第6章・8幕 篭絡
今回の登場人物
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・星原敦彦 (ほしはらあつひこ)
黛村・北地区の変若水の乙名、満彦の長男。父の教えに従い、領民のため、民政に尽力することを目指す。父の盟友、東江家の長女を許嫁にするも、本人はあまり納得していない。
・缶 梅男 (ほとぎうめお)
黛村・北地区の変若水の乙名、星原満彦の軍事頭目で、副統括。しかし、領内の民の為の内政に尽力する彼とは対照的で、暴力で欲望を満たすタイプ。
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和都歴450年 8月7日 11時 黛村・変若水 缶梅男の家
星原敦彦は約束通り、缶梅男の家を訪れた。
「敦彦君か、よく来たね。さあ、どうぞ。」
梅男は敦彦を迎え入れると、客間へ案内する。
「まぁ、座ってくれ。」
「はい。で、大事な話というのは一体なんでしょう?」
敦彦が尋ねる。
「うむ。敦彦君の顔色が少し心配でね。何か悩みがあれば聞いてあげることくらいできないかと思ってね。」
「そんな。特にないですよ。」
「そうか。わかった。では逆に君に助けを求めている人が居るんだが、その人の力になってやって欲しいんだが、どうかね?」
「僕がですか?」
「実はもう現地で待たせてある。この鍵をもって行きなさい。谷川上流に違法の建築物があるんだが、そこは私が管理しているところでね。使用禁止の為、鍵を預かっている。」
「そんな所で誰に会えというのです?」
敦彦は少し怖くなった。
「まぁ行って貰えばわかる。君の為にも言ってから考えると良い。」
そう梅男が言うと、敦彦は俯く。
「花楓美薇という女性の悩みだ。それでも行かないのかね?」
「え?」
敦彦は顔色が変わる。
「ふ、君は正直だな。」
「どういうことなんです?」
「説明は彼女から聞いてくれるか?私は相談された。そして君と落ち合う場所を設けた。それだけだ。」
とにかく、敦彦は居ても立ってもいられず、梅男の言う谷川上流の建築物へ向かう。
和都歴450年 8月7日 12時 黛村・変若水 跳ね橋操作小屋
「ここは…跳ね橋?こんなものが?」
敦彦は目を疑うも小屋の中へ入る。
「敦彦さん?」
「美薇!」
梅男の言う通り、そこには美薇が居た。
花楓 美薇。黛村・北地区の変若水の乙名・星原満彦の侍女。家事全般から、いざとなれば刀を持ち、戦える万能な女性。貧相な服であるが、綺麗な長い髪と、美しい顔立ちの女性。
「君が悩んでいるから行けと缶さんに言われて急いで来た。一体どうしー」
敦彦の言葉を聞き終えず、美薇が敦彦の唇を奪う。
「ーん…!美薇?」
「…ご、ごめんなさい、私…」
「美薇…?もしかして君も…」
「…え?まさか…敦彦さんも…?」
何となく気持ちを確かめ合う2人。
「でも、敦彦さんには黄粉さんが…」
「違う!黄粉は…その…親父の顔を立てるために仕方なく…」
「…やっぱり…そうだったんですね。私も、敦彦さんが辛そうで。でも何もできなくて、一体どうしたらいいかと…そしたら缶さんが心配してくれて。」
「ここを教えてくれた?」
「はい。」
「…美薇、君が好きだ。」
「敦彦さん…私も…私も敦彦さんがー」
2人は言葉を交わし終えることなく、カラダで交じり合った。
雨は次第に強さを増し、2人の絡みも更に激しくなった。
和都歴450年 8月7日 13時 黛村・変若水 跳ね橋操作小屋
2人が横になりながら、雨の音を聞いていると、美薇が話始める。
「…敦彦さん?実はここを提供してくれた缶さんに、1つお願いされたの。」
「なんだい?」
「この先も、缶さんに色々協力してくれれば、私と敦彦さんの仲を取り持ってくれるって。」
「…協力?」
「具体的なお願いは敦彦さんにするから、私からも敦彦さんに2人の為にお願いしてと言われたの。」
「美薇…?」
美薇が寝返りを打ち、敦彦の顔を見る。
「私、ここで別れたらもう敦彦さんと…一緒になれない気がするの。」
美薇の顔はどこか哀しげだ。
「そんな!大丈夫。」
敦彦は美薇を抱きしめる。
「大丈夫。美薇の為に、缶さんには俺から話しておくよ。これからもここで、2人で会おう。」
「敦彦さん…」
2人は確かめるように抱きしめ合う。
敦彦には梅男の算段が何となく解った。
これが梅男の仕掛けた篭絡でも、美薇への気持ちは本当だという事、それが敦彦の答えだったのかもしれない。
和都歴450年 8月7日 17時 黛村・変若水 跳ね橋操作小屋
2人は小屋を出る準備を済まし、1本の傘で2人、帰路についた。
言葉を交わさない2人を、大降りになりゆく雨が、愛の有り様を描くかのようだった。
次回2025/4/24(木) 18:00~「第6章・9幕 徒恋」を配信予定です。




