第8章・6幕 「助けに来たよ。」
今回の登場人物
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・置田 蓮太 (おきたれんた)
16歳。本編の主人公。置田村の創始者・置田蓮次と置田藤香の子。英雄の息子として、副統括となり、次期・乙名としての期待が高い。武勇の才にも長け、心身とも強靭に成長を遂げる。
・赤島 猛 (あかしまたける)
野崎飛助に従い、一揆以前から兵士として活躍した男。蓮次と飛助に指名され、乙名に成り上がった。主に飛助の為に募兵や同士を集めている。酒と女にだらしなく、不道徳な男。赤島会たる野蛮組織を束ねる会長の顔を持つ。
・野崎 妖 (のざきあやかし)
乙名・野崎飛助の妹。蓮太のお抱え忍者。蓮太の許嫁である稲穂と、忍者としても才ある小夏を敵視する。対切創網タイツを纏うも、透けた下はビキニの様な紫の下着のみという大胆な服装も、その自信の現れである。
ーーー
・缶 梅男 (ほとぎうめお)
黛村・北地区の変若水の乙名、星原満彦の軍事頭目で、副統括。しかし、領内の民の為の内政に尽力する彼とは対照的で、暴力で欲望を満たすタイプ。星原一家を打倒し、政権を奪うことを目論む。
・缶 杏 (ほとぎあん)
黛村・北地区の変若水の缶梅男の双子の娘で長女。狡猾で、弓の名手。父と同じ、暴力で支配、解決するタイプ。脚が露になった、黒と杏子色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う。
・缶 桃 (ほとぎもも)
黛村・北地区の変若水の缶梅男の双子の娘で次女。姉の杏にそっくりな顔立ちだか、それ以上に感情的で暴力的。火遁の術を用いて火焙りにし、接近時は短刀で八つ裂きにする野蛮性を持つ。姉と同じ、脚が露になった、黒と桃色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う。
・上山 三吾 (うえやまさんご)
黛村の南地区・迦具夜の奴隷商人から買い付けた、実名不詳の番人兼殺し屋。ほぼ獣で熊の毛皮と頭をくり貫いたマスクから目だけを覗かせる不気味な風貌。ベルトに携える金槌と鋸で、主以外の人間を皆殺しにしようとする。
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杏が、英雄の置田家との子を宿すため、蓮太を襲う。その事後、丁度、双子の父・梅男が惟神収容所まで来たとの報告を桃から受ける。
一方、妖と赤島も、事情はそれぞれ違えど、神奈備の黄田組集会所付近の谷川周辺で、蓮太の行方を捜索していた。
ー和都歴452年 3月13日 23時 黛村・惟神収容所
「待ってなライオンちゃん、またすぐ戻るから相手してよな。」
杏が急ぎ、着替えると、蓮太に口づけして独房を去っていった。
「く…くそ…!」
精神的にも限界が近い蓮太。
独房の牢の外に大男が蓮太を見ていた。
「ウ…ウ…ェェ…」
ー和都歴452年 3月13日 23時 置田村・黄田組集会所付近 谷川沿いの森
妖は漆黒の森の中から、谷川大峡谷を見た。
「あれ?あそこ…変若水側の崖斜面に洞窟の穴が沢山…牢が作られてるの?」
妖は惟神収容所を発見した。
一方、赤島もその付近の谷川大峡谷の下を歩いていた。
「こんな峡谷があったなんて、祖柄樫山もまだ広いな。ん?何だあの洞窟は?」
そういって赤島は足を進めていた。
ー和都歴452年 3月13日 23時 黛村・惟神収容所・表門
「親父?どうしたんだこんな時間にこんな所まで?」
「それはこっちが聞きたい。」
杏の問いかけにムスッと答える梅男。
「とりあえず、中に入るか?」
梅男と二人の護衛を看守部屋に案内する杏。
「で?なんでここが分かったの?」
「嫌な予感がしたんだ。紅蓮様から蓮太を幽閉してる噂を聞いてな。まさかと思ってな。」
「アッハハ!そんで私らに?すっげー、さすが以心伝心ってのかね?」
桃がふざけてみせる。
「何だ?まさか本当に…! ここに居るんだな?」
梅男が杏に視線を合わせる。
「居るはずなー」
桃の発言を手で止める杏。
「居るよ。」
「え、杏?いいの?」
「でも、居たら何なのさ?」
杏が対面に座る梅男の前のテーブルに座りなおし、片足を立てる。
「杏、お前は冷静に事を運ぶ。きっとこれにも理由があるんだろうが、とりあえず蓮太殿は引き渡してもらう。」
「ダメだね。ライオンちゃんはまだ必要だ。」
「黛も敵に回して、お前に安寧はない。俺もお前を庇いきれんぞ?」
「そうかい。母さんを亡くして、私を母さんの代わりに女としても扱った。それを今度は保身のために捨てるっての?」
杏が梅男の前で股を開いて指さすと、梅男は目を背ける。
「そういうのはもうよせ。」
「私は忘れない。親父、私言ったよな?隠し事は許さない。アンタ、もううちらの事切ろうとしてないか?」
「え?そうなのか?」
桃も反応する。
「落ち着け。缶家で変若水の乙名になり、いずれは村全土もー」
「でもその❝缶家❞とやらに、私らは邪魔なんだろ?」
「な…何を言うんだ…」
「…桃?親父もここの奥に幽閉して。」
「何を!おい、お前ら、杏と桃を殺ー」
ーザシュ!
二人の衛兵を桃が切り殺す。
「殺す?私らを?そうはいかない。散々汚い事ばかりさせられて母さんの様に無様に死ぬわけにいくか。」
杏が梅男を縄で縛る。
「桃?空いてる独房に放り込んできて。私はライオンちゃんを見てくる。」
「わかった。」
ー独房
蓮太は寝落ちの間際、独房前に居る、大男・上山に目が留まり、ずっと眺めていた。
その瞬間、上山が上に消えた気がした。
牢の扉が開く。
蓮太の意識が消えかける時、声が聞こえた。
「助けに来たよ。」
蓮太はハッとした。
「服は?これ?まぁ持って行って後で着替えて。時間がない。」
「あ…ああ。君は?」
⦅ほら!親父、さっさとこっちに来いよ!⦆
桃の声がする。
「それより、歩ける?」
「あ…いや…まだ平衡感覚も…」
蓮太はおぼつかない足取りで進む。
「長くは走れそうにないか…ついてきて。」
蓮太らは急いで独房を出る。
変若水の地獄・惟神収容所も、間もなく日付が変わろうとしていた。
次回2025/6/14(土) 18:00~「第8章・7幕 逃亡劇」を配信予定です。
※6/11(水)~6/15(日)は梅雨入り読書・強化月間です。
期間中は毎日18:00に投稿致しますので、御期待下さい。