はあまり訓練をなさらないのですか? 普通に使っていれば感覚的に分かりそうなものですが」
キャビンが何かいいかけてパッドが慌てて答える。
「キャ、キャビン隊長は出力系に負担がかかりにくい体質なんですぅ」
(駄目ですキャビン隊長、部外秘、部外秘、忘れちゃ駄目です)
パッドから小声で言われて、キャビンは慌てて口を噤んだ。
「? まぁいいでしょう、危険域も抜けましたし、警戒しながら集積所まで進んでしまいましょう。ここからはスペレの分まで私が護衛いたしますのでご心配なく」
べグレイトは、キャビンたちの慌てようを敢えて無視して任務に集中するふりをする。
「頼もしいわね、よろしくお願いするわ!」
キャビンも助かったーと、焦りながらも話に乗っかった。




