第1章・2幕 取引
今回の登場人物
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置田 蓮太 (おきたれんた)
14歳。本編の主人公。置田村の創始者・置田蓮次と置田藤香の子。英雄の息子として、次期・乙名としての期待が高い。優しい性格で、純粋。
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「取…引…?」
蓮太は千毬の学童会長立候補にも驚いたが、取引なんてワードは殊更に予測もしていなかった。
「そうよ。」
「千毬さんも学童会長に立候補するってことだよね?一体なぜ?」
「そうよ。誰が立候補してもいいはずだし、理由もいらないはず。」
伊集院 千毬。星家・三ツ谷家・伊集院家は置田村設立前からの三大領主。その令嬢。他の学童とは一線を画す貴族のような出立と、大きな瞳ながらどこか冷たい表情をもつ。常に腹に一物を置くような一筋縄ではいかない性格。
蓮太が立候補することを知っていて、かつ千毬自身も立候補すると言って取引を持ち掛ける時点で、蓮太は暗に悟る。
ーおそらく俺に立候補を辞退するように…だろうか。
「おそらく、置田君も察しがついてると思うわ。そう、出来れば学童会長の立候補から降りてほしいの。」
ーやっぱり。
蓮太は腕を組んで壁に寄っ掛かる。
「それはちょっと出来ないな。」
「タダでは…ってことでしょ?」
千毬は蓮太と同じように真横に寄っ掛かり腕を組む。
「そもそも俺は乙名を目指す第一歩がこの学童会長なんだ。」
「まぁ。御立派。」
千毬は目を閉じて茶化す。
「取引ってなんだ?俺に降りろだけじゃ単なるお願いだろ?」
「そうよね。ちなみに、置田君は学童会長になって具体的にやりたいことはあるの?」
「え?」
「だから、貴方の方針よ。まさかお団子屋さんを作るとか言わないわよね?」
「いや、それはまだ具体的には…」
「あらら、次期乙名になるかもという人が、そんなんで人心を掌握できるのかしら?」
千毬は蓮太の顔を伺うように笑う。
「そこはこれから皆と、ちゃんと話して考えていくさ。俺一人で決めるもんじゃない。」
「ふん、綺麗ごとを並べたつもり?あなたの学童会長としてのプランなのよ?乙名としての方向性。まずそれを提示して賛同されたら、はじめて皆がそれに意見するのよ?異議を受けるかもしれない。今のあなたは芯がない、ただの悪いことは止めさせたいっていう思いだけでしょ?」
蓮太は的を突かれたような辛さに少し挫けるも、母との約束・虎太郎たちとの話もあって簡単に折れるワケにもいかなかった。
「それこそ理由なんてなくても立候補して良いんじゃないのか?」
蓮太も負けじと皮肉で返す。
「あら、そういう言い回しが出来るなら少しは期待できそうなのね。さすが置田蓮次の息子よね。」
「父は、関係ないさ。」
「そんなことはないわ。私は寧ろ貴方の存在は置田蓮次の息子という後光が強い。だからこそ下手な勝負はしたくないの。」
「随分バカにしてくれるな。」
蓮太も少し感情的になる。
「尚更降りる気もなくなってきたよ。」
千毬はため息をつく。
「貴方の本当の目的は乙名になることよね?」
「ああ。学童会長がその一歩だ。」
「乙名は政治力が必要。敵を作るより味方を作るべきなのよ。」
「意見が対立してるから、千毬さんとは敵にしかなれないな。残念だけど。」
蓮太の意思は揺るがないし、感情も昂る。
「話は終わりか?なら取引とやらにならないな。千毬殿」
そう言いながら蓮太は去ろうとする。
「は?何格好つけてるの?話はこれからよ?」
蓮太は足を止める。
「もう一度聞くわ。置田君が学童会長に立候補する理由、それは乙名への一歩、よね?」
「ああ。」
蓮太は背を向けたままだ。
「逆に乙名になれる確約があれば、学童会長にはならないってことでもあるのよね?」
「…。でもそれは会長となって皆にその信頼を得たうえで乙名になるという❝段階❞を作る意味がある。それはスキップできるわけない。」
「私がそれを約束するわ。」
「え?」
蓮太は振り返る。
「聞こえなかった?私が会長となった暁には、乙名立候補となる置田蓮太を応援するよう、全力で学童全員に働きをかけると約束する。私は乙名にはならないし、目的は被らない。これでも私を敵なんて言うのかしら?」
蓮太は千毬の表情にどこかケダモノさを感じるも、理屈に違和感はない。
「念書は書いてもらうぞ?」
「何ならキスマークも押しとくけど?」
ー取引、成立。
次回2024/10/13(日) 18:00~「第1章・3幕 真意」を配信予定です。




