第6章・9幕 徒恋
今回の登場人物
■ ▢ ■ ▢
◎星原家
・星原満彦 (ほしはらみつひこ)
黛村・北地区の変若水の乙名。領民のため、民政に尽力する。息子、敦彦、詠彦にもその流れを汲む様に教育してきた。暴力的な輩が多いこの地区を、その手腕で治めてきた。
・星原敦彦 (ほしはらあつひこ)
黛村・北地区の変若水の乙名、満彦の長男。父の教えに従い、領民のため、民政に尽力することを目指す。父の盟友、東江家の長女を許嫁にするも、本人はあまり納得していない。
・星原詠彦 (ほしはらよみひこ)
黛村・北地区の変若水の乙名、満彦の次男。敦彦と同じく、父の教えに従い、領民のため、民政に尽力することを目指す。父の盟友、東江家の次女を許嫁にする。
・東江 黄粉 (あがりえきなこ)
黛村・北地区の変若水の乙名・星原満彦の長男、星原敦彦の許嫁。能面の小面のような、顔に小太りな体系が、決して気品と美貌とは言えないまでも、性格も奔放で敦彦も対応に困る始末。
・花楓 美薇 (かえでびび)
黛村・北地区の変若水の乙名・星原満彦の侍女。家事全般から、いざとなれば刀を持ち、戦える万能な女性。貧相な服であるが、綺麗な長い髪と、美しい顔立ちの女性。
◎缶家
・缶 梅男 (ほとぎうめお)
黛村・北地区の変若水の乙名、星原満彦の軍事頭目で、副統括。しかし、領内の民の為の内政に尽力する彼とは対照的で、暴力で欲望を満たすタイプ。星原一家を打倒し、政権を奪うことを目論む。
・缶 杏 (ほとぎあん)
黛村・北地区の変若水の缶梅男の双子の娘で長女。狡猾で、弓の名手。父と同じ、暴力で支配、解決するタイプ。脚が露になった、黒と杏子色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う。
・缶 桃 (ほとぎもも)
黛村・北地区の変若水の缶梅男の双子の娘で次女。姉の杏にそっくりな顔立ちだか、それ以上に感情的で暴力的。姉と同じ、脚が露になった、黒と桃色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う。
■ ▢ ■ ▢
和都歴450年 8月7日 17時 黛村・変若水
敦彦と美薇は別れて家に帰る。
「じゃ、またね、美薇。」
「明日も会いたいわ。ダメ…かな?」
「わかった。15時にあの小屋で落ち合おう。」
2人はそこから依存し合うように会うことになる。
「ただいま。」
「敦彦さん、遅かったのね、どこへ行っていたの?」
「ああ、ちょっとね。黄粉さん、しばらく視察に送った忍者と定期的に会うことになろと思う。すまないけど、時々家を空けるからよろしく頼む。」
「あら、仕事熱心なのね。いいわ。私はこうやっていつも通りー」
「やめてくれ!」
「敦彦…さん?」
「あ、いや、ちょっと疲れてて。そういう気分になれないんだ。ゴメン。」
そういって寝込んでしまった。これもまた、当分こういう状態になった。
和都歴450年 8月14日 10時 黛村・変若水 星原の館
「敦彦が?」
「黄粉さんとうまくいってないみたいで。黄粉さん哀しんでいるらしい。」
満彦の耳に詠彦から情報が入る。
満彦は敦彦を呼び出すと早速、最近の様子の変貌ぶりを問い詰める。
その時、美薇も侍女として、その場にいた。
「どうした敦彦?最近黄粉さんに冷たいらしいじゃないか?夫婦になるんだ。もっと二人で話し合うとかしなさい。」
「…ええ。」
「お前のいう忍者に会う任務?そんなに時間が要るなら、詠彦にそれをやらせるさ。それでお前も黄粉さんと2人の時間が作れるだろう?」
「・・・」
俯く敦彦。もう敦彦の中に義理立てしても黄粉を1人の女としてすら見れない。忍者の任務なんて言うのも無論嘘だ。そんな姿を察した美薇。
「その任務なら、私が代わりに。一度お手伝いさせてもらったので。ね?敦彦さん?」
「あ、ああ。」
「そうか。そこまでやらせるのも…でもやりたかったのなら美薇に頼むとするよ。」
満彦は胸を撫で下ろす。
「敦彦、お前は黄粉さんとの仲に集中しろ!お前の役目だ。」
その後、否応なく黄粉との関係を深めざるを得なく、無論、美薇とも逢えることもなくなってしまった。
敦彦は落ち込むも、美薇はそっと廊下ですれ違い際に話をする。
「敦彦さん、私、敦彦さんを諦められない。」
「俺もだよ、でも、もう俺は黄粉と一緒になるしかないんだ…すまない、美薇。でも気持ちは忘れない。」
そういって敦彦は区切りをつけるような言葉を残して去っていった。
美薇に涙が溢れる。
雨も止むこともなく、一層雨粒がしっかりした雨へと変わっていく。美薇の涙のように。
和都歴450年 8月14日 20時 黛村・変若水 缶梅男の家
「ほぉ。敦彦君が?」
「はい。私もう見ていられません。」
美薇は二人のことを梅男に相談していた。
「彼も私に協力すると言ってくれたし、助けてやりたいが。黄粉さんの気持ちは変わらないのではどうにもならないな。」
「そうですよね…敦彦さんも、それが分かってきっと…」
美薇はまた泣き出してしまう。
「まぁ、事情は分かった。この話は預からせてくれ。何か力になれれば私も手を貸す。」
そういって美薇を安心させ、家へ帰した。
「ふぅ…まさかこんなにも二人が愛し合うとは。所詮は徒恋、哀れなものだな。」
梅男はポツリ独り言を言う。
「親父の狙いはこれか。」
奥から双子が出てきた。
「お前たち、聞いていたのか?」
「アッハハ!イイ人ぶって次期乙名を傀儡にしようっての?」
「お前らには関係ない。必要な殺しがあれば私から伝える。下手に出しゃばった真似をするな。」
梅男が二人を叱る。
「あら?ならこのまま次期乙名をどう飼いならすつもりなのさ?」
杏が尋ねる。
「黄粉さんを買収するさ。」
「買収?そう?…わかった。言いたいことは後にとっておくわ。でも一言言わせて?」
「なんだ?」
「マジな恋は金で動かないよ?」
「アッハハ!親父は女を分かってないね。」
「じゃあ、お前らならどうする?」
梅男が怒りながら反論する。
「そりゃ?」
桃が杏と顔を見合わせて、頷くと杏が続けて言う。
「❝障害❞は、排除するさ!」
同時に雨から雷鳴が轟く。
次回2025/4/26(土) 18:00~「第6章・10幕 諦念の条件」を配信予定です。
※4/26(土)~5/6(火)はGW・強化月間です。
期間中は毎日18:00に投稿致しますので、御期待下さい。