第8章・7幕 逃亡劇
今回の登場人物
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・置田 蓮太 (おきたれんた)
16歳。本編の主人公。置田村の創始者・置田蓮次と置田藤香の子。英雄の息子として、副統括となり、次期・乙名としての期待が高い。武勇の才にも長け、心身とも強靭に成長を遂げる。
・缶 梅男 (ほとぎうめお)
黛村・北地区の変若水の乙名、星原満彦の軍事頭目で、副統括。しかし、領内の民の為の内政に尽力する彼とは対照的で、暴力で欲望を満たすタイプ。星原一家を打倒し、政権を奪うことを目論む。
・缶 杏 (ほとぎあん)
黛村・北地区の変若水の缶梅男の双子の娘で長女。狡猾で、弓の名手。父と同じ、暴力で支配、解決するタイプ。脚が露になった、黒と杏子色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う。
・缶 桃 (ほとぎもも)
黛村・北地区の変若水の缶梅男の双子の娘で次女。姉の杏にそっくりな顔立ちだか、それ以上に感情的で暴力的。火遁の術を用いて火焙りにし、接近時は短刀で八つ裂きにする野蛮性を持つ。姉と同じ、脚が露になった、黒と桃色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う。
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杏と桃が蓮太を幽閉している噂が紅蓮から梅男に伝わったのか、梅男は杏に問い詰めるも、あっさり認めた。しかし蓮太を紅蓮に引き渡そうとする梅男に杏は逆らう。
梅男の本心を突いてみせると、衛兵らに杏を殺させようとするも返り討ちにする。
梅男と決別を決める杏は、桃に梅男を監禁させるように命じ、自身は蓮太の様子を見に向かう。
その隙に蓮太を助けに来た謎の忍者により、独房前の大男・上山は宙吊りにされ絶命。
急ぎ脱出を計るが…
蓮太は独房の牢を出て上を見ると、大男が吊り上げられ絶命していた。
「こっち。」
助けてくれた忍者が牢獄に入る光に照らされ、漆黒の装束に覆面姿の者とやっと分かった。
「この先の看守室を抜ければ出れる。」
看守室には杏が蓮太を探しに向かった丁度後だった。
⦅おい!桃!!ライオンちゃんがいない!上山も居ないぞ?⦆
「バレちまったみたいだ。」
服を着ながらボヤく蓮太。
「こっち、急いで!」
杏は空の独房を見回し、唖然とする。
「…くっそ!誰が?」
「杏!ライオンちゃんは!?」
桃が飛び込んでくる。
「わからない。桃は外を探して!まだ近くに居るはず!」
「わかったよ。」
桃が急いで外へ向かう。
杏も独房を出た瞬間、上から血が垂れるのを感じる。
「ん? …上山?」
宙吊りの上山を発見する杏。
《一体誰が?こんな凶暴で巨躯の男を、私らが親父と話している間に仕留めて中に入ったのか?
そしてライオンちゃんを連れてここを脱出した…?
私らが親父と話していたのは恐らく偶然。その偶然の機会をずっと伺っていた…? そんな何時になるか分からない事を計画するのか?
…ん?待てよ?親父の話じゃ、紅蓮は私らがライオンちゃんを幽閉していることを知っていたと言った。親父が来た真の目的…それは紅蓮に引き渡すため…もし親父の交渉が上手くいかなくても、必ずライオンちゃんを奪回する作戦…だとすれば、これは…》
杏は歩きながら考えると、梅男の独房前に来た。そして梅男を睨む。
「な、なんだ?」
「親父、誘拐犯とグルだろ?」
「な、何のことだ?」
「フ…また惚けんのか。」
杏が鼻で笑う。
《まあいいわ。今は刺客を見つけてライオンちゃんを直ぐに取り戻す。あの1回であの血の子を宿していればラッキーだが…》
杏は急いで外へ向かう。
看守部屋を抜け、表門を抜ける蓮太ら二人。
「はぁはぁ、ダメだ。まっすぐ走れないし…」
⦅杏!どこにもいないよ!私は馬を取りに行く!⦆
⦅わかった、外で合流するよ!急いで!!⦆
杏と桃の掛け声が響く。
「来る…!森に入る。もう少し頑張って、こっち。」
「はぁ!はぁ…!」
蓮太の極限状態に危険を感じ、森に逃げ込む二人。
「くそ!どこ行った?」
杏と桃も外に出てくる。
「桃は馬のまま街道沿いを巡回して!私は…」
杏は森を見る。
「桃?街道沿いに跳ね橋まで行ったら、そのまま駐屯地で兵士を集めて、直ぐにローラー作戦で戻ってくるんだ。私は森を谷川沿いに進む。ライオンちゃんもそう速く走れないはず。必ずそれで捕まえられる!」
「わかった!ライオンちゃん攫った奴の生皮剥いでやろう!」
桃が馬を駆け、跳ね橋側に向かう。
「ああ、私らの❝障害❞は必ず刈り取ってやるさ。」
杏の目が座ると、弓を携えて森に歩みを進めた。
蓮太らはゆっくりながら森を跳ね橋に向かって歩いていた。
「と…ところで、君は誰なんだ?」
「助けてるんだ。今は彼方の味方ってこと。それじゃダメなの?」
「まあ、そうだが…はぁ、はぁ。」
「鳳。」
「え?」
「砂榎 鳳。」
黒尽くめの忍装束に忍覆面で顔を隠した謎のくノ一。高い身体能力と任務遂行能力を持つ優秀な忍らしい。忍装束から生足を出し、耐切創タイツで覆う。
「砂榎さん?か…宜しく。」
「鳳で良いよ。」
ーパカラン、パカラン…
桃が街道を馬で駆っていく。
「!…俺のせいだが、このままじゃ、はぁ、追い付かれないか?…はぁ…」
「時間は稼げる。」
鳳が振り返り、見回しながら歩み寄る、杏の人影を見定める。
次回2025/6/15(日) 18:00~「第8章・8幕 華麗なる谷川渡り」を配信予定です。
※6/11(水)~6/15(日)は梅雨入り読書・強化月間です。
期間中は毎日18:00に投稿致しますので、御期待下さい。