第6章・3幕 刻薄
今回の登場人物
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・缶 杏 (ほとぎあん)
謎の双子で長女。弓の名手らしき風貌。脚が露になった、黒と杏子色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う。
・缶 桃 (ほとぎもも)
謎の双子で次女。姉の杏にそっくりな顔立ちだか、それ以上に感情的で暴力的。姉と同じ、脚が露になった、黒と桃色のツートーンのチャイナドレスの様な、風変りな装束を纏う。
・黄田 八太郎 (きだはちたろう)
黄田組・組長。赤島会から副統括の神籬の監視を命令され、そこに一定の人員を割いている。昔気質の横柄な崩れ者で、狡猾。生き残るためには家すらも売る薄情さを持つ。
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ー 和都歴450年 8月6日 11時 神奈備・黄田組集会所
白粉の皮が剥がされ、殴られ、内臓を引き裂かれた死体が、柱に貼り付けになっていて、時折、ハゲワシやらカラスやらが啄みに来る。
「あーあ、儂らより惨いことしやがるなぁ…」
流石の黄田も首を振る。
「文句あんのかい爺さん。そもそも助けを乞うてきたのはアンタだろうが。」
桃が食って掛かる。
「あ、いや、別に…それより神奈備を制圧したら儂を沙汰人にして副統括にしてくれるんじゃろうな?」
「おいおい、まさか…なぁ?」
桃が半笑いで杏に顔を向ける。
「私らを信じてないのかい?」
杏が黄田に鋭い視線を向ける。
「ここまでヤッちまった以上、後に引けねぇ。赤島会はともかく、黄田組自体は終わっちまう。」
「アッハハ!爺さん帰る家ないもんな。だったら素直に従いな!」
「信じるぞ?」
「・・・ああ。元よりその約束じゃないか。」
杏の言葉を聞くと、黄田は集会所に向かって歩いていく。
双子が顔を合わせて不気味に微笑む。
「そういえば、爺さんが隠してる神籬は何処に居るのさ?」
杏が尋ねる。
「それは言えん。儂が沙汰人として副統括になったら、必要なことは儂から彼に伝える。」
「おいおい、そりゃ話がチゲェだろ?」
黄田の話に食い掛る桃。
「神籬を渡せば、儂を殺すんじゃろ?」
「んなわけねぇだろ!いいからさっさと教えな!」
桃が激昂し、黄田に掴み掛る。
「桃、ちっちっち・・・」
杏が止めに入る。
「杏?何で止めんのさ?」
「いいさ。」
杏が黄田を桃から引き離すと、黄田の服を上半身から整えて見せる。
「そうだよな?神籬ってオッサンは爺さんの謂わば切り札…だもんな?渡せるわけない。わかるよ。」
杏が丁寧に黄田の服を整えていく。一通り済むと襟元も整える。
「済まない、分かってくれ。」
「わかってるって。恐怖は誰も感じる。それに対する保険もバカじゃなきゃしっかりかけるよな?」
「済まないな・・・信用していないわけじゃなー」
「いーから!…謝るなよ。」
杏は最後に両肩を優しく叩く。
「でもよ?そのオッサンを私らが見つけちまったら…そういうことだからな?」
「アッハハ、やっぱ杏サイコーだね。だってよ爺さん、しっかり隠しとくんだね。」
この時、黄田は確信した。確かに最弱の黄田組には後がなく、縋る者がいなかった。
そんな時、黛村の変若水から売国の様な話がきた。
今更後悔できないが、自分もいつか殺される、そんな予感がしていた。
神籬を何故か双子が要求するものだから、きっと価値があると思った。
黄田はコレだと確信した。これがある限りは殺されない。そしてこちらの要求もある程度飲むと。
その代償は思いのほか高かったが。
そして、その切り札もー
「おい、爺さん。」
杏の言葉で黄田が我に返る。
「ん?な、なんじゃ?」
「変若水からまた100人兵を送るから、黄色の装束を用意しときな。」
「あ、ああ。わかった。助かるよ。」
「あと、私と桃は一度、変若水に帰って親父に報告する。」
「梅男さんにはいつ会わせてくれるんじゃ?」
「あ~そうだよな。それもなぁ?」
「アッハハ!」
また嫌な感じで二人が見る。
「まあ、いいわい、宜しく伝えてくれ。」
「そんなビビッて寂しいこと言うなよ?」
杏が黄田の後ろから顔を近づける。
「悪いようにはしないからよ?」
「・・・う・・」
「変若水も色々と立て込んでてさ。解決するまで他の奴を寄こすから、そいつに色々やってもらえ。」
杏がそう言うと、桃が急に黄田に寸止めシャドウボクシングをした。
「ひ!」
「アッハハ!」
黄田は失禁してしまった。
「爺さん、可愛いじゃないか?久々に感じてきちまうよ。」
嘲笑する桃と、愚弄する杏。
「なんなら、私らのケツを舐めるように付いてきなよ。そしたら親父に取り繕ってやるさ。」
そのまま二人は馬に乗って東に向かって去っていった。
黄田は呆然と刻薄な双子の後ろ姿をみて、しゃがみ込んでいた。
次回2025/4/6(日) 18:00~「 第6章・4幕 供養」を配信予定です。




