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ケダモノたちよ  作者: 船橋新太郎
第6章・双子
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第6章・8幕 篭絡

今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢


・星原敦彦 (ほしはらあつひこ)

黛村・北地区の変若水の乙名、満彦の長男。父の教えに従い、領民のため、民政に尽力することを目指す。父の盟友、東江家の長女を許嫁にするも、本人はあまり納得していない。


・缶 梅男 (ほとぎうめお)

黛村・北地区の変若水の乙名、星原満彦の軍事頭目で、副統括。しかし、領内の民の為の内政に尽力する彼とは対照的で、暴力で欲望を満たすタイプ。


■ ▢ ■ ▢

和都歴450年 8月7日 11時 黛村・変若水 缶梅男の家


星原敦彦は約束通り、缶梅男の家を訪れた。

「敦彦君か、よく来たね。さあ、どうぞ。」

梅男は敦彦を迎え入れると、客間へ案内する。

「まぁ、座ってくれ。」

「はい。で、大事な話というのは一体なんでしょう?」

敦彦が尋ねる。

「うむ。敦彦君の顔色が少し心配でね。何か悩みがあれば聞いてあげることくらいできないかと思ってね。」

「そんな。特にないですよ。」

「そうか。わかった。では逆に君に助けを求めている人が居るんだが、その人の力になってやって欲しいんだが、どうかね?」

「僕がですか?」

「実はもう現地で待たせてある。この鍵をもって行きなさい。谷川上流に違法の建築物があるんだが、そこは私が管理しているところでね。使用禁止の為、鍵を預かっている。」

「そんな所で誰に会えというのです?」

敦彦は少し怖くなった。

「まぁ行って貰えばわかる。君の為にも言ってから考えると良い。」

そう梅男が言うと、敦彦は(うつむ)く。

花楓美薇(かえでびび)という女性の悩みだ。それでも行かないのかね?」

「え?」

敦彦は顔色が変わる。

「ふ、君は正直だな。」

「どういうことなんです?」

「説明は彼女から聞いてくれるか?私は相談された。そして君と落ち合う場所を設けた。それだけだ。」

とにかく、敦彦は居ても立ってもいられず、梅男の言う谷川上流の建築物へ向かう。


和都歴450年 8月7日 12時 黛村・変若水 跳ね橋操作小屋


「ここは…跳ね橋?こんなものが?」

敦彦は目を疑うも小屋の中へ入る。

「敦彦さん?」

「美薇!」

梅男の言う通り、そこには美薇が居た。

花楓 美薇(かえでびび)。黛村・北地区の変若水の乙名・星原満彦の侍女。家事全般から、いざとなれば刀を持ち、戦える万能な女性。貧相な服であるが、綺麗な長い髪と、美しい顔立ちの女性。


「君が悩んでいるから行けと缶さんに言われて急いで来た。一体どうしー」

敦彦の言葉を聞き終えず、美薇が敦彦の唇を奪う。

「ーん…!美薇?」

「…ご、ごめんなさい、私…」

「美薇…?もしかして君も…」

「…え?まさか…敦彦さんも…?」

何となく気持ちを確かめ合う2人。

「でも、敦彦さんには黄粉さんが…」

「違う!黄粉は…その…親父の顔を立てるために仕方なく…」

「…やっぱり…そうだったんですね。私も、敦彦さんが辛そうで。でも何もできなくて、一体どうしたらいいかと…そしたら缶さんが心配してくれて。」

「ここを教えてくれた?」

「はい。」

「…美薇、君が好きだ。」

「敦彦さん…私も…私も敦彦さんがー」

2人は言葉を交わし終えることなく、カラダで交じり合った。

雨は次第に強さを増し、2人の絡みも更に激しくなった。


和都歴450年 8月7日 13時 黛村・変若水 跳ね橋操作小屋


2人が横になりながら、雨の音を聞いていると、美薇が話始める。

「…敦彦さん?実はここを提供してくれた缶さんに、1つお願いされたの。」

「なんだい?」

「この先も、缶さんに色々協力してくれれば、私と敦彦さんの仲を取り持ってくれるって。」

「…協力?」

「具体的なお願いは敦彦さんにするから、私からも敦彦さんに2人の為にお願いしてと言われたの。」

「美薇…?」

美薇が寝返りを打ち、敦彦の顔を見る。

「私、ここで別れたらもう敦彦さんと…一緒になれない気がするの。」

美薇の顔はどこか哀しげだ。

「そんな!大丈夫。」

敦彦は美薇を抱きしめる。

「大丈夫。美薇の為に、缶さんには俺から話しておくよ。これからもここで、2人で会おう。」

「敦彦さん…」

2人は確かめるように抱きしめ合う。

敦彦には梅男の算段が何となく解った。

これが梅男の仕掛けた篭絡(ろうらく)でも、美薇への気持ちは本当だという事、それが敦彦の答えだったのかもしれない。


和都歴450年 8月7日 17時 黛村・変若水 跳ね橋操作小屋


2人は小屋を出る準備を済まし、1本の傘で2人、帰路についた。

言葉を交わさない2人を、大降りになりゆく雨が、愛の有り様を描くかのようだった。

次回2025/4/24(木) 18:00~「第6章・9幕 徒恋」を配信予定です。

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― 新着の感想 ―
缶は2人の仲を取り持つ代わりに何を求めるつもりなんでしょう?恐ろしい事態にですね。
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