第7章・11幕 火竜の刻印
今回の登場人物
■ ▢ ■ ▢
◎置田村・攻勢派
・野崎 飛助 (のざきとびすけ)
置田蓮次の信望者で右腕だった男。蓮次の死後は妻・藤香にも劣らぬ村人を束ね、黛村への侵攻を常に画策している。古き仕来たりを重んじるが故、美咲とは特にウマが合わない。
・赤島 猛 (あかしまたける)
野崎飛助に従い、一揆以前から兵士として活躍した男。蓮次と飛助に指名され、乙名に成り上がった。主に飛助の為に募兵や同士を集めている。酒と女にだらしなく、不道徳な男。赤島会たる野蛮組織を束ねる会長の顔を持つ。
・豊倉 完以 (とよのくらかんい)
置田村南部・日輪の沙汰人で副統括。置田村でも指折りの豪商。出世欲が強く、またどこかケチで、小心者だが、知恵と金銭で権威を取り込んできた男。
・大須賀 栃虎 (おおすがとちとら)
栃虎の息子。パッと見はイケメンで、育ちの良さを伺わせるも、裏の顔は悪業に手を染め、暴行を繰り返す。人身売買から、婦女暴行を息をするように行う。虎太郎の仇の1人。
・福本 惣之助 (ふくもとそうのすけ)
置田村の南地区・日輪の刀禰。日輪の刑務長。出世欲が強く、豊倉の力で刑務長になる。武道にも精通しているが、自分が出向くのは最後という考え。
・石井 要平 (いしいようへい)
置田村の南地区・日輪の刀禰。日輪の金庫番で、納税から出資まで手をかけている。他人を駒として使う為に、金で捨て駒を雇うことも厭わない。
・相島 権作 (そうじまごんさく)
置田村の沙汰人。置田村東地区・八俣の納税管理者。好みの女を襲い、嬲るという異常性癖を持つ。実は九狼党・幹部で❝尾❞の字で呼ばれる。攻勢派に副統括の話を持ち掛けられ、藤香抹殺に掛かる。
ーーー
◎黛村・攻勢派
・缶 杏 (ほとぎあん)
黛村・北地区の変若水の缶梅男の双子の娘で長女。狡猾で、弓の名手。父と同じ、暴力で支配、解決するタイプ。脚が露になった、黒と杏子色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う。
・缶 桃 (ほとぎもも)
黛村・北地区の変若水の缶梅男の双子の娘で次女。姉の杏にそっくりな顔立ちだか、それ以上に感情的で暴力的。姉と同じ、脚が露になった、黒と桃色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う。
■ ▢ ■ ▢
藤香打倒を心に決めた、変若水の双子・杏と桃。
置田村から帰還中に、八俣に居る反・藤香の組織、赤島らに同盟を持ち掛けようと赤島邸に立ち寄る。
その時、丁度、置田村中の反・藤香、つまり攻勢派が勢揃いし、神奈備侵攻の作戦を練っていた。
その場に現れた双子が、彼らに持ちかける同盟、いや❝取引❞とは。
「バカでもわかるシンプルな取引だぁあ?」
相島が癇に障る。
「そうだ、爺さん。だが乙名でもない、ただの領主は黙って話を聞いていろ。」
「そうそう、私たちぃ…今チョ~機嫌悪くてさぁ?」
桃が中指を立てて下品に舐め回す。
「こいつらぁ…!野崎さん、こいつらは敵です、始末しましょう!」
相島が激昂する。
「まぁ待て、一応話があるっていうじゃないか。殺すのはその後だ。」
野崎が窘める。
「野崎さん、こんな奴らの話を?」
豊倉も疑問を呈する。
「聞くだけはタダだ。情報をくれるんだから、有難く貰っておこう。で、お二人さんの、その?バカでもわかるシンプルな取引ってのは、一体なんだ?」
野崎も一癖入れて対応する。
「取引ってのはねぇ。藤香を一緒に殺そうって、お誘いよ。」
杏が微笑みながらサラリと言う。
「ほう。素晴らしい考えを持っているじゃないか。だが残念だ、打倒藤香網は、ここにいる全員が既にそうでな。お前らの手を借りるまでもなく、ことは順調に進むだろう。で、他に用件はないのか?」
野崎が話を切ろうとする。
「そんな時代遅れの話、イキり顔で持ってくんじゃねぇぜ。はは!」
石井が嘲笑する。
「へぇ~。アンタらみたいなフニャチンの集まりで、あの藤香をやれるってんなら?まぁ、それでもいいわ。」
杏が石井に視線を合わせ、目の前まで堂々歩いてくる。
石井の顔色が変わる。
「用件がないなら、俺からはアンタらも用無しだが?」
酒を飲み干して、野崎はまた酒を注ぎながら片手間に話す。
「じゃあ、私らの傘下に入らないか?」
「なんだと?」
「藤香が死んだ後、次に置田を支配するのは誰だ?」
杏が石井から視線を外さずに話す。
「まぁ、息子の蓮太は蓮次さんの息子だ。彼を俺が導いて、この地を支配するさ。」
野崎がニヤリと笑う。
「だよな?蓮太はアンタらには必須な男なんだ。そして、藤香と共に蓮太が死んだら誰が支配するんだ?」
杏が野崎に顔だけ向けて話しかける。
「フン、俺だろう。」
野崎が即答する。
「アッハハ!」
桃が手を叩いて笑う。
「何が可笑しい!!」
豊倉が怒り、福本も立ち上がる。
赤島は刀を抜いた。
「結局は今を支配するのは政治でも金でも、それこそ権力でも無いんだ。暴力なんだよ!」
杏が石井の首を掴む。
「止めろ!た、助けて!豊倉さん!いや、野崎さん!!」
石井が悲鳴を上げる。
「ここで、俺たち全部を相手に出来ると?」
野崎が突き刺すように杏の眼を見る。
「そうだ。そこに繋がれてる男は、誰なんだ?」
杏が野崎に問う。
「さっき捕まえた密偵のようだ。後で素性をー」
「じゃあ、そいつでいいわ。桃?」
杏が片肌脱ぐと、胸に龍の模様の火傷後を披露する。
「アッハッハッハ~!!」
桃が杏の火傷後に、手を添えて抱き締めると、桃の手が赤く光り始める。
「さて?」
桃が密偵に目を合わせる。
桃の掌から火炎流が密偵に放たれる。
「火遁?逃げろ!」
近くに居た福本と大須賀栃虎は全力で避けた。
「あ!あちぃ~gjげgぽえgfs・・・」
密偵から火は消えず、死して尚、炎上する。
「早く消せ!」
大騒ぎとなる赤島邸に、皆で水をかけて鎮火する。
「はぁはぁ…こ、こいつは…」
野崎が杏に目を向ける。
「火竜の刻印さ。」
杏は服を着ると、ニヤけて返す。
「火竜の?刻印だと?」
「な、何でしょう?妖術の類でしょうか?」
野崎の疑問に、豊倉も疑問しかわかない。
「これは、お前たちには教えられないが、私たちに従わなければ、藤香の後は、どの道お前らを殺さなければいけない。なら、今殺しても同じだ。どうだ?バカでもわかるシンプルな取引、理解して頂けたかなぁ?」
「アンダスタン?アッハハ~!!」
杏と桃が、再び置田村で攻勢派ごと牛耳ろうとしていた。
次回2025/5/22(木) 18:00~「第7章・12幕 弱肉強食」を配信予定です。